第94話:吸血姫様は一緒に過ごしたい


 その日の始まりは、多くのメッセージから始まった。

 送り主はラウラ、文面は最初の方が誤字か誤送信なのか一文字だけが送られており、最後の方に弁解するつもりなのか「違う」とか「間違えた」と送られている。

 で――途中には長い文章が添えられており、要約すると今は暇だろうかみたいな内容の文章が送られていた。


「……えっと、どう返そう」


 だけど、それは朝頃に来たメッセージであり……今の時間は完全に昼。

 寝過ごしてしまったせいで返信が遅れてしまっていて、その後にも大丈夫か? とかの俺に対する心配のメッセージが何個か届いていた。

 多分いつも返信が早かった弊害なのだが、完全に心配かけてしまったのは分かるけど……なんか最後の方とかかなり重めのメッセージとなっている気がする。


「……とりあえず今起きたし今日は暇」


 そんなメッセージを彼女に送り、返信を待つことにしたのだが……それから数十秒で返信が返ってきた。


『遅かったからお前の家に邪魔させて貰っている――起きたのなら降りてこい』

「いやちょっと待てよ」


 びっくりするようなその情報。

 思わず口に出してしまうほどには驚いたし、何よりちょっと行動が早すぎてなんか感情が追いつかない。

 飛び起きた……まではいかないが、すぐにベッドから出て着替えて一階に向かえば確かにそこには優雅に紅茶を飲むラウラの姿があった。

 黒いドレスのような服を着ながらも、一般家庭のリビングで紅茶らしき飲み物を飲む姿はなんというかミスマッチで違和感が凄い。


「なんで、来たんだよ。そもそも鍵とかどうした?」

「元々お前の母君。瑠唯るいさんとは面識があったからな、快く入れてくれたぞ」

「……なら、いいけどさ。せめて返事待てよ」

「相談があったから仕方ないだろう?」


 いやそれでも待てよ……そう言いたかったが、その言葉は母さんが部屋に戻ってきた所で遮られる。


「あら、やっと起きたのね霊真。せっかくラウラちゃん来たのに寝坊なんて、徹夜でゲームは駄目よ?」

「…………あい」


 朝からツッコミに回りたくないし、異世界でも行動力がかなりあったこいつを思うと何を言っても無駄だと判断した俺はその時凄い微妙な顔をしてたと思う。


「あれ、そういえばなんで母さんと面識あるんだ?」

「だって私と宗夜さんの仕事は冒険者の取材よ? ラウラちゃんがSランクになった時担当したのは私達だもの。それで面識があったの」

「あぁそういう……」


 そういえばそう聞いたってことを思い出し、元の世界でも父さんはカメラマンをしていて母さんはその写真集の編集者をしていたことをついでに思い出した。

 それがこの世界では冒険者の取材という事になってたからあまり意識してなかったが、それで交友があるのなら納得だ。


「私としては霊真がラウラちゃんと面識あったことに驚きよ? ……いつの間に仲良くなったの?」

「えっと椿さん経由」

「まあそうだな」

「へぇー椿ちゃん経由なのね、それにしては距離が近くないかしら?」

「趣味が合ったからだろう。よくメッセージでも話すからな」


 あってはいるが、少し言い訳として苦しくないかとは思う。

 でも大体合ってるから否定できる訳もなく、ラウラを信じている故に母さんは納得したようだ。


「そうなのね、あ、用事があるって言ってたし、二人きりにした方が良いかしら?」

「部屋行くからいいよ母さん……ラウラもそれでいいか?」

「私は構わないぞ。瑠唯さん、紅茶ありがとうございました」


 ……異世界の事を話していない母さんにラウラとの会話を聞かれたら不味いのはこいつも分かってるだろうし、すぐに部屋に付いてきてくれた。

 とりあえずお菓子を出しながらも要件を聞く準備を整え、ベッドに腰掛けるラウラを横目に俺は自分の部屋の椅子に座る。


「で……急に何の用だ」

「お前の様子を見に来たのと近況報告だ」

「それ、アプリのメッセージで良いだろ」

「文面には残せないものだから仕方ないだろう」


 多分重要なことなんだろうが、それなら事前に伝えてほしいとは思う。

 だけどこの様子だし緊急っぽくはあるので仕方ないだろうと割り切ることにした。流石に許可出す前に家に突撃は今も驚いているが、ラウラのことだし要件もなしに来ることはないだろうから。


「そもそも定期的に会って情報を共有するという話を少し前にしただろう? 忘れたお前が悪い」

「それもそうだけどさ、流石に事前に伝えろよ」

「しらん、綾音に貴様は暇だと聞いていたから別に良い筈だ」

「……横暴な」


 そういえば、ラウラはこういう所があったな。

 結構強引にことを進めるんだが、少し猪突猛進というか決めたら即行動というか……大体そんな感じ。


「それで何があったんだ?」

「見たことのない魔物に遭遇した。かなり強い部類で私が少し苦戦するほどだ」

「――詳しく」


 与えられた情報はそれ。

 ラウラの実力を知っている俺は、その情報がどれだけ異常なのかを理解してすぐに意識を向ける。


「姿としては異形だ。怪物同士のキメラのような外見で、印象としては殺すことに特化したような武器を持っていた」

「ラウラも会ったのかよ」

「ということはお前もか。まあ話を続けるが、あれはまともな魔物ではないだろう」


 そのままラウラに詳しく話を聞いてみれば、政府の依頼でかなり昔に出来た階層型のダンジョンに足を運んだらそこでそれに出会ったらしい。

 ……普段はミソロジアでの力を使わないようにしている彼女が、まだ残ってる俺の魔力を使うほどには危険と判断したようで、迅速に沈めたというのを話される。


「……俺の方はバロールの秘眼を使って倒したけど、危険なイメージはあったな。何よりソル達の魔法に耐性を少し持ってた」

「概ね同じだな、私の劫炎にも耐性を持っていたぞ」

「まじかよ……ソル達の魔法もラウラのあれも、既存の魔法じゃないのにな」


 あれらの力は原典から派生した能力であり、分類としては通常の魔法からは独立した能力だ。下手な魔法に耐性がある奴すら貫通する原典という力、それに耐性を持つ魔物など知識にないし、何より対峙したときに感じた異質感。


 それを考えると警戒した方が良いというのは確か。

 気にかけてはなかったが、ベヒーモスなら何かを知っているかもしれないし、聞いてみるというのも一つの手だろう。


「大体こういう事があったが、お前の意見はどうだ?」

「……警戒はした方が良いだろ、ベヒ子に聞かないといけないこともあるし、かなり嫌な予感もする」

「同意見だ。私が今までこの世界で対峙したのはミソロジアの魔物がおもだが、あんなのは見たことなかった。何かあるのは確かだな」


 そうやって意見を交換し、用事も無くなっただろう頃。

 他に話すこともないから俺が考えを巡らせていると、ラウラが妙にそわそわし始めた。彼女らしくないその様子、どうしたんだろうと少し心配になった。


「……今更だが二人っきりだな」

「ん、ああそうだな」

「最近、お前はどうなんだ?」

「あー最近……? カイザー達と遊んだり、授業でこの世界のこと勉強したりって感じだけど、急にどうした?」

「いや、なんでもない……」


 そこからの会話と言えば特になく、しばし無言が続いてしまう。

 ……なんか妙な空気になりながらも、緊張している様子のラウラになんて声をかけて良いか分からずいると。

 ばたり……と、急にラウラがベッドに倒れたのだ。


「ッラウラ!?」

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