第75話:決戦【災夜】のヴォルニュクス
「
俺が立ち上がった瞬間に、ラウラが吸血鬼の力を解放する。
前の吸血分の魔力を使ったんだろうが、やはりその姿はいつみても頼もしい。それだけではない。少し遅れてやってきたメルリがすぐに転移魔法陣を用意してくれて、一般人を逃がし始めた。
「――攻めろお前等!」
式のバフが行き渡る。
それは俺が使う魔力量の暴力によるバフでは無く、洗練されたその魔法は俺達の事を強化してくれる。
「――俺のも追加だ【火炎耐性付与】」
俺の得意とする概念に対するバフ。
異世界で身につけたその技術を使い、ヴォルニュクスを対策する。
この狭いフィールドで即興の連係は厳しいが、なんでかこのメンツならいけると思えてしまうのだ。
「眷属を数百は用意したはずだが、倒したのか?」
「まぁな! あれぐらいじゃ俺等は倒せないぞ!」
「そうか――だがな、邪魔だぞ人間。私と彼の時間を奪わないでくれ」
「知らねぇよ、人の祭りで好きかってする方が悪いだろ」
式のバフを得て速度の増した大和さんが果敢に攻める。
見て分かったが、どうやら彼は俺が渡した刀に魔力を流して戦っているようで、前見たときと戦い方が違った。
「【氷剣無尽】――人の幼馴染傷つけた報い受けてもらうから」
綾音の魔法は単純明快な物で、彼女の後ろに百を超える氷剣が創られて、それがヴォルニュクスに向かう。一応配慮されたその攻撃は前線で戦う俺の召喚獣達や大和さんとラウラに当たらないようになっていて、ヴォルニュクスのみに直撃した。
「小癪な――だが、私がいる限り眷属は生まれるぞ!」
再び相手が魔力を大地に流せば、その瞬間に溢れる大地の化身達。
だがそれは――吸血鬼の女王の力を解放したラウラによって全て破壊された。
ラウラの能力の一つである影の操作、相手が現れた瞬間に敵の影を操って後ろから壊したのだ。
「貴様は確かに無尽蔵の魔力を使えるが……即興ではあまり強い兵を創れないのは覚えている。今の私達にそれは悪手だぞ?」
「――やはり厄介だな吸血姫」
眷属を破壊されようとこのメンツに攻められようと、ヴォルニュクスは焦らない。それどころか、この状況で笑みを深めて……戦いという行為を楽しんでいた。
ベヒ子に体を削られながらも、大和さんに斬られても、ルナと綾音に凍らされても――俺の知っている彼女は、死ぬために戦いを続ける。
「――――そろそろだな【
皆の連携が加速して、初めて剥き出しになった核に対して知っているルナが攻撃をしようとした瞬間、黙り込んだヴォルニュクスがそう笑った。
そして――次の瞬間。
「【
俺ですら知らない彼女の力を解放された。
解放される
「これは本来なら私の力ではないのでな、使いたくなかったが……貴様との時間を邪魔する奴らに遠慮はいらないだろう?」
「ッ――皆!?」
そして今の範囲の技を使えば反動があっていいはずなのに、何の制約もなく動く彼女が俺へと迫る。
「やはり他者の心配か、妬けてしまうではないか」
「――【ウェポンサモン】ダインスレイブ!」
「私の知らない武器か……邪魔者が消えやっと向き合う気になったか?」
彼女の手には、今まで使ってなかった
「……やはり魔力は減っているか、だが実力は上がっていて嬉しいぞ?」
打ち合いながらも本当に嬉しそうに笑う相手に、憎悪すら感じながらも……俺は皆のことが心配で。
「――人のライブ、邪魔しておいて好き勝手やりすぎだよ!」
完全に戦いに集中できない俺の元へ今までは聞こえなかった誰かの声が聞こえてきた。それは、ライブで聞いた歌声、逃げたと思っていた彼女が、異常な魔力を使い、魔法を唱える。
「【降霊――
ここら一帯に、魔法が掛けられる。
その魔法は傷付いた綾音達を完全に回復させ――それどころか、俺の魔力すら全回させた。
「やっと助けられた――時間かかったけど、漸く君に届けられた――霊真君、遠慮はいらないから本気でやっちゃって!」
どうして彼女が名前を知ってるか分からないが、クシナダさんのおかげで俺の憂いが無くなった。仲間は無事で、魔力も全回――ここまで皆が頑張ってやっと繋いだこの瞬間。核が露出したこの好機を逃すわけにはいかない。
「メリル――力を貸してくれ! グラムを呼ぶ!」
絶対にチャンスを逃すわけにはいかないから。
俺の切り札の一つを喚ぶ。でもそれには、今の俺だけじゃ足りない――だから俺の師匠であり唯一召喚を補助できる彼女の力を借りる。
「逃がしたばっかりなのに姉使いが荒いよ、レイマ――でも、まっかせて!」
さすがは師匠だ。
そう笑いながらも……俺は、意思を集中させて――言の葉を彼女と紡ぐ。
「「――其は世界を支える原初の魚、其は魔剣を統べる龍魚、其は我等が盟友にして最強を冠する極限の一」
そこで彼女と言葉を切った。
これは魔法の最奥、二人で詠唱することで互いに消費魔力を共有する秘技。
「
それをメルリと共に唱えた瞬間に、世界が軋んだ。
今から喚ばれる存在の圧に耐えられず空間が悲鳴を上げて……世界そのものが限界なのか、圧倒的な存在感のみが全てを圧倒する。
「魔剣姫――グラム・バハムート」
現れたのは絶世という言葉すら生温いと感じる程の白銀の髪した女性。
整いすぎた容姿、他者を平伏させるようなオーラ。右側だけが大きい黒い角は、あまりも鋭利で、どこまでも彼女が人では無いことを物語る。
「ふはっ、それが貴様の切り札か」
圧が違う。
そもそもの存在感が違う。
俺の魔力の九割を消費しそれだけでは足りないのか生命力すら奪っていく最強。
想定内の犠牲だが、あまりにもキツく――彼女の召喚を維持出来るのはどう頑張っても三十秒が限度――だから命じるのは一言でいい。
「グラム――魔王種を討ち滅ぼせ」
「うんわかったよ――お姉ちゃん、頑張るね」
返事は一瞬。
再会の喜びも言葉を交わす暇さえなく、俺の命に忠実に従う彼女は一本の剣を作り出し、世界を海に沈めた。
正確に言えば違う。
この場所に海水が広がったという訳ではなく、この祭りの会場が概念的に海に染まったのだ。それにより、相手の大地の権能が解除され、再生能力が消える。
二十秒が経過し――対峙しているヴォルニュクスが笑う。
言葉すらいらないと判断したのか彼女に突貫し、
「これが――今の貴様達か。あぁ、流石だ英雄」
そんな言葉を残し、一撃で――否、刹那の間に致命の一撃を与えたのだ。
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