第49話 懐

 戦国時代にタイムスリップした塁と梨花は、荒れ果てた戦場の近くにたどり着いた。周囲には煙が立ち上り、遠くに武将たちの陣営が見えた。塁はその風景を見ながら、次に進むべき道を考えていた。


「ここは、武田信玄の領土のようだな…」


 その名を聞いた梨花はすぐに反応した。「武田信玄?あの名高い武将…彼に取り入れば、私たちの今後が楽になるかもしれないわ」


 塁は頷きつつも、慎重に言葉を選んだ。「そうだが、どうやって接触するかだな。信玄は用心深い人物だと聞いている」


「それなら私に任せて」梨花は自信満々に微笑んだ。「料理の腕を活かせば、彼の信頼を得られるかもしれないわ。戦乱の中で、心のこもった食事ほど価値のあるものはないもの」



---


 梨花と塁は、近くの村に足を運び、野菜や米を手に入れた。そして、ある日、武田信玄の本陣に向かって歩き出した。戦の準備に追われた兵たちの姿が見え始め、近くに陣取った梨花は早速料理の準備を始めた。


 彼女は手際よく野菜を切り、鍋に水を入れて煮立たせる。武士たちが行き交う中、次第に香ばしい匂いが広がり、周囲の兵たちが興味を引かれ始めた。


「おい、この香りはなんだ?」一人の兵士が立ち止まり、梨花の料理を覗き込んだ。「こんなに良い匂い、戦場では珍しいぞ」


 兵士たちは次々に集まり、梨花の料理に興味を示した。そして、その香りは武田信玄の耳にも届いた。


「何だ、この香りは?」信玄は興味を抱き、側近に指示した。「調べて来い」


 梨花の料理が信玄の元に届くと、彼はその香りを嗅ぎ、口元に笑みを浮かべた。「ふむ、これほどの料理を、この戦場で食べられるとは思わなかった。誰が作ったものか?」


 梨花は緊張しながらも、自信を持って信玄の前に現れた。「私が作りました、武田様。名もなき旅人ですが、あなたのご加護を得るために、心を込めて料理をいたしました」


 信玄は梨花をしばらく見つめ、そして彼女が作った料理を一口口に運んだ。味わい深い汁が彼の舌に広がり、戦場の疲れが少し癒されるような感覚に包まれた。


「うまい…!」信玄は目を見開き、感嘆の声をあげた。「お前、ただの料理人ではないな。これほどの腕を持つ者ならば、我が陣営に加わるがよい。兵たちの士気も上がるだろう」


 こうして、梨花は信玄の陣営に迎えられた。彼女の料理は兵士たちの間で評判を呼び、塁も信玄の側近たちと接触し、次第に彼の懐に入り込んでいった。



---


 梨花が作り出す美味しい料理の数々は、武田信玄の陣営を支える力となった。戦いの最中でも、兵たちは梨花の料理を楽しみにし、士気を保つことができた。信玄は彼女の料理を通じて、塁たちに次第に信頼を寄せるようになり、二人は新たな戦国の時代での立場を確立し始めた。


 しかし、戦国時代はさらに困難な試練を二人に突きつけることになる。信玄の軍の中で、彼らは次なる戦乱へと巻き込まれていくのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る