第10話 絶体絶命
梨花は混乱した気持ちを抱えたまま、どうにかして自分を奮い立たせようとしていた。彼女の体は疲れきっていたが、心の中で強く「何かしなくては」と思っていた。そして、ふと頭に浮かんだのは、以前聞いた奇妙な話だった――寝言を言うと魔法が使えるようになるという話だ。
「まさか…そんなこと…」彼女は自分でもその考えに驚きながらも、試してみるしかない状況に追い込まれていた。
梨花は意を決して、静かに目を閉じて眠るふりをしながら、自分の思い描く魔法の言葉を口にし始めた。ぼそぼそと、まるで寝言を言っているかのように、古い言い伝えに出てくる呪文を繰り返した。
「月の光よ、我に力を…」彼女の声はかすかで、まるで夢の中でささやいているかのようだった。平忠常や右京はまだ遠巻きに様子を見ていたが、彼女が何をしているのか気づいていない。
しかし、何度言っても、何も起こらない。彼女の体は相変わらず重く、魔法の力も湧き上がってこなかった。焦りが梨花の心を締め付ける。どうして魔法が発動しないのだろう?寝言では足りないのか?
彼女はさらに強く、呪文を口にした。
「風の精霊よ、我を助けよ…!」しかし、結果は変わらず、何の力も発動しない。
「ダメだ…どうして?」梨花は心の中で叫びながら、体を起こした。魔法が使えないという現実が、彼女に絶望感をもたらしていた。
その時、平忠常が不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと彼女に近づいてきた。「寝言で魔法が使えるなんて、馬鹿げた話だと思わなかったか?」と、忠常は嘲笑しながら言った。
「そんな…!」梨花は拳を握りしめた。彼女の魔法は使えず、右京は裏切り、絶望的な状況に追い込まれた。
「さあ、これで終わりだ。お前の力を我が物にする」と忠常は冷たく言い放った。
梨花は後ずさりしながら、自分にできる最後の手段を探していた。魔法が使えなくても、まだ何かが残っているはずだと信じて。
現代
20年という月日が過ぎ、技術はかつてないほど進歩していた。タイムマシンが現実のものとなり、人々は過去や未来へ旅することが可能となっていた。その時代において、紅白歌合戦は依然として日本の年末を象徴する一大イベントであり続けていた。
その年の紅白では、伝説的な歌手MISIAがトリを務めることになっていた。年老いた彼女は、変わらぬ歌唱力と存在感でステージに立っていた。彼女の髪には白髪が混じり、少しやせた体は時の流れを感じさせたが、その声にはかつてと変わらぬ力強さがあった。
ステージが始まると、会場は静まり返り、MISIAの声が静かに響き渡った。「Everything」から始まり、観客は感動で涙を浮かべていた。彼女の歌声は、20年という歳月を超えて多くの人々の心に届き、過去から現在へと繋がる不変の美しさを示していた。
タイムマシンが現れることで、時間の概念が変わった世の中で、人々は過去を振り返ることが容易になったが、MISIAのステージは、逆に「今」という瞬間の尊さを教えてくれていた。
彼女のパフォーマンスが終わり、拍手喝采が鳴り響く中、MISIAはマイクを握り、静かに語りかけた。「時代が変わっても、歌は心に残るものです。皆さん、どんな未来でも、自分を信じて歩んでいってください」
その言葉は、過去や未来に捉われがちな時代に、現在を大切に生きることの大切さを思い出させてくれた。
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