第34話 戻った?

 遠い未来、塁は公家の娘と結ばれ、愛らしい子供を得た。平穏な日々が続くと思われたが、ある日、恐ろしい事件が起こる。平清盛の手によって、その子供が拉致されたのだ。塁は怒りに震え、子供を取り戻すため、あらゆる手段を模索するが、突然、彼の前に奇妙な存在が現れる。時間を操る力を持つ何者かが、塁にタイムスリップの方法を教え、源氏を討伐するよう依頼する。


「源氏を滅ぼせば、お前の子供を取り戻すことができる」と告げられた塁は、やむなくその道を選び、時代を遡ることを決意する。まずは、平安時代初期に飛び込んだ塁。そこで彼は次第に体に異変を感じる。怪力が身についていたのだ。当初は小さな岩を持ち上げる程度だったが、時代を遡るごとに、その力は増幅していった。


 戦の中、彼は鎧を着たまま馬を一蹴し、敵兵を素手で投げ飛ばすほどの力を得るようになった。塁の肉体は、時代を遡る度に人間の限界を超えていった。平安時代後期にたどり着いた頃には、一振りで城の門を粉砕し、鎧武者たちを次々と倒す伝説的な存在として恐れられるようになっていた。


 最終的には、彼の力は常識を超え、巨大な木すらも持ち上げることができるほどに。人々は彼を「超人」と呼び、平清盛もその圧倒的な力に恐れを抱き始める。しかし、塁にとって最も重要なのは、愛する子供を救い出すことだった。


 最終決戦の日、塁は平清盛の居城にたどり着き、空をも引き裂くかのような力で城を破壊する。源氏との戦いも激烈を極め、彼の怪力は敵を一掃するが、その力の裏には大きな代償が隠されていた。塁は自らの力が暴走し、制御できなくなる危険性と向き合うことになるのだった。


 最後に、塁は子供を取り戻すが、彼が背負った力の重みと歴史の流れを変えてしまった罪を背負い、新たな未来へと旅立つことになる。


 その夜、塁は久しぶりに夢を見た。夢の中では、大学時代の廃墟が再び彼の前に現れ、京子が佇んでいた。彼女は微笑みを浮かべながら、ゆっくりと塁に近づいてくる。


「塁…覚えているかしら?私たちがここで過ごした時間を…」京子の声は懐かしくも、どこか不気味だった。


塁は目を逸らそうとしたが、彼女の姿から目を離すことができなかった。廃墟の中で京子と過ごしたあの日々の記憶が、まるで昨日のことのように蘇ってくる。嫉妬に狂い、鬼と化した京子との戦いは、決して忘れることができない悪夢のようだった。


「俺は…お前を倒したはずだ」塁は静かに呟いた。


京子は笑みを浮かべたまま首を振る。「倒した?違うわ、塁。私はここにいる。あなたの心の中に、ずっと…」


その言葉に塁はぞっとした。彼が京子を倒したと思っていたのはただの幻想だったのか?それとも、彼女の狂気と執着は何か別の形で残っているのか?目の前の京子は、過去の幻影に過ぎないのか、それとも…。


突然、廃墟の空気が重くなり、京子の姿が消えた。代わりに、あの不老の実が塁の目の前に浮かび上がった。実はまばゆい光を放ち、彼を誘惑するかのように輝いている。


「これが、お前の未来だ…」謎の声が頭の中に響き渡った。


塁は手を伸ばし、その実に触れようとしたが、指先が触れる寸前で意識を戻した。目を開けると、彼は自分のベッドの上で汗をびっしょりかいて横たわっていた。心臓が早鐘を打つように激しく鼓動していた。


「夢か…」


しかし、それはただの夢ではなかったことを塁は理解していた。京子が残した痕跡、不老の実の呪い、それらは現実のものだった。そして、塁がその呪いを抱えている限り、彼の周囲には常に危険が伴うことを意味していた。


その朝、塁は再び自分の使命に向き合うことを決意した。不老の実がもたらす力は、彼の望むものではなかった。しかし、その力を完全に封じる方法がわからない以上、彼はその呪いと共に生きるしかない。彼にとって、最も重要なのは、自らの過去を乗り越え、真実と向き合い続けることだった。


数日後、塁は調査のために再び事件現場に足を運んだ。そこで、彼は梨花と再会する。彼女は塁の異変に気づいていた。


「最近、何か変だわ…あなた、何か隠しているんじゃない?」梨花の言葉は塁の心を鋭く突いた。


塁は一瞬言葉に詰まったが、やがて覚悟を決めた。「梨花…実は、俺にはお前に話していないことがあるんだ。大学時代にあった出来事と、その後に手に入れたものについて…」


梨花は驚きの表情を浮かべたが、黙って話を聞く態勢をとった。


塁は全てを打ち明けた。京子との戦い、不老の実の存在、そして自分の体に起こっている異変。梨花は最初こそ信じられない様子だったが、塁の真剣な表情を見て、次第にその言葉の重さを理解し始めた。


「それで、その力をどうするつもりなの?」梨花は静かに尋ねた。


塁は窓の外を見つめながら答えた。「俺はこの力を封じる方法を探している。永遠の命なんて、俺には必要ないんだ。でも、この呪いが俺に何をもたらすか、それを見極めなければならない。そして、もしその力が誰かの手に渡れば、もっと大きな災いを呼び起こすかもしれない」


梨花は深く頷いた。「私も手伝うわ、塁。あなた一人で背負う必要はない」


その言葉に塁は心の中でほっとした。彼には信頼できる仲間がいる。そして、これからの道のりは困難であることを覚悟しつつも、二人でなら乗り越えられると感じた。


「ありがとう、梨花。これからのことは…一緒に考えよう」


塁と梨花は、再び動き出した。謎めいた不老の実の真実を追い求め、彼らは新たな冒険へと踏み出すことになるのだった。



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