第25話 貴船熱戦
貴船の森から一歩出た梨花は、静けさが再び戻ってきたと感じていた。しかし、その胸の奥には戦いの痛みと恐怖が渦巻いていた。若菜を救ったものの、心の奥には若菜が抱えていた闇の影が消え去ったわけではなかった。
彼女は一人で考え込みながら、月明かりに照らされた小道を歩いていた。すぐそばの崖の上からは、森の静寂が深く、時折響く風の音だけが耳に入ってきた。そのとき、梨花の背後から不気味な気配が漂ってきた。
「やはり、まだ終わりではないのか」と心の中で呟き、振り返ると、右京が立っていた。彼は冷酷な目を持ち、まるで彼女の心の痛みを見透かしているかのようだった。
「梨花、君は本当に愚かだ。友を救うために力を使ったが、その代償を理解しているのか?」右京の言葉は、彼女の心に再び不安を呼び起こした。
「あなたは、若菜を苦しめる存在なの?」梨花は怒りと恐れを抱えながら問い返した。
「私はただ、力を求める者だ。お前が力を持たない限り、守ることなどできない」と右京は冷たく笑った。
その瞬間、右京は梨花に向かって突進し、彼女は崖の端へと追いやられていく。梨花は崖のふもとを見下ろし、底なしの暗闇に身を委ねる恐怖を感じた。
「やめて!私を追い詰めるつもり?!」彼女は叫びながら、必死に後退した。しかし、右京はそのまま進んできて、梨花を押し出そうとした。
「これが運命だ。お前は自らの力を試される運命なのだ」と右京は言い放つ。
崖の縁でバランスを崩した梨花は、恐怖で目を見開きながら、その瞬間、背後から誰かの手が伸びてきた。塁が彼女をつかまえ、引き戻してくれたのだ。
「梨花、しっかりしろ!」塁の声が、彼女の耳に響いた。彼は、右京の冷たい目を睨みつけながら、梨花をしっかりと抱きしめていた。
「ありがとう、塁……」梨花は、恐怖から解放され、彼の温もりを感じながら涙を流した。「私……自分が弱いことを痛感したよ」
「君は弱くなんかない。君の心には、友を守る力があるんだから」と塁は優しく言った。「俺たちで一緒に立ち向かおう」
右京は、二人の絆を見て冷ややかな笑みを浮かべた。「愚かな友情だ。結局は、弱さを助長するだけだ」
「それが何だっていうの?私たちは、決して一人ではない!」梨花は、心の中で若菜を思い出し、強い決意を抱いた。
塁と梨花は手を取り合い、右京に立ち向かう姿勢を見せた。二人は決して引き下がらず、強い絆で結ばれていることを実感していた。
「君はその程度の力しか持っていないのか?」右京は挑発するが、梨花は毅然として答えた。「私たちは、仲間のために戦う。決して君のようにはならない!」
塁も同様に叫び、「梨花と若菜を守るために、力を合わせるぞ!」と宣言した。
二人の強い意志が、周囲の風を変え、静かな森に新たな力を呼び覚ました。その瞬間、月明かりが彼らを照らし出し、彼らの心に宿る勇気を強く感じさせた。
「さあ、かかってこい!」梨花と塁は、右京に立ち向かう準備を整えた。彼らの心は、仲間を守るために強く結ばれ、運命に立ち向かう決意を固めていた。
貴船の森の静けさの中、梨花は倒れた若菜を抱きしめ、心の安らぎを取り戻そうとしていた。その時、彼女の耳に、不気味な足音が近づいてくるのを感じた。振り向くと、右京の配下のゴロツキたちが四人、黒い服装で迫っていた。
「おい、女ども。今日はお前たちを終わらせる時だ」と一人が高笑いしながら言った。
「私たちを倒すことなんてできない!」梨花は毅然とした声で応え、若菜を守るために立ち上がった。彼女は若菜を背に、決意を胸に戦う準備を整えた。
「お前、なかなか根性があるな」と別のゴロツキがニヤリと笑い、仲間たちと共に一斉に攻撃を仕掛けてきた。
梨花は瞬時に反応し、周囲の植物を呼び寄せた。蔓が彼女の意志に従い、ゴロツキたちの足元を絡め取る。彼女は素早く一人のゴロツキに向かって跳びかかり、強烈な一撃を加えた。そのゴロツキは驚愕の表情を浮かべ、地面に倒れ込んだ。
他のゴロツキたちも怯むことなく梨花に襲いかかる。しかし、彼女は冷静にそれを受け流し、植物の力を使って一人ずつ倒していった。二人目のゴロツキが近づくと、梨花は手を振り上げ、周囲の植物を操って彼を絡め取った。あっという間に、その場から動けなくなった彼は、痛みのあまり呻くばかりだった。
残りの二人は恐怖を感じて後退りしようとしたが、梨花は彼女の魔法の力を存分に使い、周囲の木々から蔓を呼び寄せて彼らの動きを封じ込めた。彼女は冷静に力を込めて叫んだ。「この森で私を侮辱した代償を払うがいい!」
一瞬で全員を倒した梨花は、息を整え、若菜の方に振り返った。だが、彼女の心に安堵の影が薄れる暇もなく、右京の姿が崖の上に現れた。
「ふふ、なかなかやるじゃないか。しかし、ここからが本番だ」と右京は冷たい笑みを浮かべ、見えない弾丸を魔法で発射した。銀将の魔法が周囲を覆い、梨花の行く手を阻む。
「梨花、下がれ!」塁が崖の上から叫びながら駆け寄ってきた。
彼女の心は一瞬緊張で締め付けられたが、塁が駆けてくる姿を見て希望を取り戻した。塁は、右京の攻撃を弾丸ごと打ち消すために、全力を尽くして駆け上がった。
「私が行く!右京を止める!」塁は叫びながら、魔法の力を込めた攻撃を繰り出した。右京は驚いたが、すぐに反応し、見えない弾丸を再び放った。
しかし、塁の攻撃はその弾丸を打ち破り、右京に迫った。「お前の力は俺が止める!」塁の言葉は、彼の心の強さを示していた。
右京は不敵な笑みを浮かべながら弾丸を放ち続けたが、塁はその全てを打ち破り、彼に近づいていった。「もう終わりだ、右京!」
塁の一撃が右京に命中すると、右京は後ろへと弾き飛ばされ、地面に激しく叩きつけられた。周囲の空気が震え、静寂が一瞬訪れた。立ち上がろうとする右京の体がふらつき、その表情から余裕が消えていた。
「この程度で俺を倒せると思ったか?」右京は低い声で言いながら、手をかざした。すると、地面がひび割れ、黒い霧が彼の体を覆い始めた。「俺の真の力を見せてやる…」
しかし、塁は怯まなかった。彼の目には決意が宿っていた。「もう遅い、右京。お前の暴走はここで終わるんだ!」彼は胸に手を当て、自分の魔力を全て解放する覚悟を決めた。
「覚悟しろ!」塁の声と共に、彼の体から眩い光が放たれ、右京に向かって真っ直ぐ突き進んだ。黒い霧と光が衝突し、激しい閃光が走る。右京は全力で抗おうとしたが、その力は徐々に押し返され、次第に彼の体は崩れ始めた。
「なぜ…こんな…!」右京の声がかすれ、彼の体は光の中で消えていった。
塁は息を切らしながら、その場に立ち尽くしていた。戦いは終わり、静けさが戻ってきた。「これで…本当に終わったのか?」と呟いたその瞬間、彼の背後から仲間たちの声が聞こえた。
「塁!よくやった!」
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