第20話 柔らかな日々
梨花はその日、ずっと気になっていた新しいワンピースを着ていた。淡いブルーの生地が風になびき、彼女の気持ちを一層軽やかにしてくれる。初めてのデートに相応しい場所を塁が選んでくれたと知り、彼のセンスに驚きながらも安心していた。待ち合わせは午後2時、彼が提案した落ち着いたカフェだった。
時計を見るとまだ5分前。心の中では少し早く着きすぎたかな、と思いながらも、梨花は周囲を見回しながらそわそわしていた。緊張のせいか、手が冷たくなっていたが、気を紛らわせるためにスマホを触り始めた。
「お待たせ」
その声に顔を上げると、塁が笑顔で立っていた。彼は軽く手を挙げ、少し照れ臭そうにこちらに向かって歩いてくる。彼の服装はシンプルな白いシャツにジーンズといったラフなスタイルだが、それが彼の優しさを際立たせていた。
「いや、私がちょっと早く来ただけだから。行こっか?」梨花は自然に微笑み返した。
カフェの扉を開けた瞬間、甘いコーヒーの香りが二人を迎え入れた。店内は静かで、木のぬくもりが感じられるインテリアが心を落ち着かせる。二人は窓際の席に座り、メニューを広げた。
「何にする?」塁がメニューをちらっと見ながら尋ねた。
「そうだな、カフェラテにしようかな。塁は?」
「俺はブラックコーヒーで」
メニューを選んだあと、自然と会話が始まった。最初はお互いの趣味や最近見た映画の話題が中心だったが、話が進むうちに、互いの考え方や価値観が少しずつ見えてくる。梨花は、塁が驚くほど真剣に自分の話を聞いてくれていることに気付いた。彼の静かな眼差しと、時折見せる優しい微笑みに、梨花の緊張は徐々に解けていった。
食後、カフェを出た二人は、近くの公園へ向かった。秋の夕暮れが、街全体を金色に染めていた。並んで歩く彼の横顔を見ながら、梨花はふと、これまでに経験したどんなデートとも違う、不思議な安心感を感じていた。
「今日はありがとう、すごく楽しかった」梨花が静かに口を開いた。
「俺もだよ。君といると、時間があっという間に感じる」
塁の言葉に、梨花の胸がほんの少し高鳴る。そんな時、彼がふと立ち止まり、夕日が沈む空を見つめながら、そっと梨花の手を握った。その温かさが、梨花の心にじんわりと広がった。
「これからも、こうやって一緒に色んな場所に行けたらいいな」
その言葉に、梨花は少しだけ驚いたが、嬉しさで胸がいっぱいになった。塁の真剣な目を見つめながら、梨花は頷いた。
「うん、私も」
その瞬間、二人の間に流れる穏やかな時間が、彼らの未来を少しずつ形作り始めたのだった。
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