第44話 クソまずい!
塁は現代での辛い現実に打ちひしがれながらも、再び南北朝時代へタイムスリップすることを決意した。彼は横行の駒を手に握りしめ、目を閉じて心を落ち着かせた。駒の力が発動すると、彼の周囲が歪み、気がつくと再び南北朝時代の戦乱の中に戻っていた。
塁はその場に立ちすくんでいたが、すぐに周囲の騒動に気づいた。村が賊に襲われ、混乱の中で村人たちが逃げ惑っている。塁は無我夢中で賊の集団に突っ込み、持っていた棒を武器代わりに応戦した。
「止めろ!お前たち!」
彼の声は震えながらも強く響き、塁の気迫に圧倒された賊たちは一瞬動きを止めた。しかし、それも束の間、賊は再び攻撃を開始する。塁は必死に防戦し、何度も倒されそうになったが、その度に立ち上がり、戦い続けた。
その時、後方から馬に乗った一隊が現れた。率いていたのは足利直義だった。彼の精鋭たちが素早く賊を囲み、戦況は一気に逆転した。塁も勇敢に戦い続け、ついに賊は全滅した。
「お前、なかなかやるではないか」
戦いが終わった後、直義が馬から降りて塁に近づいた。彼は塁の顔をしげしげと見つめ、感心した様子で笑みを浮かべた。
「確か、お前は…この前、助けた者だな?」
「はい。再びお目にかかれて光栄です」
塁は深く礼をした。直義は頷き、塁の勇気と戦いぶりを称賛した。
「お前のような者が、今の時代には必要だ。どうだ、我が軍に加わらぬか?」
その申し出に塁は驚いたが、同時に胸が熱くなった。現代で味わった挫折と孤独とは対照的に、ここでは自分が必要とされていると感じた。
「ぜひ、お願いします!」
塁は即座に答え、直義の軍に加わることを決意した。こうして彼は、再び戦乱の時代を生き抜くため、新たな仲間と共に足利直義の下での活動を始めた。自分の運命を変えるため、そして失われた何かを取り戻すために。
塁は足利直義の軍に加わり、戦乱の時代を生き抜く日々が始まった。新たな仲間と共に戦場での訓練を受けながら、彼はその過酷さを肌で感じていた。特に、軍での食事は耐えがたいものだった。
ある日、戦の合間に配られた飯は酷く不味かった。硬くなった米、焦げ臭い野菜、そして味のない煮魚。塁は最初の一口を口に運んだ瞬間、胃がひっくり返るような感覚を覚えた。
「なんだこれ…」
塁は顔をしかめ、周囲を見渡した。しかし、他の兵士たちは平然とその飯を食べている。彼らにとって、これが当たり前の食事なのだ。塁は唇を噛み締め、もう一口、無理やり飲み込もうとしたが、思わず咳き込んでしまった。
「こんなものを食べて戦えるわけがない…」
現代での豊かな食生活を知っている塁にとって、この食事はまさに拷問だった。だが、今は南北朝時代。贅沢を言える立場でもなく、何よりも生き抜くためには食べるしかない。そう自分に言い聞かせながら、塁はそのまずい飯を口に運び続けた。
しかし、ある夜、彼の限界が訪れた。訓練の疲れと粗末な食事に苛まれた塁は、ふとした瞬間、突然大声で叫び出した。
「もう嫌だ!こんな生活、耐えられない!」
彼は膝を抱えて座り込み、髪を掻きむしりながら絶叫した。仲間たちは驚き、遠巻きに彼を見つめていた。塁の心の中に押し込められていた現代での苦悩や孤独が、まずい食事という小さなきっかけで一気に噴出したのだ。
「なんで俺はここにいるんだ…!現代に戻りたい…!」
泣きながら、塁は頭を抱え込んだ。彼は現代に帰りたいという思いと、この時代で自分が必要とされているという希望の狭間で揺れ動いていた。
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