第31話 腹が減っては戦はできぬ

 戦いの余韻が薄れ、静寂が戻ってきた夜、塁と梨花は地面に座り込み、改めて息を整えた。しかし、彼らの体力と魔力は限界に達しており、さらには、食糧も尽きてしまっていた。


「食べ物がもうないわね…」梨花は疲れた声でつぶやきながら、近くにあるリュックを開けて確認した。しかし中はほとんど空っぽで、持っていたわずかな食糧も、数日前の盗賊団との戦いで奪われていた。


 塁も同じようにリュックを探っていたが、役立つものは見当たらなかった。「くそ、盗賊め…この状況で食糧を奪われるなんて最悪だな」


 二人はしばし無言で考え込んでいたが、ふと周囲を見回すと、先ほど倒した巨大な蜘蛛の亡骸が目に入った。梨花は一瞬驚いた表情を見せたが、そのまま思案するように視線を落とした。「…もしかして、この蜘蛛…食べられるんじゃないかしら?」


 塁はその言葉に驚いて梨花を見つめた。「え? 冗談だろ? こんなものを食べるなんて、考えたこともないぞ」


「でも…今の状況では他に選択肢がないわ。少し気味悪いけど、命をつなぐためには…」梨花は真剣な表情で言葉を続けた。


 塁はしばらく考え込んでいたが、やがて大きく息を吐き、決意したように頷いた。「わかった。やるしかないな…ただし、慎重に調理しないと毒が残ってるかもしれない」


 彼らは手持ちのナイフを使って蜘蛛の亡骸を解体し、毒の部分を丁寧に取り除いた。蜘蛛の肉は意外としっかりしており、表面を切り分けると中から柔らかい肉が現れた。周囲の植物を集めて簡単な調味料を作り、キャンプの火を再び焚いて調理を始めた。


「正直、これが食べられるのかどうか分からないが…少しでも体力を回復させるために、仕方ないな」塁は鍋に蜘蛛の肉を入れて煮込んでいる間、少し戸惑いながら言った。


 梨花も同じように不安な表情を浮かべていたが、「これしかないんだもの。食べるしかないわ」と覚悟を決めたようだった。


 やがて、鍋の中の蜘蛛肉は煮えてきて、意外にも香ばしい匂いが漂い始めた。二人は恐る恐る小皿に取り分け、一口ずつ食べてみた。


「…思ったより、悪くないな」塁は驚いたように言った。


 梨花も口元を拭いながら頷いた。「そうね。なんだか、少し甘味があって、予想してたより食べやすいかも」


 二人は、その後も少しずつ慎重に食べ進め、少しずつ体力を回復させた。食事が終わると、二人は再び静かに火の前で休息を取った。


「今日は疲れたな…次の戦いに備えるためにも、しっかり休まないと」塁は目を閉じながらつぶやいた。


 梨花は塁の肩に寄りかかり、「そうね。次は、きっともっと大きな試練が待っているわ」と呟いた。


 その夜、彼らは蜘蛛の亡骸で作った食事を摂りながら、次の戦いに向けて新たな力を蓄えたのだった。


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