第67話:決意
メルリによって修復された訓練場。
そこであとは二人でーと残された俺とラウラは、座り込みながらも無言で過ごしていた……経緯は聞いたが、それであれほどまでの戦闘になったことには俺が怒ってるし……何より、どうやって声をかければいいか分からなかったから。
こういう空気苦手なんだよなーとか、普通に気まずいし何話そうとかと色々悩んでいると……ラウラの奴がゆっくりと口を開いた。
「なぁレイマ……お前は、誰も恨まなかったのか?」
「……あーえっと異世界の人達か? ……まぁうん、そうだな――俺は、どうしてもあの人達を恨めなかった」
「何故だ? お前は……裏切られたんだぞ?」
「いやまあさ、実際ショックだったぞ、王様とかは元々優しかったし、国の人とかはいい人だったから、んで反逆者になって割と手のひら返されて……でもさ、それで皆が平和に過ごせればいいかなって思ったんだよ」
……まぁ、扱いとか酷かったし。
基本良い飯食えなかったし……それに、皆からの化け物を見るような視線とか凄く嫌だった。
「あ、でもさ――シュラとかがたまに隠れて飯くれたな、それにあいつ最後まで俺のこと信じてくれてさ――裏切ったって伝えられたはずなのに、俺の脱走まで考えたんだぜ――まあ断っちゃったけど」
異世界での王国所属のアサシンのジョブを持っていた男の仲間。
……最初期に一緒に旅立ったあいつは、俺なんかのために王国を敵に回そうとしたけど、それは彼の夢の妨げになるからと断ってしまった。
あいつは、異世界の人達が手を取って笑い合える世界というのを目指してた。
それを考えると俺という共通の敵が処刑されたことで一歩近づけば良いなって……まあ、すっごく罪悪感あるし……クールだけどお人好しだった彼に真実を伝えられなかったのも割と苦しい。
「まぁ……あとなんだろ、ルフェルとガルダの奴は心配だけど……多分あいつらなら、きっと俺が居なくても頑張れるだろうしぃ……あとは」
まぁルフェルの奴は……なんというか、かなり天然だったからちゃんと聖都で教皇出来てるか心配だし、ガルダは獣人国の次期王様だけど……破天荒だからなぁ。
今頃どうなってるか心配だが……まああれだな、やるときはやる奴らだし、きっと大丈夫。
「そうそう――和国でも仲間が出来てさ、イザナって人で……現人神? ってのやってる和国の将軍なんだぜ? 刀を教えてくれたんだけど、めっちゃスパルタでさ!」
……甘味に目がなく、隙あらばみたらし団子を強請ってきた和国の将軍様。
世界の平和のためにと最後の半年付き合ってくれた仲間で……薙刀とか弓も得意で……すっごく強かったんだよな。技量がこの世界で言うと大和さんクラスで、何度床に倒されたか……まぁそのおかげか、俺も殆どの武器を使えるようになったけど。
「……なぁラウラ。何を気にしてんのか分からないけどさ、俺は異世界でのことは恨んでない。というか恨めない……あいつらに悪いし、苦しいこともあったけど――それ以上に大切な思い出ばっかりだから」
「……レイマはレイマなんだな、どこまでも私が知っている馬鹿なまんまだ」
「え、馬鹿は酷くないか?」
「いいや、馬鹿だ……お人好しで、あまりにも優しい――大切な大馬鹿者だ」
「大切な大馬鹿って何だよ……」
「気にするな、鈍感な貴様は気づかなくていい」
「えー……酷くね?」
馬鹿って言ってくる割にはなんか満足そうだし、肩の荷が下りたのか……元気な顔をしている。やっぱり俺の話術は通用するんだなと思いながらも、ラウラが元気になったのならよかったと心底思う。
「……だから私のやる事も決まった」
「え、やる事って?」
「……なぁなんで耳は良いのだ貴様は?」
「ふっ俺のアイデンティティー」
「やはり馬鹿だな貴様」
「なぁ今の完全に馬鹿にしただろ!?」
そうして俺達は夜を過ごし……時間も時間なのでコテージに帰ることにした。
――――――
――――
――
……ミソロジアから転生して私は目的も無くただ生きていた。
ダンジョンというものがある、あの世界とは比べものにならない平和な場所、レイマに全てを託して死んで――きっと彼ならと信じて、彼も死んだ。
それも……異世界の者達に裏切られ、全部守るために全てを受け入れて。
……彼と喋って言葉を交わし、どこまで変わらなかったことを知った。
英雄気質で、一匹狼を気取った私に関わり続け心を溶かした――馬鹿者のままで……私が愛した彼だった。
……忘れようと思ったことなど一度も無い。
いや、忘れることなど出来ない……大切な人であり唯一私が血を吸った――大事な英雄。
「私は――全てを捧げよう」
彼がもう二度と裏切られないように……彼の敵を全て倒すために、これからの命を全て捧げよう。だって、あいつは私の願いを叶えてくれたのだから。
それだけの恩があり想いがある。
「もう二度と、あいつを一人にしないために――私はどんなことがあろうとも」
絶対に――彼の味方であると誓う。
……これが、月夜の誓いだ――だからもっと強くなって、どこまでも何があっても彼のために生きると誓おう。
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