第47話:実験開始

「ってなわけで、早速実験開始さ! ――ラボの地下にいっぱい仮想敵用意してるからそれで君の魔力と実力を測るよ!」


 ……即断即決というか、気になることはすぐ検証する質なのか彼女はそう言って俺等を地下へと連れてきてくれた。


 そこには――何もおらず、ただだだっ広い空間が広がってるのみだったが……どうやら彼女の曰くここで戦えとのことらしい。


「さぁ実験スタートだ! 早速魔物を呼び出すよ!」


 テンション高めにそう言われて、現れるのは魔物のホログラム。

 ……視た限り魔力で作られたそれは、忠実に魔物達を再現しているらしく俺を認識した瞬間に攻撃してきた。


「まずはDランクのシルバーバックからさ、さぁ本気でやってくれたまえ。ちなみに召喚獣は禁止ね? 流石にあれじゃあデータが取れない」


 条件を出されたことで戦い方が制限されたが、これは俺の魔力と実力を見るという感じらしい。そういうわけなので、俺は愛用しているデスサイズを呼びだし、それを構えて戦うことにした。


「――――洞窟ぶりだな」


 そんな感想を浮かべながらも、霊真のノートを参考に俺は動き数秒でそいつの命を刈り取った。すぐに胸元まで接近し、そのままデスサイズによって両断。


 それをすればホログラムは消え、次にはヘルハウンドとミノタウロスが現れる。


 合図も無しに迫ってくる二匹の魔物、一匹は連続で炎を吐きながらも俺に向かって攻撃してきて……ミノタウロスは手に持っている斧を叩きつけてきた。


「……わぁお、まじでラウラと戦闘スタイルが同じだね……にしては速すぎるけど」


 言われる感想はそれ。

 俺は炎を鎌の腹で防ぎ、斧ごとミノタウロスを両断したのだが……江奈さんはそんな感想を持ったらしい。


「あ、そうだ! これ後日動画にして配信するから、もっと派手に行くね!」


 そして突如としてそんな事を言ったかと思えば――魔物の量が一気に増えて、見たことない種類の奴らが沢山出てきた。中にはこの世界で初めて遭遇したグリフォンやワイバーンも沢山現れた。


「――え、多くないか?」


「そんなことないよ、この程度で君の実力を測れると思ってないからほんとはもっと出したいぐらいさ! というか、何だい君は!? 一体幾つの魔法を同時に使っているんだい!」


「まあ、この武器使ってる間は四つぐらいだな」


 リコリス・デスサイズは、かなり重いし今の素の筋力じゃまともに使えないから筋力強化を自分に使った上で、速度強化に毒属性を強化して一撃目の威力のみに増加の魔法をかけてる感じなんだが……確かにこの世界だと魔法を合わせるという技術があまり見ないし、これは珍しい事なのかもしれない。


「というかあんたがそれ言うなよ、ブランとノワールは似たような作りだろ」


「あれはちょっと特殊だからね、私も相当無理して作ったのさ……ん、君はあの二つの武器を使えたのかい?」


「そうだけど……なんか不味いのか?」


「いいや……良ければ、あの子達を使ってくれない?」


「……? まぁいいけど【ウェポンサモン】ブラン&ノワール」


 構えるのはフランス語で黒と白という名がつけられた拳銃。

 俺で実験している彼女が作ったとされるこれを、目の前で十全に使うのはまだ無理だし……かなりお粗末な使用感になるとは思うが、使えというなら使うしか無い。


「よしじゃあ、標的を増やすね」


 さっきのに加えて現れるのは一つ目の蝙蝠、所謂ゲイザーと呼ばれるそいつらは氷をまき散らしながらも棘を作り……それどころかビームを放ってきやがった。

 グリフォンやワイバーンの猛攻に加えたそれに少し驚くも、適切に俺は対処する。


「――【速度低下】」

 

 突撃してくるワイバーンとグリフォンの速度を下げて、そのまま脳天を魔力で打ち抜いた。魔力を多めに籠めたことにより必殺となったその魔弾は一撃で二匹の魔物を貫き、ホログラムは消えた。


 そして、残ったゲイザーの方の攻撃を完全に避けた俺は……そのまま後ろに回り込んでインフェルヌスを叩き込んで確実に敵を倒す。


「だーめだ君が強すぎて用意できる魔物だけじゃ測れない――そうだな、どうしようか……うん、あーそうだ。最近作ったアレを試そう、本来ならお披露目はダンジョンだったけど……しょうがないよね!」


 ブツブツとそう言って、彼女は笑った。とても楽しそうに……何よりオモチャを自慢する子供のように。そして急に俺がいた実験場の床が開き……下からとても巨大なゴーレムが四体ほど……。


「さぁ頑張れコロッソス! 目の前のはすっごい強敵だよ!」


 剣に斧に槍にボウガン、それを構えた鉄の巨人達は俺へと目を光らせて……突撃してきた。あまりの剣幕に少し驚き、反射で魔弾を撃ち込んだが……それは相手に当たった瞬間に無力化されたのかかき消されてしまった。


「…………は?」


「魔力無効の特性を持つ金属で作った特別製だ! ふはははは、これなら君だって苦戦するはずだー!」


「ねえ江奈、当初の目的と違わない?」


「違わない、実験って言ったし何を実験するかは私次第だろう! というか、これを試す機会がなかなか無かったのが悪い、乗るしかねぇよこのビックウェーブに!」


 完全にテンションが壊れたのかこっちの心労を一切考えずに彼女は笑った。

 ……俺も目的変わってね? とは思ったけど、それを言う余裕はなさそうなので……再度武器をしまって別のものを呼び出す。


「【ウェポンサモン】ダインスレイブ」


 呼び出すのは一本の黒い剣。

 茨のようなフォルムのそれは、一度抜いたら敵を倒すまで納める事が出来ないという逸話を持つ氷を操る魔剣だ。


「……【氷棘ひょうきょく】」

 

 生み出されるのは氷の茨。

 ……それは一瞬でコロッソスの動きを止めたかと思えば、中まで浸食して一匹を完全に破壊した。魔法によって生み出される物理威力を持つこの技は、殆ど生き物には使えない反則技である……単純な理由としては凶悪すぎるからであり、即死に近い技だから。


「――え?」


 そして聞こえるのは間抜けな声、まじで想定してなかったのか……今までの彼女からは想像出来ない声音でそうこぼされた。でも、この技は一度使えば止めることは出来ず……残った三体のコロッソスをも氷漬けの何かに変えてしまった。


「…………来てくれ私の最高傑作、マキア・ゴレムー!」


 ……この瞬間は気づけなかったが、涙声の彼女。

 声と共に現れたそれは今までと比べれば、かなり小さい機械の兵士だったのだが……籠められてる魔力が桁違いだった。


 機能美すら感じられる無骨なフォルムに、腕に構えた二本の剣。

 かなりの存在感を放つそいつは、俺に向かって疾駆し――首を狙って攻撃してきた。思うに、これが最終試験……なら俺もある程度本気を出そう。


「あれ、急に気温が……」


 冷気がこの場に満ちていく。

 ……ルナほどの出力を出すにはこの剣による魔法を完全に使わないといけないが、今出せる無茶しない範囲の技ならば――。


「顕現するは氷獄の帝、血塗れの罪人、裏切り者の反逆者……さぁその首を刎ね嘆きの川を潤そう――コーキュートス・インペラートル」


 呼び出すのはこの剣を元に作り出す、霜で出来た処刑人。

 俺の動きに連動して攻撃する霜の巨人、それは巨大な鋏を構えて――振りかぶった一撃でマキア・ゴレムを両断した。


「ア、アダマンタイト製のフルゴーレムが、一……撃?」


「よし、これで終わりか江奈さん? ……あれ、どうした綾音?」


「えっと完全に放心してるから代弁するね……やり過ぎ、ご愁傷様」


「……何が?」


 やり過ぎというのはかろうじて彼女の顔を見て理解できたが、その後のご愁傷様という文言が理解できなかった。え、怒られると思ったが……何故か彼女の、江奈さん顔は歓喜に歪み……。


「君は、ほんっとうにサモナーかい? あの配信である程度強いのは勿論知っていたよ? でも、こんなの――まさに未知! あまりにも頭おかしい出力の魔法に、気が狂ってるとも言えるレベルの戦闘能力、さぁさぁ――もっと実験だ! 君となら魔導の極みを目指せるさ!」

 

 俺の服を掴んだと思ったら、あり得ない力で引きずりははじめて……。


「さぁ君を参考にゴーレム作りだ! 十時間ぐらい一緒に過ごそうね?」


 そのまま……言ったとおりに、いやそれ以上に俺を拘束し――日が二度暮れるまで俺が解放されることはなかった。

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