第88話:死と破壊の瞳を持つ聖女

「ッ速くないかな!?」


 ソルによる疾走。

 泉華さんは舌を噛まないように頑張っているようだが、彼女のあまりの速度にそう言葉を漏らす。


「ちょっと待って霊真君ウェイト、まじで待って!? 前に魔物いるよ!?」

「……大丈夫ですこのままツッコみます! 頼んだバロール!」

「慣れませんけど、視るだけですので――どうか終わってくださいませ?」


 後ろからだがしゅるりと彼女の包帯が溶けていく。

 彼女の目を封じる役目を負っていたそれから解放されたことにより、その瞳が露わになる。此方からでは見えないが、今頃彼女のアメジスト色をした瞳が解放されたことだろう――そして、次の瞬間の事だ。


「やはりミソロジアと比べて脆いですね、これなら魔力消費も少なそうです」


 彼女が言えば、既に前にいた数匹の魔物が魔石へと変わる。

 その現象に後ろに座る泉華さんが息を飲み、真面目な口調でこう聞いてきた。


「霊真君、今のって魔眼だよね?」

「そうですね。こいつバロールの眼はちょっと特殊な魔眼で……ある程度の魔物なら即死させます」


 これは相手に死を押しつけるというバロールの能力の一つで、命があり魔力の少ない者や耐性を持たない者を即死させるという力だ。

 今回の倒れ方と地面に落ちた砕けた魔石を見るに、現象としては中の魔石を砕くという結果を起こしているんだろう。


「それは、凄いね――これも覚醒したときに?」

「……そうですね、俺も目覚めたときには驚きました」


 大和さんにミソロジアのことを話したときに釘を刺されたが、俺がいたあの世界の事は最上級の機密であり、出来れば隠せと言われている。

 覚醒者で記録を持つだけでも保護されるのに、俺のようにあの世界を経験した者の詳細などおいそれと言えるわけがない。

 他にも彼からは誤魔化すときは覚醒者という言葉を使えとも言われたし、現代でもあまり解明されてない覚醒者に関してはそれだけの言葉の力があると言われた。


「でも、確かにこれなら速いね――救難要請は中腹辺りって聞いたから急ごう」 


 それを見ての感想を聞きながらも魔物をバロールの力で倒し休憩を挟まずに先に進む。時間が惜しいこの現状で、魔石を気にしている余裕はなくただひたすらにダンジョンを降り辿り着いたのは五階層。


 そんな降りた先にあったのは、だだっ広い空間。

 中心には色の濃い魔法陣が置かれており――何の気配も感じない場所。

 初めて見るタイプの魔法陣だが、感じる魔法の系統は召喚系。俺がサモナーだからという事もあるが、直感でそれを理解した。


「霊真君止まって、ボス来るよ!」


 そして綾音達を乗せたルナが降りてきた瞬間に、魔力が満ち始めて魔法陣が起動する。鮮やかな青い光が一瞬だけ空間に満ち目が眩み、次に視界が戻った時のこと。


「――こいつは石像か?」


 そこには天使と獣のキメラのような姿を象った石像が現れていて、俺達に敵意を向けていた。


「……総員、戦闘準備! クラスは力天使ヴァーチュースだよ!」


 俺が知らないその魔物。記憶を照らしながらもどう倒そうかを考え始めれば、すぐに【ヴァルシア】の皆がルナから降りて、戦闘態勢に入る。

 力天使……確か、天使の階級の一つだったよな? そうやって……異世界での知識を元にしながらも、初めて見る魔物を観察する。


「あら、天使ですか――わたくし、あの娘以外の天使は嫌いでして――早急に壊れてくださいませ」


 あ、そういえばとその言葉を聞いて思い出す。

 彼女はミソロジアでかなり天使という存在を嫌っており、そこに生息していた天使を模した魔物というのも存在していたが、彼女はそれを専門に狩っていた程だ。

 優しいが明確な怒気を孕んだその口調、彼女を見ればアメジスト色だった筈の魔眼はラズベリー色に変質し、それはまるでルベライトという宝石みたいだった。


「――破呪の魔眼バロール・ディスカース


 それは彼女が持つ破壊の瞳。別種の魔眼だが最初の奴と殆ど同じ力、前のは死を押しつけるというもので、今の破呪の魔眼は破壊という現象を押しつける能力だ。

 それによって補足された力天使は存在を破壊され、粉々に――いや、塵になった。


「……一つ聞かせてくれないか、代償とかはないのかい?」


 そして魔物がいなくなり静寂に包まれた場所で、今まで話しかけてくれなかった男の人がそう聞いてきた。

 その人は金髪の男性、この依頼に付いてきたということもあって実力は保証されてそうな彼。俺の身を案じてだろうのその言葉には、バロールに対する畏れも含まれているように感じてしまう。


「一応、今のところはないですね。覚醒してから感じたことはないです」

「そうかい。ならいいんだけど、無茶はしないでくれ。君はいつも抱え込みすぎるからね……あ、そうだ自己紹介忘れてたね。僕は奈倉誠なぐらまこと、ジョブは聖騎士、役割はタンクさ」

「……ってことは、俺の事聞いてるんですね」

「まあ、うんそうだね僕も一応幹部だし――綾音ちゃんと千鶴から話は聞いたよ。それと僕に手伝えることがあったらなんでもするから、気軽に頼ってくれると嬉しいかな? 同じギルドの仲間なんだ。そこは絶対に変わらない」


 そう言って軽く握手を交わしながらも、俺は先に進もうとしないで何かを考える素振りの泉華さん達を見る。


「……ねえ千鶴ちゃん、確か依頼の情報では中層、それも八階層からだよね」

「そのはずだが、それだと確かにおかしいな」

「どうしたんですか、二人とも」

「いや、このダンジョンで先に進んでいる筈ならこの層ボスは現れない筈でな、政府の依頼であることを考えると進んだ方が良いが、イレギュラーが起こっている可能性がある」

「だから賭けにはなっちゃうんだけど、急ぐって感じかな。このパーティーならある程度のことは対処できるだろうしね、霊真君、また狼の子達に乗せて貰える?」


 俺の目的が分かっているからこそ、ルナ達は少し不服そうだが頷いてくれる。

 あとでちゃんと礼を伝えないとと考えながら、その案に乗ることにしてさっきと同じように泉華さんとバロールと共にソルに乗り、ルナは綾音達を背負った。


「――急ぐなら、ちょっと二人にバフかけますね」

「あ、そういえばサモナーだもんね」

「はい、あとその代わりですが、絶対に喋らないでください舌噛みます」

「あーそうだね、了解」

 

 そして俺達は、再びソル姉妹の疾走でダンジョンの奥へと進むことにした。


 

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