第83話:突撃してくる幼馴染


 とある休日のこと、何もない日だったので図書館にダンジョンのことでも調べようと思って準備をしていたときだった。

 家を出ようとした瞬間にメッセージアプリに通知が届いたのだ。

 

『部屋行くね、窓開けて』

 

 直球なその言葉、表示名は綾音であり戸惑う間もなくとりあえず窓を開けてみれば、彼女が部屋に転がり込んでくる。

 中学生ぶりのその光景に、ちょっと驚くも懐かしさを感じつつ、俺は入ってきた彼女に声をかけることにした。


「危ないだろ」

「私強いしよゆーだよ」

「……確かにそうだけど」


 転がり込んできた彼女は、俺のベッドを瞬く間に占領し……ちょこんとそこに座った。そんな彼女らしい光景に、少し笑みがこぼれる。だけど、すぐに表情を変えて、どうして来たかを聞くことにした。


「えっと、何の用なんだ?」

「霊真に会いたかったじゃ駄目?」

「本当は?」

「……むぅほんとうなのに」


 口をすぼめてそう言う綾音。

 素直な感情表現になんと言えばいいか分からず、誤魔化すように俺は話題を振ることにした。


「二日ぶり、変わりないか?」

「うーんないかな? そんな簡単には変わらないよ」

「それもそうだな」

「話題振るの下手だね霊真」


 確かに今のは俺でも分かるほどに話題を振るのが下手だったが、言わなくてもいいだろうとそう思いながらも改めて彼女を見る。 

 相変わらずの初雪の様に白い髪に深紅の瞳、いつ見ても思う兎っぽい容姿を持つ彼女は、Tシャツ姿で妙にそわそわしている。


「ねぇ霊真、ずっと聞きたかったんだけどね……元の世界でも私達って幼馴染だったんだよね?」

「あー……まぁそうだな」

「そっちの私ってどんな子だった?」


 急に振られたその話題に、なんて答えれば良いかを迷ってしまう。

 覚えている限りのことは言えるけど、なんて言うか彼女にそれを伝えるのを躊躇ってしまったからだ。


「私が聞いたから遠慮しなくていいよ、気になっただけだから」


 俺の心中を察してか、そう言う綾音。

 答えるべきなのかやっぱり迷うが、かなり気になっているのは様子を見れば分かるし答えることにした。


「えっと、俺が知ってるのが中学三年の頃の綾音だから……今より少しだけ小さくて、性格はほぼ一緒で、さっきみたいに休日突撃してくる事が多かったな」

「他には?」

「……他、かぁ。なんだろうな、一緒にいると安心する?」


 彼女の事では無いが、それは前の世界でずっと感じていたこと。

 幼い頃からずっと一緒だったからか、俺は彼女といると安心できた。代わり映えの無い日常だけど、それが大切というか短い時間でも一緒にいるからか安らげて……。


「それは、私の印象?」

「まぁそう、だな。あぁ安心してたあいつがいるのが当たり前で、それに式がいて……ずっと一緒に過ごすと思ってたんだよな」

「こっちと変わらないんだね」

「本当にな。ダンジョンが無い世界だったけどさ、それ以外は本当に変わらないんだよな……だから、俺は」


 最後の方は殆ど無意識にそんな言葉が出た。

 そこで思ったが、やっぱり俺は元の世界に帰りたい。

 この世界の霊真の事もあるが、俺はまた皆に会いたい。この世界の皆も大事だが、やはりというか明確に違うのだ。


「ねぇ霊真、帰りたいの?」

「――――そうだな。うん、こっちの俺の事もあるし帰らないととは思ってる」

「そっか。ねぇ霊真、私はどっちの霊真も霊真だと思う……やっと会えたのにお別れなんて、嫌だよ」


 それに対して、何を言えばいいかなんて分からない。

 俺とこっちの俺は別人で、どこまでも違うと思っているから。だって、俺が異世界で頑張れたのはいつか帰れると思ってたからだ。


 どこまでも自分勝手だったし、その途中で何度も敵の命を奪ってきた。

 それと比べてこっちはどうだ? どこまでも綾音と式の為にと頑張ったあいつは俺とは違って大切な物のために動ける奴で――。


「いま、変なこと考えるでしょ?」

「……いや?」

「ううん、絶対考えてるよね。知ってる? 霊真って誤魔化す時に声上擦るんだよ、それにちょっと間が出来るんだ」

「まじ?」

「うん、その癖も変わらないし。霊真は霊真」


 そう言ってくれるが、やはりそれは受け入れる事が出来ない。

 やはりこの世界の霊真のことを知り誰かから聞くたびに違うと思えてしまうから。


「ごめんね、そんな顔をさせるつもりじゃなかったんだけど……そうだ。ねぇこの後時間ある?」

「あるけど、どうした?」

「じゃあデートしよ? そういえばこの世界の事教えるって言ってやってなかったでしょ? だからそのついでのデート」

「断っていいか?」

「だめ、私の我が儘聞いて?」


 気まずいしと断ろうとしたのだが、珍しく我を通そうとする彼女に根負けした俺は、そのままこの日を彼女と過ごすことになってしまった。





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