第9話 森の奥

 梨花と右京がしばらく森の奥へ進んでいく中、周囲の静寂が不気味さを増していた。梨花はまだ不安を抱えていたが、右京の冷静さに少しばかり安堵を覚えていた。彼女の魔法の力がいつまた発動するのか、あるいは消えるのかも不確かだったが、二人は共に行動することで強さを感じていた。


 しかし、ふとした瞬間、右京の足取りが急に重くなり、彼は立ち止まった。梨花はその変化に気づき、彼を不審に思って振り返った。


「右京、どうしたの?」


 右京は口を開きかけたが、何かを言うのを躊躇している様子だった。彼の目はどこか遠くを見つめており、いつもの自信に満ちた態度とは異なる冷たさが漂っていた。


「梨花…俺には伝えなければならないことがある」と右京が重々しく口を開いた。


「何のこと?」梨花は少し不安げに問い返した。


 その瞬間、森の奥からいくつかの影が現れた。武装した男たちが姿を現し、彼らを取り囲むように近づいてきた。彼らの中心には、平忠常――その冷酷な目つきで知られる反逆者がいた。


「待っていたぞ、右京。お前の報告は役立った」と平忠常がにやりと笑った。


 梨花は驚愕した。「何のこと?右京、あなたは…?」


 右京は冷たい表情を崩さず、平忠常に歩み寄った。「申し訳ない、梨花。俺は最初から忠常に仕えていたんだ。お前をここまで導くために、俺は彼の命令を受けて動いていた」


 梨花はその言葉に愕然とした。彼が信頼していた仲間だったはずの右京が、突然敵の側に立つなんて信じられなかった。


「どうして…どうしてそんなことを…?」梨花の声は震え、目に涙がにじんだ。


「忠常には俺の過去を握られている。逆らえば俺自身が命を失う。俺には選択の余地がなかったんだ」と右京は冷静に答えた。


 平忠常は冷ややかに笑いながら、梨花に目を向けた。「お前が持つその魔法の力が、俺の計画に必要だ。だから、俺たちと共に来てもらおう」


 梨花は心の中で葛藤を抱えながら、右京の裏切りと忠常の言葉に対抗する力を絞り出そうとした。しかし、裏切られたショックで魔法の力も弱まっているように感じた。


「私は絶対にあなたたちには従わない…!」梨花は勇気を振り絞って叫んだが、心の中は動揺と混乱で揺れていた。


 右京は短く息をつき、「俺にはどうすることもできない。これが俺の運命なんだ」と静かに呟くと、忠常の側に立ち、梨花をじっと見つめた。


梨花は再び一人で立ち向かう覚悟を固めなければならなかった。彼女の心の中にまだ残る希望を信じて、再び戦う準備をすることを決意した。


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