初恋相手だとバレた
綾瀬が家に来ることはよくあった。
もちろん、やましいことなどなく、ただただ普通の友達として一緒にアニメを見たり、推しのKーPOPのライブを視聴したり、だらだらゲームや漫画を読んだり。
夢中になりすぎて時間が遅くなったら夕飯を一緒に食べて───と、それなりに友達としての楽しい時間を過ごすのがいつものスタイル。
そして、今日は───
「頭を出せ」
到着開口一番に、頭の差し出しを要求された。
「あ、あの……綾瀬、さん?」
俺の部屋のベッドで足を組む綾瀬に、おずおずと手を上げる。
普段は活発で明るい子なのに、今の冷え切った視線で正座している俺を見下ろす姿はなんというか……新鮮である。
やはりどの角度からでも造形美の整っている女の子だからか、こういった毒のある姿でも絵になるの一言でして。
「写真……いいっすか?」
「よくこの状況でも撮ろうとしたね」
だって、普段中々お目にかかれないし……。
「一枚だけなら許す」
しかし、それでも許可が下りた。とても嬉しい。
「……で、改めて聞くけどさ。なんでいっくんは小学五年生の時の話だって知ってるの?」
俺が撮り終わってから(※待ってくれた)、綾瀬は鋭い瞳でこちらを見据える。
その瞳を受けて、俺は思わず背筋を伸ばして思考を回す───
(……さて、どうすべきか)
まず、「言いたくない」というのが前提としてある。
綾瀬が俺のことを過大評価している、勘違いかもしれない、いまさら切り出すのに抵抗がある、という理由だ。
故に、まず取れる選択肢の一つとして「実は昔自分から言っていた」と誤魔化す方向。
綾瀬は誰かから告白される度に初恋相手のことを思い出してしまうらしく、語られた回数は友達になった時から合わせて数十回は越えている。
そのため、どこかで一回言ったとしてもおかしくはない。誤魔化せる可能性がある。
(ただ、その方向で進もうとした際……仮にすべて覚えていたら火に油、言い逃れはできない)
二つ目の選択肢は、正直に話す方向。
素直に非を認め、黙っていたことを正直に話せば、すでにアウトな気がしなくもないが、まだ傷は浅いかもしれない。
かなりダメージを負う覚悟を持つ必要はあるが、安全に話を進めるのであればこの選択がベスト。
言わば、保身に走ってギャンブルをかますか、傷を負ってできるだけ最小限に───
「正直に言わないと、いっくん嫌いになる」
「実は小学五年生の時に女の子を助けたことがありますッッッ!!!」
保身なんて知ったことか。
嫌われるぐらいなら、土下座して謝罪した方がいいに決まってる。
「……そう」
俺がしっかりと冷たいフローリングに頭をつけていると、足で肩を突かれた。
気になって恐る恐る顔をあげると、綾瀬は自分の座っているベッドの下を不機嫌そうに指さした。
……恐らく、前に座れってことだろう。
ここで逆らって余計に機嫌を損ねるわけにはいかず、大人しく綾瀬の足に挟まるように腰を下ろした。ちゃんとスカートの中を覗かないように背中を向けて。
すると───
「動かないで」
小さな手が、俺の頭に添えられた。
そして、何かを探すように頭を弄り始め……やがて、女の子を助けた時にできた傷へ指が触れた。
「……ねぇ、いっくん。なんで黙ってたの? 反応的に、前々から察してたでしょ?」
「あ、挙げればキリがないと言いますか……その、綾瀬が結構俺のこと過大評価してたから……」
「から?」
「その、落胆されるんじゃないかって……あと、昔のことをわざわざ恩着せがましく言いたくなくて……」
あとは単純に、男の見栄だったかもしれない。
自慢げに「俺が助けた!」って言うよりも、黙っていた方がかっこいいとか、気恥しいとか。
余計に言い難かったのは、綾瀬が初っ端から「好きだ!」と公言していたからだろう。
それに───
「あの時は、自分でも当たり前のことをしただけだし……その程度で、今の綾瀬に「好き」って決めつけてほしくなかったんだよ」
正義感に溢れていなくても、女の子が絡まれていたら助けたいと思うのが当たり前だ。
なのに、その一時の恩のために自分の感情を決めつけてほしくはない。
何せ、昔は昔。もしかしたら、これから綾瀬はいい人が見つかるかもしれない。
初恋相手として俺が現れたら、そんな現れる可能性があるいい人との関係を止めてしまう恐れがある。
「だから言えなかったというか……でも、ごめん。俺が悪かった」
顔は見えないが、俺は頭を触られながら素直に謝罪する。
「いっくん、こっち座って」
今度は、綾瀬が自分の横へ手を置いた。
黙っていて非があるのはこっち。その罪悪感から、次も大人しく従うことに。
すると───
「ばーかっ」
───綾瀬がいきなり、俺の肩を掴んでそのままベッドへ押し倒してきた。
「……は?」
突然のことに、思わず呆けてしまう。
それだけじゃない。長い艶やかな金髪が垂れ、そこから覗く端麗な顔が眼前に近づいてきたことにより、心臓の鼓動が一気に速くなる。
「落胆? するわけないじゃん……私がどうしていっくんと仲良くしてると思ってるの?」
しかし、綾瀬は。
俺のことなどお構いなしに、言葉を捲し立てる。
「っていうか、妙に納得したよ。いっくんってそういう男の子だったよね……逆に私がなんで気づかなかったのかとか、今思えば単純だとかチョロいとか色々こっちに非があるような気がしなくもない」
「え、えーっと……綾瀬、さん?」
「まぁ、でも黙ってたのはちょっと悲しかったし、ぶっちゃけ腹が立つ部分もあるけど……あーっ、もうっ! なんていうかなー! でも、これだけは言わせて!」
その時、ようやく気がついた。
あからさまだったはずなのに、綺麗で可愛らしい顔が近づいてきたから、気がつかなかった。
綾瀬の顔が……酷く真っ赤に染まっていたことに。
そして───
「いっくん、ありがと……あの時、私を助けてくれて」
クラスのカーストトップな
そんな子が、誰もが見蕩れるような笑みを浮かべて、
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