ご飯を食べて
───それからしばらく。
西条院のために少しばかり栄養価を気にしつつ料理を作り終え、綺麗に完食。
皆一様に腹が膨れたからか、満足そうな顔を浮かべて食卓に座っていた。
「……美味だった」
そう言って、お腹をさすって満足そうな顔を見せる東堂。
クールな彼女がだらけている姿は、非常にギャップがあって可愛らしい。
是非とも写真を一枚───
「……撮ってもいいよ」
ありがとう。
「……分かってはいましたが、佐久間さんは見境なく撮られますね」
「いっくんは、本当に美形に目がないからねぇ」
「自慢じゃないが、スマホは容量と画質を重視して購入している」
「拝みたい執念は購入材料になるのですか」
なるほど、と。
何やら考え込み始めた西条院。
そして、色々悩んだ末───
「……まぁ、これから私の写真が占領していくのであれば、別に構いませんね」
「待って、何を構おうか悩んだんだ?」
ただスマホの購入基準を話しただけなのに。
「……それより、佐久間は噂通り料理が上手。将来の夢が料理人でもおかしくない」
東堂が空になった食器をマジマジと見つめる。
そこまで直球に褒められると、少しばかり照れくさく感じてしまう。
「……そんな大したもの、作ってないだろ?」
「……じゃあ、今日のラインナップを言ってみて」
「鶏そぼろと春雨の濃厚白湯鍋とかぼちゃの白胡麻あえ」
「……どこが、大したものじゃないって?」
「しっかりと栄養バランスの取れた献立ですよね」
「いっくん、冷蔵庫の中身だけを見て作れる人なんだから胸を張りなさい」
いや、予め作るものは決めて材料は買ったんだが……まぁ、かぼちゃが余っていたから作った一品もあるけども。
とはいえ、何故俺は女の子三人からジト目を向けられているのか? さっきまで褒められていたというのに。
「(これは、佐久間さんよりも稼がないといけないというプレッシャーが発生しますね……)」
「(……はたして、今から女子力を磨いて追いつけるかどうか)」
「(いっくんのスペック高さがそのまま私達のハードルを上げている……ッ!)」
そして、何やら三人はヒソヒソと話し始めた。
仲がいいのはよろしいことだが、是非とも俺も交ぜてほしい。寂しい。
「あら、もうそろそろ時間ですね」
ヒソヒソと話していた西条院が、ふとスマホをポケットから取り出す。
恐らく、誰かからメッセージが飛んできたのだろう。
「帰るタイミングは連絡すると申しましたのに……」
「ん? 迎えが来たのか?」
「はい、もう運転手が車で佐久間さんのご自宅の前まで来ているみたいです」
流石はお嬢様。両親の送迎ではなく専門の人がやって来るなんて。
「佐久間さん、今から片付けをさせていただいてもよろしいでしょうか? 流石にご相伴に預かったにもかかわらず、何もしないのは───」
「いいよ別に、迎えが来てるんなら待たせるのもなんだろ」
「……佐久間さんにはお世話になってばかりです」
ありがとうございます、と。そう言って西条院は立ち上がり、リビングに置いてある自分のカバンと東堂のカバンまで手に取った。
その行動に、ぐでーっとしている東堂は首を傾げる。
「……私も?」
「あなたは家が遠いでしょう? 家まで送って差し上げますので、帰りますよ」
「……私、まだ佐久間と一緒にいたい」
「芸能人が夜遅く闊歩したら危ないです。私だって、残れるなら残りたいんですから」
知り合いよりもお母さんみたいな。
文句を垂れる東堂立ち上がらせると、今度は綾瀬へと視線を向けた。
「綾瀬さんもお送りしましょうか?」
「ううん、私はいいよー! いっくんの片付け手伝いたいし、私は来夏ちゃんと違って隣駅でお家も駅近だからねー! それに、今日はちょっと一人で帰りたいんだ」
「ですが、夜道は危ないですよ? 暗くなっていますし、綾瀬さんはとても可愛らしいので余計に危ないかと……」
ただただ心配そうな表情を見せ、西条院は意見を求めるように俺を見る。
別に皿洗いをやってもらうよりも、女の子だし送ってもらえるならそうした方がいいとは思うが───
「まぁ、今日はちゃんと俺が家まで送るから安心してくれ」
「……失礼しました。そういうことなら、あまり無理を言うわけにはいきませんね」
カバンを手に取った西条院は、そのまま東堂の腕を引いて玄関まで向かう。
俺も綾瀬も、見送るために一緒について行き───
「本日はありがとうございました、佐久間さん。綾瀬さんも、また今度ゆっくりお話しましょう」
「……ばいばい、またね」
「おう」
「ばいばーい!」
靴を履き替えた二人は、頭を下げてそのまま玄関扉を開く。
開いた先には黒い外車が停まっており、改めて西条院の家のレベルの高さに思わず苦笑いしてしまった。
「じゃ、私達もちゃっちゃとお片付けしよーかっ!」
綾瀬は大きく背伸びをし、二人を見送ったあとにリビングへと向かう。
そして───
「なぁ、綾瀬」
───俺は、リビングへ向かう綾瀬の手を取った。
「ふぇっ? どうしたの、いっくん?」
「……いや、やっぱり気になって……というより、どうしても心配でさ」
不思議がる綾瀬。
そんな綾瀬に、俺はきっぱりと言い放った。
「お前、やっぱりなんかあっただろ?」
ピクり、と。綾瀬の体が少し跳ねる。
すると、少しばかり逡巡したあと、諦めに似たような表情を見せた。
「あははは……そんなに分かりやすかった? 来夏ちゃんにも言われたし、いっくんにはすぐに勘づかれたし……いつも通りにしようって頑張ったんだけどなぁ」
しかし、それもすぐに終わり。
手を取った俺へとグッと顔を近づけてくる。
「ねぇ、いっくん……」
端麗な顔立ちが眼前に迫る中、透き通った瞳がどうしてか揺れているように思える。
その証拠に、縋るような言葉が桜色の唇から紡がれた。
「今日、いっくんのお家に泊まらせて?」
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