学園で人気なカーストトップの女友達の初恋相手が俺だとバレた。そして、彼女達から迫られるようになった。
楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】
プロローグ
(
私───
「ねぇ、君一人なの? ちょっとさ、俺達と一緒に遊ばない?」
小学校五年生ぐらいの頃。
その時、確か公園で友達と待ち合わせていると、中学生ぐらいの男数人が絡んできたの。
あの頃はナンパなんてこと、されたことはなかった。
だって、子供だし。年齢的に声をかけてくることはないと思ってたから。
確かに自分でも容姿は整っている自覚はあったけど、学年も年齢も違うのに声をかけてくるなんて普通は思わないよ。
「わ、私……友達と遊ぶ予定があって……」
「あ? いいじゃんいいじゃん、無視しちゃえばさ!」
「そうそう、今時歳上の人と遊ぶ方がかっこいいって!」
───怖かった。
嫌だって言っても帰ってくれなくて。それどころか、段々と背の高い人達が近づいてきて。
子供だったから、もう瞳から涙が浮かんじゃうぐらい怖くて仕方なくて。
でも───
「おいっ、困ってるだろ!」
───急に、彼は現れたの。
同い歳の、身長も絡んでくる男達よりも低い、小さな男の子。
私を庇うように割って入って、両手を広げてくれた。
「あ? 誰、お前?」
「困ってるじゃん! やめてあげなよ!」
「別に困らせてるわけじゃねぇよ……なぁ?」
尋ねる、っていうより脅してるかのような言葉。
私は怖くて、思わず体を震わせてしまう。
「どう見ても困ってるようにしか見えないけど!」
「……うっせーなぁー! お前はボールでも蹴って遊んでればいいんだよ!」
けど、体格差もあったから……中学生ぐらいの男の一人に突き飛ばされて、倒れ込んでしまった。
当たりどころが悪かったのか、頭からは血がいっぱい垂れていて。
「ひっ……!」
あまり見慣れない赤色。
痛そう……というのが明らかに分かるぐらい血が出ていて、私は思わず怯えてしまった。
でも、その子は───
「……だから、困ってるって言ってるじゃん」
痛いとも、怖いとも言わなかった。
ただただ両手を広げて、私を庇うために前へと立ってくれた。
「女の子を怖がらせてんじゃねぇよ……男だろうが」
───不謹慎だったと思う。
でも、怖いと思っていたはずなのに、どうしても胸が高鳴ってしまって。
目を背けたかったはずの背中から目が離せなくて。
(……これ、もしかして)
顔が熱くて、目が離せなくて。
私はクラスの皆が楽しそうに話している恋愛というものをしたことがなかったけど……多分、いや。絶対にそうだ。
「男なら、女の子を怖がらせるんじゃなくて守ってあげるべきだろうがッッッ!!!」
きっと、この
「……んで、その話を聞かされて俺はどういう反応をすればいいわけ?」
朝のホームルームが始まる前。教室が談笑の声で盛り上がっている頃。
目の前で頬杖をつく男の子は、私の話を聞いて小さく溜め息をついた。
「いいじゃん、別に。ちょっとぐらい私の話に付き合ってくれてもさー!」
「君が告白される度に聞いているがな」
「それぐらいしか言ってないじゃん!」
「少なくとも、今月に入って五回目だがな」
そう言って、いっくん───
「むぅ……いっくんのけちんぼ」
いっくんは私と同じクラスの男の子で、友達。
話すようになったのは、一年生の始めに隣の席になったことがきっかけだったかな? とにかく美しいものと可愛いものが大好き。男女問わずのアイドル系を眼福そうによく見てる。
別に顔とかは……普通? 私は好みの顔ではあるんだけど、友達が言うには普通ぐらいらしい。
勉強はいつも学年一位を取るぐらい。運動はいつも体育で目立つぐらいよくて、料理面も凄い。この前食べさせてもらったけどすっごく美味しかった……って、あれ? 改めて思うと、結構ハイスペック?
でも、こういう話に付き合ってくれないのはマイナスポイントかなぁ。
そんなんだから―――
「モテないんだよね」
「お前は頭の中でどういう一人語りをした結果、唐突に堂々と喧嘩を売れる発言が出たんだ?」
いっくんの額にくっきりと青筋が浮かぶ。ちょっと触ってみたい。
「あははっ! ごめんって、いっくん♪」
「待って、今の笑ってる顔もう一回。写真撮るから」
「なんで?」
「え? 俺の観賞用」
角度によってはかなり際どい発言を凄い素で返しやがった、こいつ。
まぁ、撮らしてあげるけど。
「いっくんって、本当に私の顔好きだねー」
「安心しろ、綾瀬の顔はマジで可愛い」
「……こ、この正直者さんめ」
こうも正直に言われると普通に照れそうになるんだけど……いっくんってこういうところあるんだよね。嫌いじゃないんだけど。
「でも、そういうところじゃないの? モテないのって」
「そりゃ、二年に入ってからまだ一ヶ月しか経ってないのにもう二桁も告白されてるカーストトップの美少女様に比べりゃ、平凡ポジの俺はモテない部類だろうよ」
「私、ちゃんと好きな人がいるって公言してるはずなんだけどなぁ」
「ビラでも作って貼っておくか?」
「普通にアリだって思った私がいる」
作る時は絶対に手伝わせよ。
「冷静に考えたら、二桁ってすげぇな……流石は学年のカーストトップ様」
「むっ……さっきからカーストトップ、カーストトップって、そんなことないのに」
「いやいや、普通にクラス問わずに友達もいっぱいいて、色んな男から告白されてる。あと、イベントの中心には大体綾瀬がいて、皆からの評価も高い。これがカーストトップと言わないでなんて言うわけ?」
確かに、友達は結構いる方だとは思うし、自分で言うのもなんだけど容姿も整っている方だって自覚はある。
でも―――
「……そうやって言われるの、なんか嫌い」
「……すまん、今のは俺が悪かった」
私が唇を尖らせると、いっくんは両手を上げて謝ってくれる。
ちゃんと、今のはからかいとは別だって気づいてくれたみたいだ。
「だが、綾瀬が人気者になってる理由はよく分かるけどな」
「まだ言うの?」
「だって、人当たりもよければ優しいし、誰かから頼られても嫌な顔一つしない。それに、この前クラスのやつに「勉強教えて」って言われた時、放課後残って教える部分の勉強してただろ?」
み、見られてたんだ……ちょっと恥ずかしい。
っていうか、さっきからなんか褒めすぎ―――
「そりゃ、皆も惹かれるよ。告白する男の気も分かる」
……そういえば、私が他の男の子よりもよくいっくんと一緒にいる理由ってここな気がする。
外見じゃなくて、しっかり中身を見てくれるところ。
悪いことは素直に非を認めて謝ってくれるし、自分が「見られてない」って思っている部分もしっかりと見てくれる。
佐久間伊織って男の子は、そういう子。
他の男の子に比べて話していても楽しいし、どこか安心する。
「私、いっくんのそういうとこ、好きだぜ♪」
「なっ!?」
「ふふっ、ドキッとしたかにゃ~?」
顔を真っ赤にする伊織に、思わずニヤけてしまう。
だからからか、私はつい楽しくなっていっくんの頬を指で突きながら顔を寄せた。
「自称平凡ポジの男の子くんには、美少女ちゃんからの「好き」ワードはちょっと刺激的だったー?」
「や、やめっ……近づいてくんな顔突くな……ッ!」
「でも、残念でした! 私の一番はあの初恋相手って決まってるしね~」
まぁ、正直外見やステータスほしさに告白してくる男の子よりかは、いっくんの方が魅力的なんだよね。告白してくる大抵がそんな子ばっかりだし。
いっくんみたいに中身をしっかり見てくれる人は中々いないよ。
そういう人が私の好みなのに……それこそ、赤の他人でも見返りなしに助けてくれる、とか。
「あーあ、早く会いたいなぁ……結局、あのあと「僕、病院行くから! 友達と楽しんでね!」って言ってどこか行っちゃったし」
私は初恋相手のことを思い出して、そのまま机に突っ伏してしまう。
「名前も聞けずじまいで、捜しても見つからなくて、なんだかんだ高校二年生になっちゃったし……」
「ま、まぁ……引っ越したかもしれないしな」
「結構傷も酷かったと思うから多分頭に傷があって、同い歳そうって情報じゃ難しいのは分かってるけどぉー」
それでも、やっぱりもう一回会いたい。
会ってお礼を言って、そして———
「ちゃんと好きです、って言いたい!」
このずっと抱き続けてきた想いを伝えるんだ。
助けてくれてありがとう、って。今までずっと好きでした、って言うの。
「そ、そうは言うが……実際に見つかったとして、綾瀬のお眼鏡に敵わなかったらどうするわけ?」
「はぁ? そんなことないけど!? 私の初恋相手はね……子供の頃、見ず知らずの女の子のために体を張れるようなかっこいい人なの。そんなの、成長しても超絶かっこよくなってるに決まってるじゃん!」
「か、彼女だっているかもしれないし……」
「そしたら諦める! けど、いなかったらマジ全力で好きになってもらえるようアピールする!」
あの時の初恋は簡単に忘れたり諦められたりするものじゃない。
他人にとっては些細なことかもしれないけど、私にとっては心が動かされるぐらいのものだったから。
そうじゃなきゃ、高校二年生になっても同じ想いを抱き続けてない。
「っていうかさ、前から思ってたんだけど……なんで、いっくんってこの話になるとちょっと挙動不審に―――」
『美柑、ちょっとこっち来てくんない? この髪型にしたいんだけど、皆できなくてー』
そう言いかけた時、教室の入り口にいる友達に声をかけられた。
「おっけー! ちょっと待ってねー!」
私は立ち上がり、その子のところに向かおうとする。
「あ、そうだ! 今日もいっくんの家行っていい? この前、マジで面白いアニメ見つけてさ、一緒に見よーよ!」
「お、おぅ……大丈夫」
「そっか、楽しみにしてる♪」
いっくんとは趣味も合うし、気軽に話せる。
だからからか、予定が決まったことにどうしてか気分がよくなってしまった。
って、昨日もいっくんの家に行ったんだけどね。
(ふふっ、放課後楽しみだなぁ)
なんてことを思いながら、私は軽くなった足取りで友達のところに向かった。
一人の俺とは違い、楽しそうに女子のグループに入っていった綾瀬。
その背中を見て―――
(マジでどうすっかなぁ……)
俺は思わず頭に残っている傷を搔きながら、どうにか早くなった鼓動を抑えようとするのであった。
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次話は18時過ぎに更新!
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