第85話:ギルド【ヴァルシア】
「え、初手通報? まじで? 前より冷たくない?」
俺ですら対応できない速度でスマホを取り上げられて、警察を呼ぶのを阻まれた。
とりあえずだけど、この人やべぇよ。そんな感想を浮かべながらも、俺は通報しないことを条件にスマホを取り戻し、一旦不本意だけど話を聞くことにした。
「で、あんた誰だよ」
「――え? ねぇねぇ綾音ちゃん、霊真君どうしたの? このパーフェクト美女の事忘れちゃったの?」
「そういえば……霊真が目覚めてから会ってなかったよね?」
「そうだそうだよ! 酷くない霊真君、せっかく目覚めたのに愛しのギルマスである
とりあえず変態の名前は、九条泉華さんと言うらしい。だけど記憶を探ってみても前の世界で会ったことは……いやあったわ。
そういえば俺と綾音とよく一緒に遊んでくれた同じ名前の八歳上の女性がいたのを覚えている。家の近くに幼い頃住んでおり、疎遠になったと思っていたが、こっちでは交流が続いていたようだ。
「えっとね泉華、霊真記憶喪失なんだ。だから行きにくかっただろうし、それで私も話してなかったから」
「まじでか。それは仕方ないけど、え――なんにも覚えてないの?」
「悪いけど……ギルドの事もさっぱりだし、あんたのことも覚えてないな」
「おーまい。なら改めて自己紹介だ――私は、九条泉華。霊真君と綾音ちゃんが一緒に所属していた【ヴァルシア】のマスターでSランク冒険者の【
最初の行動がアレだったけど、多分この人はいい人ではあるんだろう。
ショックは受けている様だが、改めてと自分の事を話して……俺へと握手を求めて来た。ノリと勢いが召喚獣の皆に近い感じはあるが、とりあえずそれに応じる。
「あ、そうだ霊真君よ」
「……なんだ?」
「今日暇かい? せっかくなら【ヴァルシア】に顔を出してほしいんだけど」
そう言われて普通に悩んでしまう。
元の霊真に関係ある場所ではあるし情報を手に入れられそうなのだが、なんというか知らない人しかない場所に行くのと、こっちの俺をよく知っている人に会うのは……なんというか気まずい。
でも……やっぱり俺は、あいつのことを知らなきゃいけないから。
「いいぞ」
「ありがとうね。副マスも君のこと気にかけてたし……今日見かけて話しかけたのはこれが目的だったから」
「あれ、じゃあなんで私まさぐられたの?」
「いつものノリ」
「あとで言いつけるから」
「え、やめて?」
このやり取りを見る限りなんだが、綾音とは仲はいいんだろう。
彼女がここまで心を許すのは珍しいし、気を許している様子は前の世界だとあんまり考えられない。
「じゃあバスで向かおっか! いざゆかん【ヴァルシア】へー!」
そして近くのバス停から、住んでる街の都会の方へ移動して……馬鹿でかい城? のような建物までやってきた。
青い外観の現代日本にはそぐわないようなその場所には、男女二人組の門番までもがおり俺達を見るなり挨拶してくる。
「マスターお帰りなさい! ……って綾音ちゃんに、霊真君!?」
「え、霊真!? おい皆、霊真が帰ってきた! 出てこい早く!」
その厳つい建物全体に響くようにそう叫ばれ、いつの間にか俺の周りには人集り。
色んな装備を着ている見知らぬ人々が俺を囲んで――それどころかすぐに胴上げをされて、揉みくちゃに……。
「うわーお……皆、会いたかったんだねー」
「見てないで助けてくれ――酔う、まじで酔う!」
胴上げするタイミングと揺らされるタイミングが絶妙に違うせいで、かなり微量なダメージが三半規管に与えられる。
「気持ちは分かるけど、落ち着いて皆……霊真が大変そうだから」
綾音が一応宥めてくれたが……それでも止まらず、飽きるまでそれが続くと思った時だった。幽鬼のような気配も持つ何者かが、ゆらりとギルドの建物から出て――。
「何をしているお前達、霊真を降ろせ!」
そう一喝し、その瞬間に胴上げを解除されて……そのまま俺は地面に落ちた。
「ぐふっ」っと間抜けな声が零れながらも、叩きつけられた俺はなんとか立ち上がり結果はどうあれ助けてくれた人の顔を見る。
「……む、なんだ霊真?」
「いや……なんでも、それよりありがとうございます」
「どうした畏まって、お前らしくないが」
そう言われるが、俺からするとこの人に至っては完全に初対面。
長い黒髪のその人に何を言えばいいかわからないが黙っているわけにもいかない――そう考えて、一瞬だけだが目が泳ぐ。
「……ま、とりあえず今は私の部屋に行こっか。積もる話あるでしょ?」
意外だったが、そこで助けてくれたのはギルマスとされる泉華さん。そんな彼女の言葉で俺と綾音はこの馬鹿程にでかい建物に足を踏み入れた。
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