第30話 いいところだったのに💗  

 亮たちが勝利を収め、網干伊右衛門の陰謀を打ち砕いた後、彼らは一時の安息を得ることができた。遺跡から脱出し、安全な場所に避難した彼らは、緊張の糸が切れたかのように疲労が押し寄せた。特に、梨花と塁は今回の戦いで体力も魔力も使い果たし、全身が重く感じられた。


 彼らは皆、しばし休息を取ることにした。夜が更けると、周りは静かになり、戦いの喧騒も遠い記憶のように思えた。キャンプの火が揺らめく中、梨花と塁は二人だけの時間を過ごしていた。


 塁は、梨花の側に座りながら、今日の戦いを振り返っていた。「本当に大変だったな、俺たち…もう少しで命を落とすところだった」


 梨花は静かにうなずきながら、彼の言葉に耳を傾けた。「でも、あなたがいてくれたから、私も最後まで戦えたのよ」


 その言葉に、塁は少し照れたような笑みを浮かべた。「お前がいたから、俺も力を出せたんだよ。ありがとう、梨花」


 二人はしばし無言で火を見つめていたが、次第に互いの存在がより強く感じられるようになった。戦いの緊張感が解け、二人の心は自然と近づいていった。塁は、梨花の手をそっと握り、彼女を見つめた。「これからも、俺と一緒にいてくれるか?」


 梨花は少し恥ずかしそうに微笑みながら、塁の目を見つめ返した。「もちろんよ。あなたがいる限り、私はどこにでもついていくわ」


 その瞬間、二人の距離はさらに縮まり、塁はそっと梨花を抱きしめた。彼らはお互いの温もりを感じながら、次第に唇を重ねていった。そして、戦いの疲れを忘れるように、二人は自然の流れに身を任せ、初めての深い愛を交わした。


 その夜、彼らの絆はより強く、深く結ばれたものとなり、これからの戦いにも互いを支え合いながら進んでいく決意を新たにするのだった。


 塁と梨花が互いの距離を縮め、深く愛を交わそうとしたその瞬間、突如として空気が張り詰めた。静寂を切り裂くように、不気味な足音が近づいてきた。二人は身を起こし、周囲を警戒した。


「何だ…?」塁が立ち上がり、手元にあった武器を手に取る。


 その時、暗闇から現れたのは巨大な蜘蛛の妖怪だった。全身が漆黒に包まれ、無数の足が地面を這い、赤く光る目が二人を鋭く睨んでいた。妖怪の腹部には人の顔が浮かび上がっており、不気味な笑い声が響き渡る。


「甘い時を邪魔してしまってすまないね…だが、ここで終わりだ!」


 妖怪は口から毒を吐きかけながら、素早く二人に襲いかかってきた。塁はすぐに反応し、香車の魔法で瞬時に後ろへ飛び退いた。「くそっ、こんなタイミングで!」


 梨花もすぐさま銀将の防御魔法を展開し、蜘蛛の毒液を防ぎながら後退した。しかし、戦闘で消耗していた二人にとって、突然の強敵は非常に厳しい状況だった。


「こんな妖怪がまだ潜んでいたなんて…」梨花は息を切らしながら、塁に目をやった。「どうする? 魔力もほとんど残ってないわ…」


「逃げるわけにはいかない…ここでやるしかない!」塁は決意を固め、手に残っていた魔力をすべて注ぎ込み、香車の最後の力で素早い突進を繰り出した。


 蜘蛛の妖怪は素早い動きでそれをかわし、塁を狙って毒針を放った。しかし、その瞬間、梨花が銀将の盾を広げ、彼を守った。「やらせないわよ!」


 二人はお互いを支え合いながら戦うが、妖怪の力は圧倒的だった。少しずつ追い詰められていく二人。しかし、絶体絶命の状況の中で、塁はふと気づいた。妖怪の腹部に浮かび上がる顔、その表情がまるで人間のように苦悩していることに。


「梨花、あの妖怪…何かがおかしい!ただの怪物じゃない、誰かの呪いだ!」


 その言葉に梨花も気づいた。「もしかして…あの顔は、犠牲者の魂が閉じ込められているのかもしれない…」


 二人は素早く相談し、妖怪を倒すのではなく、その呪いを解く方法を探し始めた。塁が妖怪の攻撃を引きつけ、梨花が銀将の力を使ってその呪いの根源を探る。


 そして、ついに梨花が発見した。「この呪いを解くには、封じられた魂に呼びかけるしかない!」


 彼女は全ての魔力を使い果たして、封印を解除しようと試みた。蜘蛛の妖怪は激しく抵抗するが、二人の絆が力となり、ついに呪いが解かれた。妖怪の姿は崩れ去り、犠牲者の魂が解放された。


 戦いが終わり、二人は疲れ切って地面に座り込んだ。


「もう…今日は休もうか」塁が息を整えながら、苦笑いを浮かべた。


「そうね…少し休んで、次の戦いに備えましょう」梨花も微笑んで答えた。


 その夜、二人は戦いの傷を癒しながら、再び平穏を取り戻した。




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