第46話 飛龍

 数日後、塁は足利直義の軍に加わり、次々と戦いをこなしていた。梨花の支えや、仲間たちとの絆によって、彼はこの時代での生活に少しずつ慣れていった。しかし、彼の心の中には常に一つの疑問が残っていた。


「なぜ、俺はこの時代にタイムスリップしたのか…?」


 現代で味わった苦しみ、そしてこの時代での戦乱と不思議な繋がり。塁は、何か大きな運命の流れに巻き込まれているように感じ始めていた。そんな中、彼に新たな使命が与えられる。


 ある夜、直義が塁を呼び出し、こう告げた。


「塁、聞いてくれ。我々の敵、北朝の将軍が“飛龍の駒”という強大な力を持つアイテムを手に入れようとしている。それは、この戦争を左右するほどの力を持つと言われている。その駒が手に渡れば、我々は窮地に立たされるだろう」


 塁は「飛龍の駒」という言葉に反応した。それは、彼が最初にタイムスリップした時に持っていた「横行の駒」と似た名前の道具だった。駒に秘められた不思議な力を既に知っている塁にとって、その存在は決して無視できるものではなかった。


「では、その“飛龍の駒”を奪い返すための作戦を練っているということですか?」


 塁の問いに、直義は厳粛な表情で頷いた。


「そうだ。しかし、敵の守りは強固だ。飛龍の駒は北朝の城の奥深くに隠されている。我々の軍では攻め込むのは難しいが…お前のように、少数精鋭の部隊で潜入し、駒を手に入れることなら可能かもしれん」


 塁はしばらくの間、考え込んだ。梨花や仲間たちがいるこの時代で、彼はようやく居場所を見つけた。しかし、自分がここに来た理由が「横行の駒」や「飛龍の駒」にあるのではないかと感じ始めた塁にとって、この使命を果たすことが、運命を解き明かす鍵になると信じていた。


「やります、直義様。俺がその駒を手に入れてみせます」


 決戦の後、足利直義の軍は大勝利を収めた。戦場には静寂が訪れ、勇士たちは疲労の中で勝利の余韻に浸っていた。塁もまた、手に握った「飛龍の駒」を見つめながら、戦いの中で感じた新たな力に驚いていた。


 しかし、塁の心には落ち着きがなかった。勝利にも関わらず、彼の中に何かが警鐘を鳴らしていた。現代に戻る方法を探すために、そしてこの時代に隠された運命を解き明かすために、彼は次の一歩を踏み出さなければならなかった。


 ある夜、彼は一人で野営地の外れに立ち、星空を見上げて考えていた。自分は何のためにこの時代に来たのか。現代での痛みや孤独が蘇る度に、未来に戻る意志が揺らいでいく。


「もし、この時代で俺が役立つことができるなら…本当に戻るべきなのか?」


 その時、梨花が静かに現れた。彼女は塁の隣に立ち、彼の顔を優しく見つめた。


「塁、あなたがここに来たのは偶然じゃないわ。何か大きな力があなたをここに導いている。だけど、最終的に決めるのはあなた自身」


 塁は梨花の言葉に耳を傾けながら、さらに深く考え込んだ。現代に戻れば、またあの辛い日々が待っているかもしれない。しかし、この時代で新たな絆を築いた彼は、ここで自分の役割を果たすことにも価値を見出していた。


 その時、遠くから聞こえる足音が二人の静寂を破った。振り向くと、直義の側近である武士が息を切らして走ってきた。


「塁殿!直義様がお呼びです!急ぎ、陣営へ!」


 何かが起きたことを直感し、塁はすぐに駆け出した。陣営に戻ると、直義が真剣な表情で待っていた。


「塁、我々の勝利は喜ばしいが、新たな危機が迫っている。南朝の一部勢力が、“飛龍の駒”を狙っているようだ」


「駒を…?」


 直義は頷いた。


「この駒には古代の力が宿っているとされている。それを巡る戦争が、再びこの国を混乱に導くかもしれない。お前がその力を持つ者として、この時代を守るために必要な存在となるだろう」


塁はその言葉に驚きつつも、覚悟を決めた。自分の存在意義を見出し、この時代を守るために、再び戦いの道へ進む決意をした。


「俺は、この駒を使って戦う覚悟です。誰が相手であろうと、守るべきものがある限り」


直義は微笑み、塁の肩を叩いた。


「頼もしい。お前のその決意、必ず我々の未来に繋がるだろう」


そして、塁は再び剣を手にし、新たな戦いへと向かうこととなった。今度は、自分の運命を変えるために。そして、飛龍の駒が導く先に何が待っているのかを確かめるために。


この時代での冒険が終わりに近づくのか、それとも新たな章が始まるのか、塁の心にはまだ迷いがあった。しかし、戦いの中で見つけた絆と力を信じ、彼は進み続けることを選んだ。


彼の運命は、まだこれから形作られるのだった。




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