第74話:もう二度と貴方を一人にしないために
ヴォルニュクスの一挙一動で放たれる火炎。
それは周りの被害を一切考えず放たれ、新宿の町を破壊する。
火山の噴火のような溢れる攻撃――それを反射魔法を使って防いだり、ルナに凍らせて貰ってなんとかしているが、消耗戦になったら負ける。
「ッまじでなんでお前が来るんだよ!」
「ふはっどうでもいいだろう? 今はただ私との時間を楽しめ!」
覚えている限りのこいつの能力は幾つかあるが、中でも厄介なのが近接の無効化、大地と接している限りの無限再生、大地に関するものの創造、眷属の生成。そして、接している大地からの魔力の
「ッルナ――冷気を増やせ、植物を生やさせるな!」
こいつは大地という概念そのもので、あらゆる性質の植物すら作れる。
一応リコリスのおかげで俺に毒は効かないが、この場所一面にミソロジアの毒性植物でも出された場合の一般人への被害が計り知れない。
「私を前にして他者の心配か? 驕るようになったなレイマ――だが、それでこそ私が愛した貴様だ。じゃあこういうのはどうだ?」
相手が地面を強く踏みしめた途端、建物を浸食する勢いで大地が流動し巨大な壁が作り出される。それはこの場所から逃げ出そうとする人々をライブ会場ごと囲み、逃げ遅れた全てを閉じ込めた。
「広くは作った――さぁ、守り切ってみせてくれ」
「ッまじで、ふざけろ!」
あまりの状況にそう叫ぶも、この制限された場所で周りを巻き込まないように戦うなど馬鹿の所業。即座に念話を使い、メルリに転移術を頼もうとしたが……この規模の人間を転移させるのには時間が掛かるし、あいつは壁の外。
何よりだ。この状況では、被害を考えるとバアル達を獣に戻すことが出来なくて、俺の魔法もこいつ相手には相性が悪い。
異世界で倒した時は心中覚悟で海にこいつを落とす戦法取ったが、ここから海までの距離を考えると不可能で、それこそこいつを空にでも飛ばして倒すしか無い。
一瞬だけ視線を逸らしたが、大和さんと皆は省かれているし――このフィールド内でまともに戦えるのは、俺のみで。
「どうした? 考えごとか――あぁその視線、私を想ってくれているようだな」
そしてこいつは、この状況でもただただ攻撃するだけで良い。
一般人や環境に配慮する意味は無く、ただ俺を殺せば良いだけで――そこに対して手加減など皆無だ。
バアルの奴が、魔弾や風に雷を使って、相手の体を削るが……それは瞬時に再生される。そこに魔力消費などは無く、大地と接してれば良いという文句の言いたくなる能力に舌打ちをしてしまう。
「――主、
「ッ無理だ。バアル、とにかく耐えてくれ!」
防戦一方、相手は攻めるだけで良く……俺が防ぐしか無い状況で、誰かを守りながら戦うのは無理ゲーに近い。
ルナには炎を任せているが――物量を増やされれば守れる範囲が狭くなる。
「ねぇますたー、あれ壊せば良いんだよね?」
そんな時だった。背伸びして俺の肩をちょんちょんと叩いた傍観していたベヒ子がそう言ってきたのは……。
「――あ? ベヒ子、お前確か近接型だろ、あいつ殴るのは――」
「ふっあまり私を舐めない方が良い、これでも終末の獣……まぁ抑えてるけど」
そんなことをどや顔で語りながらも、突貫するベヒーモス。
危ないと思って咄嗟に熱耐性を強化して、止めようとしたのだが……彼女が相手を殴った瞬間、それもヴォルニュクスが驕った故に受けた瞬間に――相手の体の一部が消し飛んだ。
「ッ!? 馬鹿力か!」
「私の力のみを拳に乗せて殴れば熱くない――すごく知的で完璧な作戦」
「脳筋が過ぎるけど、ナイスだベヒ子!」
一応だが、こいつには存在としての核がある。
心臓部にあるそれは
「レーヴァテインをしまって――【ウェポンサモン】ハルペー!」
こうして彼女が責められるなら、俺も攻めに転じられる。
……使うのはペルセウスに貰った不死殺しの鎌剣、それは再生を阻害する効果があったはずで、こいつ相手の切り札になる筈だ。
「呪いをもつ武器か――厄介だな」
バアルとベヒ子の攻めを防ぎながら俺への意識が薄れた瞬間に体を傷つければ、やはりというか再生が遅かった。
好機と思い、畳みかけようとしたが――。
「ではギアを上げようか、幸いこの大地の質が良くてな――まだ私は強くなれる!」
爆音……そして放たれるのは岩漿の攻撃、波のように地面から噴き出したマグマが回り全てに放たれる。
これは俺を狙ったものではない、これは。
「ルナァ!」
判断は一瞬。
ルナの名前を叫び彼女に防ぐのを任せる。
「――任せて【アブソリュート・ルナ】!」
放たれるルナの大技の一つ、他のわざとは違い範囲に注力したそれは岩漿を凍結させて、一般人達を守ったが――。
「やはりだ。貴様は――変わらない」
声が聞こえたのは間近から、一瞬だけ視線を逸らしたせいでそいつの接近に気づけず、状況を理解した瞬間にはもう遅かった。
「――耐えてくれ、英雄だろう?」
放たれる拳、それが届いた時地震を一点のみに与えたような衝撃が俺を襲う。
「ごっ――がぁ!」
限界まで防御力を上げたはずなのに簡単に俺は吹き飛ばされて、守る一般人の方に飛ば、人混みの中へ。
あまりの衝撃に一瞬意識が飛びかけたが意地のみでなんとか耐えたが意地で耐えれたからといって――体が動くとは限らない。
「【ヒー……ル」
なんとか回復魔法を使うが、ダメージが大きくかなりの魔力を持って行かれた。
……痛い、辛い、苦しいと体が悲鳴を上げるが、それで休ませてくれる相手な訳がなく。ルナが守った人達に向けて、岩石の巨剣を創って振り下ろす。
守らないと、こいつを倒せるのは――今この状況で、俺しかいないから。
人混みの中、見える顔は沢山の怯え、何に向けた物なのか分からないけど、それが嫌で――どこまでも俺の体を震わせる。
……この状況で、戦う手段はまだあるけれど……この視線が、顔が、俺の判断を鈍らせて、守るという手段を選ばせてくれない。
「【アイギ――】」
「防げお前等!」
「分かってるよ」
「――任せろ」
「あいわかった!」
でもそれでもと、魔法を紡ごうとした途端に、聞こえる声。
巨剣は凍らされ――赤い槍と刀によって破壊され、人々は守られた。
「おいレイマ! 意識はあるか!」
「ラウ、ラ? それに、皆?」
「遅くなったが眷属は全滅させたから来たぞ! まだ戦えるか?」
俺の前に立つのは、外で戦っていた筈の綾音達。
彼女らは……俺を守るように立ち塞がり、ラウラは俺に手を差し伸べる。
「一人で背負いすぎだ馬鹿者――だが安心しろ、私達が来た」
「遅くなって悪かったな親友、魔法使いが全員避難させるまで時間が掛かってさ」
「……無茶しすぎ、あとで説教」
「愛されてんな坊……まぁ、やろうぜ?」
差し伸べられるその言葉。
恐怖などは一切無く、ただ純粋に俺と一緒に戦ってくれようとするその瞳を見て、俺は――。
「――あぁ、勝とうぜ……皆」
そう言って、ラウラの手を取ったのだ。
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