第18話 お・も・て・な・し

 梨花は、源義経をもてなすため、平安時代の風情と趣を取り入れた料理を丁寧に準備していた。彼女の手際は確かであり、一つ一つの料理には義経への敬意と感謝の念が込められていた。


 まずは、食前酒として 白酒(しろざけ) を用意した。甘く濃厚な香りが立ち込め、これからの食事への期待を高める。


 次に登場するのは、華やかに彩られた前菜。鴨の醤焼き、鮭の笹焼き、そして香ばしい 枝豆 が並び、食卓に彩りを添える。鴨肉は絶妙な火入れで柔らかく、甘辛い醤油だれが引き立ち、義経の心を掴むことだろう。


 続いて出されたのは、繊細な風味が魅力の むなぎ白蒸し。淡い味わいが口の中で広がり、ゆっくりとした時間が流れるかのように感じられる一品だ。


 主菜には、梨花自慢の煮物、いえつも。季節の野菜と共にじっくり煮込まれ、滋味豊かでありながら上品な味わいが義経の疲れを癒す。


 食事の途中には、口直しとしてさっぱりとした 須々保里(すずほり)、漬物が提供された。その酸味と食感が口の中を整え、次の料理へと気持ちを繋げていく。


 デザートには、平安時代から伝わる甘味の 唐菓子 が添えられた。繊細な甘さと歯ごたえのある食感が心地よく、義経も笑みを浮かべるほどだ。


 そして食事の締めとして、もち米を炊き上げた 強飯(こわいい) と、心温まる 汁物(羮あつもの)。強飯は粒立ちがしっかりしており、芳醇な香りが漂う。羮は具材の旨味が溶け込んでおり、体を温める効果がある。


 梨花は、すべての料理に細心の注意を払って仕上げた。この食事が、源義経との深い絆を築く一助となることを願いながら、料理を義経の前に供した。


 梨花は、平安の歴史に強い関心を抱いていたことから、平忠常のその後について調べることとなった。彼女は古文書や記録を丹念に読み解き、その人物の行方を辿った。


 平忠常は、平安時代中期の武将であり、房総半島を中心に勢力を持っていた。彼はその時代の動乱に翻弄された人物として知られ、特に、1028年から1031年にかけて起こった「平忠常の乱」でその名を刻んでいた。この乱は、後の平安武士団形成の契機ともなり、後の武家社会の基礎を築く出来事としても評価されている。


 梨花が資料を読み進めると、忠常は乱の鎮圧後、源頼信に降伏したことが記されていた。降伏した忠常は、京都に連行される途中で病に倒れ、そのまま命を落としたとされている。彼の死後、忠常の家系は衰退したが、一部の子孫は後に復権し、武士団として存続したとも言われている。


 この事実を知った梨花は、平忠常が歴史の大きな流れに抗いながらも、自らの信念を貫き通した人物であったことを理解し、その生き様に深い敬意を抱いた。




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