美少女と美少女
クラスに校内だけでなく世間でも有名な女の子がやって来た。
その足を進めた先に自分がいるせいで、視線が痛いのなんの。
とはいえ、綾瀬と仲良くし始めた時も似たような視線を浴びた経験が、俺にはある。
ここは堂々と、周囲の視線を無視して───
「ん?」
そう思っていると、またしてもスマホが震える。
画面を開くと、どうやら以前クラス内の男子で作ったグループからの通知であった。
『アトデ、セツメイシロ』
『ハナシ、キカセロ』
『コッチ、ムケ』
俺はそっとスマホの画面を閉じた。
「……返信、しなくていいの?」
「多分大丈夫だ」
明日の俺がどうなるかは分からないが、今のところは返信しなくてもいいだろう。
明日のことを心配するよりも───
「な、なんであの来夏ちゃんがここに……ッ!? ってか、いっくんのお家の行きたいって……!?」
───目の前でワナワナ震え始めた綾瀬の方が心配だ。
「いっくんに、私以外にまともに話せる女の子の知り合いがいたなんて……ッ!」
しかし、その心配もすぐに
「(待ってよ、これ想定外だよ……正直、いっくん女っ気ないから私の一人独壇場だと思ってたのに、相手が超ド級のボスキャラですか!? で、でも単なる知り合いって可能性もあるわけでして、付き合いの長さは私の方が上だと信じたい……そもそも、来夏ちゃんと話せる機会がなかったし、これを機にお喋りして仲良くもなりたい私がいる……!)」
何やらブツブツと忙しない綾瀬。
とりあえずさっき失礼なことを言っていたような気がするので、俺は放置して東堂に向き直った。
「んで、一緒に観たいって?」
「……うん、今日はオフだから」
今絶賛人気急上昇中の若手女優が我が家に来るとなると、少し緊張してしまう。
同級生……というより、女の子家にあげること自体には抵抗はないんだが、いかんせんネームが強すぎる。
それに───
「綾瀬の許可が必要でなぁー」
「……ん、許可もらう」
そう言って東堂は俺から視線を外し、綾瀬へ向き直った。
しかし、綾瀬は綾瀬で大変忙しいらしく、腕を組んで酷く唸るような表情をして彼方へ視線を向けていた。
「ん〜〜〜〜……………………ッ!」
「ちなみに、これはどんな心境なんだ?」
「……多分「本当は二人きりがいいけど、あまり話したことのない来夏ちゃんとも話してみたい……来たいって言ってるのを断るのも可哀想だし……!」的な心境かと思われ」
「なるほど」
東堂といると隠し事ができないな、と思った。
「よ、よしっ! 来夏ちゃん、来いやァ!」
少しして、葛藤の末自分の中で結論がでたのか。
スポコンと見紛うほどの気合いを入れて、綾瀬は拳を握った。ただ俺の部屋でアニメを観るだけなのに。
「いいのか?」
「うんっ! 切り替えの速さが私の売りだもんね!」
何から何に切り替えたのか気になるところだ。
「……ちょっとこっち来て」
そして一方で、東堂は東堂で何かを思ったのか。
唐突に綾瀬の服を引っ張り、少し離れた場所まで連れて行く。
「(……自分で言うのもなんだけど、本当にいいの?)」
「(いいよ、別に! そりゃ、いっくんと二人きりというシチュエーションで果敢に攻めたかったけど……来夏ちゃんと仲良くしたいとは前々から思ってたし)」
「(……嬉しい、綾瀬はいい人)」
「(っていうか、いつの間にいっくんと仲良くなったの?)」
「(……昔から、仲がよかった)」
「(ふぅーん)」
せめて俺もヒソヒソ話に参加させてほしいものだ。
二人がいないと、壁がなくてただただ視線が突き刺さるだけだし。あと、さっきからスマホが震えっぱなしで少し怖い。
「(……そういえば、菓子折り買って行った方がいい?)」
「(大丈夫だよ、来夏ちゃんなら写真撮らせてあげればいっくん喜ぶし)」
「(……そういえば、写真撮られた)」
「(いっくんは、綺麗可愛いに目がないからなぁ……部屋だって、男女関係なくアイドルのポスターびっしりだから)」
「(……驚き)」
そろそろいい加減、帰ってきてほしい。
「いっくん、お待たせー!」
なんてことを思っていると、ようやく二人が帰ってくる。
そして、二人して俺の腕を掴んできて───
「あの、自分で普通に歩け「んじゃ、レッツゴー!」、「……おー」るんだが……」
俺の主張も無視して、教室の出口に向かって歩き出した。
もしかして、このまま校門まで向かうのだろうか? 是非ともやめてほしい、注目を浴びるどころの騒ぎではなくなるから。
───そういうわけで、俺は二人の手から腕を振り抜こうとする。
「……逃がさない」
「いっくん、あとで二人の写真を撮らせてあげるから」
大人しくしておこう。
「そういえば、なんで来夏ちゃんはいっくんの家でアニメ観たいの?」
「……勉強教えてもらうって約束がなくなったから」
「別日やオンラインは普通に検討してたぞ?」
「……あと、最近の若者の話題というのを学びたい」
あまりクラスメイトとの交流もないと言っていたのを思い出す。
確かに、いつも大人と絡みのある綾瀬が、同年代との交流が少なければ今時の若者の流行りなど掴みにくいだろう。
ただ、その言葉に俺は思わず綾瀬と顔を見合わせてしまう。
何せ───
「『ぬるぬる☆乙女!』だけどいいのか?」
「……なんだって?」
困ったな、とても最近の若者の流行りを学べるとは思えないんだが。
「大丈夫、ちゃんと純愛もののラブコメだから!」
「あぁ、特に刺殺したあとに流す涙と、殴殺未遂に発覚した想いが明かされた時はグッときたな」
「……ごめん、聞こえてくるワードがバイオレンスなサスペンスにしか思えない」
まぁ、タイトル詐欺も甚だしいと思うのはよく分かる。
よくもまぁ、こんな作品が全120話も作れたものだ。
「……でも、楽しみ。同級生とお家で遊ぶの、初めてだから」
腕を引っ張りながら、口元を緩める東堂。
一方で、綾瀬も綾瀬で仲良くしてみたかった同級生が来るからか、いつも以上に笑顔が浮かんでいた。
そんな二人の「楽しみ」だと分かる表情を見て、俺も思わず笑ってしまった。
(なんの意図があるかは分からんが……まぁ、綾瀬と東堂が楽しそうならいいか)
明日、酷い質問攻めに合うだろうけど。
なんてことを思いながら、俺は二人に引っ張られながら廊下を歩くのであった。
「そういえば、さっき友達からナース服とバニーさんの服借りたんだよねー」
「……なんだって?」
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