第5話 月🌕️
夜、梨花は山奥の廃墟の屋根に座り込み、満月をじっと見つめていた。月光が静かに周囲を照らし、冷たい風が彼女の髪を揺らしていた。塁のことを思い出すたびに、胸が締め付けられるようだった。彼が自分の行動をどう思っているのか、もう二度と会えないかもしれないと感じながらも、彼女は自らの道を選んでここまで来てしまった。
「塁、あなたは今どこで何をしているの?」梨花はそっとつぶやいた。彼と過ごした日々が脳裏に浮かび、優しい笑顔や言葉が思い出される。その瞬間だけは、彼女の心に温かさが戻ってくる。しかし、それはほんの一瞬のことで、すぐに現実が押し寄せた。
不意に、森の中から獣の唸り声が響き渡った。梨花は背筋を凍らせ、周囲を見回した。辺りは深い闇に包まれており、月明かりが届かない場所では影が蠢いている。彼女は感じた――何かが近づいてくる。
突然、茂みの中から巨大な山犬が姿を現した。鋭い牙をむき出しにし、梨花にじりじりと近づいてくる。その目は光を反射し、彼女を狙う獰猛な本能が露わだった。梨花は後ずさりしながら、冷たい汗が頬を伝うのを感じた。
次の瞬間、別の方向から熊の大きな影が現れた。重い足音が地面を震わせ、梨花は逃げ場を失った。彼女は恐怖に飲み込まれそうになりながらも、必死に冷静を保とうとしたが、その時、背後から狼の遠吠えが聞こえた。振り返ると、狼の群れが彼女を包囲し始めていた。
梨花は追い詰められ、どうすることもできなかった。目の前には山犬、横には熊、そして背後には狼の群れ。生き延びるためには何かしなければならないが、彼女の体は恐怖で凍りついて動けなかった。
「塁……」梨花は心の中で彼の名前を呼んだ。彼がここにいれば、何をするだろうか? 彼なら、自分を助けてくれたはずだ。塁はいつも、どんな時でも彼女を守ってくれた。だが今は、彼女一人でこの危機に立ち向かわなければならない。
そして、梨花は静かに目を閉じ、深く息を吸った。彼女は自分の心の奥底に眠る勇気を奮い立たせた。もしこれが最後なら、せめて塁に恥じない自分でありたいと、そう決意した。
獣たちは今にも飛びかかろうとしていた。梨花は目を開け、冷静に一瞬の隙を探し始めた。彼女は、この状況を乗り越えるために何をするか考えなければならなかった。その瞬間、月光が強く輝き、梨花の意志が覚醒するような感覚が彼女を包んだ。
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