誤解を生む発言
なんとか浴室から出て、互いに着替え終わった頃。
チャイムがちょうどよく鳴ったので、とりあえず急いで玄関を開けることに。
すると───
「お久しぶりです、佐久間さん♪」
「……はい?」
遅れると言っていた東堂がようやくやって来たのかな? なんて気持ちとは裏腹に。
玄関を開けた先には、どうしてか「お久しぶり」ワードを即座に否定したくなるようなお嬢様の姿があった。
ちなみに、横にはちゃんとふくれっ面な東堂の姿も……なんでふくれっ面?
「あれ、柊夜ちゃんも来てるの?」
俺が色々不思議に思っていると、俺のシャツとハーフパンツに着替えた綾瀬がひょこっと後ろから顔を出す。
「こんにちは、綾瀬さん」
「ん? 二人は知り合いか?」
「うん、柊夜ちゃんのクラスに行った時にたまたまお話したことがあって、今はちょくちょく遊ぶぐらいの知り合い!」
それはもう知り合いから友達にグレードアップしてもいいんじゃないだろうか?
「……綾瀬は本当に友達多いなぁ」
「ふふんっ! 社交力、人脈、顔のよさが売りなのですどやぁ!」
なんだろう、このどやぁな顔を是非とも写真に「撮っていいよ」ありがとう。
「佐久間さん、佐久間さん」
俺がドヤ顔な綾瀬を撮れてご満悦に浸っていると、不意に袖口を引っ張られる。
そして───
「私の写真も、一枚いかがですか?」
「へっ!?」
「……ッ!?」
西条院の発言に、後ろにいる綾瀬と横にいる東堂が驚いたような顔を見せる。
二人も撮らせてくれるのに、どうしたというのだろうか? しかしながら、それよりもご許可がいただけたのなら是非お写真を……ッ!
「……むすぅー。西条院、早く中に入るべき。ここ、玄関先」
だが、驚いていた東堂が再び頬を膨らませ、西条院の背中を押したことで中断されられる。
「……佐久間は、私に勉強を教えてくれるんだから。邪魔するなら帰って」
「あら、私も教えるつもりですよ?」
「……佐久間と綾瀬が教えてくれるって言ったじゃん」
「ほら、そこは三人寄れば文殊の知恵と言いますし」
「……下心満載のクセに」
「ふふっ、ノーコメントです♪」
ふむ……なんか話が見えてきたぞ。
恐らく、東堂から今日俺の家で勉強会を開くということで、西条院も一緒に教えようと名乗り出たのだろう。
何せ、どうしてかは言わないが、東堂の成績は心配してしまうほど。
知り合いとはいえ、そんな女の子を放っておけはしない───
「……東堂、勉強頑張ろうな」
「……そのさめざめと流す涙は勘違い甚だしい」
是非とも、三人体制で彼女の成績をアップさせなければ。
「うーん、よく分かんないけど……柊夜ちゃんは来夏ちゃんの知り合いで、一緒に勉強教えるって認識でおけ?」
「はい、その通りです♪」
「……不本意ながら」
「そっかそっか! 賑やかな勉強会になりそうだねぇ……ってことで、あがってあがって!」
そう言って、我が家ですらない女の子が我が家にあがるよう促す。
それに続いて「お邪魔します」と、二人は靴を脱いであがっていく。
「あの、突然ご訪問して申し訳ございません」
靴を脱いだタイミングで、西条院が口にする。
「お邪魔、でしたか?」
「いいや、別に。びっくりはしたけど、今日は泊まり込みの仕事で親いないからリビング使い放題だし」
それに、三人もいれば互いにカバーできてより一層勉強も捗るだろう。
綾瀬も英語が苦手だって言ってたし、そっちを教えている間に見てもらうことができる。
「ありがとうございます、佐久間さん」
「いいってことよ」
「ちなみに、もう一つお窺いしたいことがあるのですが───」
ピタリと、西条院の足が止まる。
「何故、お二人共お風呂上がりなのでしょうか?」
ピタリと、今度は全員の足が止まった。
「と、ととととととととととととととと特に深い理由はないぞ!? なぁ、綾瀬!?」
確かに、深い理由はない。
単にコーラを被って気持ち悪くなったから風呂に入っただけ。
ただ、問題は二人別々ではなく一緒に入ったということ。
付き合ってもいない男女が同じ浴槽に浸かったとなると、色々誤解を生んでしまう恐れが……ッ!
(だからこそ、是非ともここは話題を逸らし、ボロが出る前に追求を避けなければッ!)
即座に俺は綾瀬にアイコンタクトを送る。
すると、先程まで恥ずかしがっていたお嬢さんはしっかりと頷き、ほんのりと頬を朱に染めて───
「深い意味はないけど、深い関係にはなったかにゃぁ〜?」
「「ッッ!!??」」
「うぉい!? なんば言っとっと!?」
まだ童貞なのに、その発言は誤解しか生まないのでは!?
あれ、アイコンタクトはどこにいったの!? 長い付き合いのお友達だから理解してくれたんじゃないの!?
特に今回は発端が事故でも一緒に入った経緯が事故じゃないから弁明がかなり難しいというのに……ッ!
「あれ、違うのいっくん?」
「違わないけど、もっとストレートに言ってくれない!? これじゃあ、勘違いされるぞ普通に!?」
「じゃあ、一緒にお風呂───」
「お嬢さんそれ以上は言わせないよお口チャックだッッッ!!!」
俺は慌てて別の方向をストレートに言いやがりそうになった綾瀬の口を塞ぐ。
柔らかな唇の感触が手のひらに伝わるが、それよりも驚いて……いや、何故か目が据わり始めた二人に向かって弁明する。
「勘違いしないでくれ、二人共! 誤解なんだ!」
「「……ここは一階(ですよ)」」
ちくしょう、ダメだ! クソほどしょうもないボケをするぐらい話を聞く気が感じられないッ!
「これはこれは……ふふっ、随分と面白い結果になりましたね」
「……綾瀬は本当に油断ができない」
「落ち着け! 俺はまだ童貞だ!」
「いっくん、女の子しかいない空間で胸張った童貞発言は、角度によってはセクハラになると思うの」
「お前が含みのあるような言い方をしたんだろ!?」
───結局、二人に「何もやましいことはなかった」と納得してもらうのに、十分ほど時間を要した。
そして、誤解を生ませようとした綾瀬にはデコピンと学食一回分を奢らせることにした。
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