第40話 腤
梨花は、塁と共に足利直義の元で安全を確保しながら、南北朝時代の文化や風習に興味を持ち始めていた。特に彼女の関心は食文化に向かい、その時代独特の料理に挑戦してみようという決意を固めた。持ち前の好奇心と変わった発想を組み合わせ、彼女はさまざまな食材や調理法に挑戦し始める。
ある日、梨花は南北朝時代で特に珍しいとされる調理法「腤(あん)」を試そうと意気込んでいた。腤は中国から伝わった特別な方法で、塩豉(しおし)や紫蘇、丸鶏などを用いて作る煮物料理だ。南北朝時代では、貴族や武士の間で贅沢な料理とされていた。
梨花は興奮気味に準備を進め、厨房にこもり始めた。周囲の者たちは彼女の様子を不思議そうに見守っていたが、彼女はまるでそれに気づかないかのように、独自のアレンジを加えながら「腤」に挑戦していた。
「まずは塩豉と葱、それから紫蘇をたっぷり…よし、次に鶏を丸ごと鍋に入れるわけね」梨花は一人でぶつぶつ言いながら、独創的な手つきで鶏を鍋に投入した。
しかし、彼女の変わった発想がここで爆発する。「せっかくだから、少し現代風のスパイスも加えてみようかしら」と、南北朝時代には存在しないスパイスを大胆に加えてしまったのだ。
足利直義の部下たちは厨房の外でそわそわしながら見守っていた。「あの女性、大丈夫か?」「なんだか妙な香りが漂ってくるぞ…」
時間が経ち、ついに梨花の「腤」が完成した。彼女は自信満々に塁と直義を食事に招いた。「さあ、試してみて!」
塁と直義は目の前の料理を見て、顔を見合わせた。鶏肉が豪華に盛り付けられ、上品な香りが漂っているかと思いきや、どこか異様なスパイスの香りが混ざっていた。
塁は勇気を振り絞り、一口食べてみた。最初の感想は、「…不思議な味だな」というものだった。口の中で広がる複雑な風味に戸惑いながらも、塁は梨花の努力を評価することにした。
「うん、悪くないよ、梨花。特にこの…スパイスの使い方が独特だ」塁は微笑んで言ったが、その笑顔の裏には少しの困惑が隠れていた。
直義も一口食べた後、少し考え込んだ。「…これは、確かに独特だ。私の知っている『腤』とはだいぶ違うが、面白い」
梨花は満足げに頷き、「でしょ?私の新しいアレンジを加えたから、ただの昔の料理じゃなくて、未来と過去が融合した新しい料理になったのよ!」
その後、料理は部下たちにもふるまわれたが、彼らの表情は複雑そのものだった。梨花の挑戦的で変わった料理は、南北朝時代の味覚にとってはあまりにも斬新すぎたのかもしれない。
それでも梨花は、自分の料理が「未来の味」として評価される日を信じて疑わなかった。彼女の変人ぶりは、この時代でもしっかりと発揮されていた。
その一方で、塁は足利直義との関係を深めつつ、次なる不老の実の手掛かりを探していた。彼らの冒険はまだ始まったばかりであり、梨花の奇抜な料理も、今後さらに物語に波乱をもたらすことだろう。
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