第6話 脱出策

 梨花は一瞬、月光の中で力強さを感じた。彼女は体を動かし、周囲を見渡す。山犬と熊、そして狼の群れ。恐怖は消えなかったが、彼女の心に火がついた。生き延びるためには、何かアクションを起こさなければならない。


 彼女は目の前にある枝を掴み、周囲を確認した。山犬が前方からじりじりと近づいてきている。その隙をついて、梨花は横に飛び、後ろの茂みに向かって全力で走り出した。彼女の心臓は高鳴り、全身に力がみなぎっている。


 茂みの中に飛び込んだ瞬間、後ろから山犬のうなる声が聞こえた。梨花は木の陰に身を隠し、冷静に次の行動を考えた。彼女は自分が知っている地形を思い出し、少しでも逃げられる場所を探す。今は恐怖を忘れ、戦略を練る時だった。


「ここだ…」彼女は心の中でつぶやきながら、森の奥に進んだ。月明かりが届かない場所では、視界が暗く、獣たちの動きも見えづらい。幸運にも、彼女は廃墟のような古い小屋を見つけた。これが、逃げるための隠れ場所になるかもしれない。


 梨花は息を殺して小屋の中に入った。薄暗い中、彼女は一瞬だけ安堵した。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、周囲を見渡した。小屋の中には古い木の家具や雑貨が散乱していた。彼女は急いで何か武器になるものを探し始めた。


 梨花は窓から外をうかがいながら、心の中で次の行動を考えた。月明かりに照らされた山犬たちは、まだ彼女の存在に気づいていないようだった。しかし、彼女は油断できなかった。いつ襲いかかってくるかわからない危険が、彼女の周りを取り巻いていた。


「まずは山犬を何とかしないと…」彼女は心の中で決意を固めた。


 周囲を見渡すと、小屋の裏手には少し高い岩場があった。そこから獣たちの動きを観察しつつ、逃げ道を確保できるかもしれない。彼女は金属製の棒をしっかり握りしめ、静かに小屋を出る準備をした。


 梨花は息を潜め、小屋のドアを静かに開けた。外に出ると、月明かりの下、山犬たちは少し離れた場所でうろついていた。彼女はその隙をついて、ゆっくりと岩場に向かって歩き始めた。地面の小石が足元でカラカラと音を立てるたびに、彼女の心臓が早鐘のように打ち鳴る。


 岩場に近づくにつれ、彼女はほかの獣たちの気配を感じた。特に、遠くから聞こえる熊の唸り声は、彼女の背筋を凍らせる。だが、今は自分の命を守るために、最善を尽くすしかなかった。


 無事に岩場に辿り着くと、彼女はすぐに身を隠した。そこから周囲を見渡し、山犬たちがまだ自分の方を向いていないことを確認した。彼女は少し安心したが、油断は禁物だ。


「今、私にできることは何だろう?」梨花は自問自答した。


 そう考えながら、彼女はふと目の前に見える小さな木の枝を思いついた。もし自分がこの山犬たちを挑発し、引きつけることができれば、岩場に逃げ込んで身を隠すことができるかもしれない。彼女はそのアイデアに賭けることにした。


「よし、やってみよう」梨花は小枝を手に取り、そっと地面を叩いた。音が小さく響くと、山犬たちが反応し、彼女の方を振り返った。興奮した様子で吠え始める。


「来い、こっちだ!」梨花は心の中で叫びながら、再び小枝を使って地面を叩いた。彼女はすぐに岩場の後ろに隠れ、獣たちの動きを待った。


 すると、山犬たちが彼女の方に向かって走り出した。彼女の心臓は早鐘のように鳴った。






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