大好き
(※美柑視点)
「もぉ……いっくん、どこ行ったの?」
お昼休憩が終わり、そろそろ午後の部が始まる。
にもかかわらず、いっくんは「なんか親父が来てるっぽいので追い出してきます」とか言ってくれるどっか行っちゃった。
確かに、午後の部最初は応援合戦。
いっくんの出る種目じゃないから、ゆっくりしてもいいっていうのは分かってるけど───
(……いっくん、応援合戦の服見たいって言うから気合い入れたのに)
せっかく、恥ずかしいのをちょっと我慢してチアガールの服着たんだけどなぁ。着てるの少ないんだぞ、応援合戦の服にチアガール着る人なんて。任意制だし。
まぁ、なんか柊夜ちゃんも来夏ちゃんもいっくんがチアガールの服好きだって教えたら速攻で着替え始めたけども。
早く見つけて、いっくんに一番に見てもらいたい。
(だって、もう見てもらえるのはいっくんしかいないんだから……)
そう思って、私はいっくんを捜していたんだけど───
(う、嘘……いっくんと、お父さん達……なんで!?)
校門の近く。
そこで、いっくんとお父さん達が何かを話している姿を見つけた。
咄嗟に近くの物陰に隠れてしまったのは……自分でもよく分からない。
お母さん達に会うのが気まづいからか、それとも何話しているのか気になったのか。
分からないけど───
『あなたが美柑からどんなことを聞いたのかは知らないけど、こっちはこっちで事情があるの』
『…………』
『美柑には申し訳ないけど、あなたも子供じゃないんだから大人の事情を察してほしいわ』
……そういう話か、とは思った。
いっくんがお母さん達を引き留めようとしてくれて、お母さん達はそれを拒んでる。
(いっくんには、ほんとなんでもお見通しされて辛いなぁ)
どうして分かるんだろう、って。そんな顔に出てたかな、って。
来夏ちゃんもそうだけど、いっくんもズルい。
そんなの、もう隠したくても隠せないじゃん。
……うん、でもね。
それでも───
(……やっぱり、ダメなんだ)
私はその場にしゃがみ、顔を隠すように膝を抱える。
(私、何やってんだろ)
別に、お母さん達が仕事で帰らなきゃいけないのは分かってた。
私のイベントよりも仕事が優先なのは当たり前だし、自分の中で「仕方ない」で終わらせたはずなのに。
どうしても、改めて聞くと悲しくなってくる。
(多分、最後の……)
三人で、最後の思い出作りなはずだから。
そう気づいてしまったからこそ、どうしても胸が苦しくなる。
(……戻ろ)
今、間に割って入ってもどんな顔したらいいか分からないし。
せめて、いっくんの前ではいつも通りの笑顔でいられるよう気持ちを切り替えておこう。
また心配されちゃう。来夏ちゃんにも、気を遣われちゃう。
そう思って、私は腰を上げ───
『お願いします……今日だけは、綾瀬のお願いを最後まで聞いていただけないでしょうか』
───ようとした時、いっくんが何故か頭を下げた。
(い、いっくん……?)
頭の中に、色々と疑問が浮かび上がる。
なんで、頭を下げたの?
なんで、いっくんがそんなこと言うの?
だって、いっくんには関係ないんだよ? 私の家の問題で、私の気持ちの問題なのに。
わざわざ、いっくんが公共の場で赤の他人に頭を下げる必要なんてない。
(……上げさせないと)
いっくんに、私の問題で頭を下げさせちゃダメだ。
なのに───
『綾瀬は、誰から見ても優しい女の子です』
腰が上がらなかった。
「〜〜〜ッ!?」
どうしてか、いっくんの言葉に体が固まってしまった。
『明るくて、奔放な一面もありますが、彼女は人一倍繊細な女の子だと思います』
上げようとしていた腰は、動かない。
それどころか、もう一度その場にへたりこんでしまった。
(……えっ?)
いっくんは、どうしてこんなことを言うんだろう?
……遠目からでも分かる。
何かを訴えようと、引き下がれないと。
酷く真剣に、お母さん達に伝えてくれている。
『……お二人に、今どんな状況があってどんな問題を抱えているのかは、僕が何を知っていようが口に出す権利がないのは重々承知しております』
流石に分かる。
いっくんが、私のために言ってくれているっていうことは。
だから……本当に、私は最低だと思う。
『僕は、お二人よりも綾瀬の味方です』
だって、どうしようもなく私の心臓が激しく高鳴っているんだから。
『普段、誰かが本当に困るようなことを言わない綾瀬が二人にお願いしたというのであれば……それなりに理由があると思うから』
ダメだ。
少なくとも今は、こんなこと思っちゃダメだ。
(いっくん……)
勝手に瞳から涙が零れてくる。
それでも、気持ちに反して体はちっとも言うこと聞いてくれない。
これから皆の前に出るっていうのに涙は出るし、いっくんが私のために頭を下げてくれているのに心臓はうるさく高鳴るし。
『本当に、赤の他人が何言ってんだって思うかもしれませんが……』
でも、仕方ないって思う自分もいる。
だって───
『俺の大事な人が悲しむようなこと、しないでください』
こんなことを、私のために……私を想って、言ってくれるんだから。
(仕方ない……本当に、仕方ないんだ……ッ!)
顔の火照り治まらない。
心臓も本当にうるさいし、もういっくん達の会話だって不思議と聞こえてこない。
通り過ぎる人達が、蹲って膝を抱えている私を見てどう思ってるか分からない。
それでも動けなくて。
潤んだ瞳から涙がボロボロ流れてきてて。
少し、だけだと思う。
自分の中ではほんの少しだけ、膝に顔を埋めていた。
そのはずなのに───
「なんで、綾瀬がここにいんの?」
───いっくんは、何故か私の横にいた。
見慣れているはずの、彼の顔。
心配そうに見つめてくる、優しい瞳。
顔を上げた瞬間、それらが視界いっぱいに迫ってきて、
(あぁ……)
本当に、仕方ない。
仕方ないんだよ。
「ねぇ、いっくん」
「ん?」
「キス、していい……?」
「…………Why?」
だって、あんなことを私のために言ってくれるんだから……どうしようもないよ。
(本当に……私は、いっくんが───)
───どうしようもないぐらい、大好き。
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