第93話:ましろ・どらごにあ

 カイザーの家に着いて目にした光景は、またも見覚えのある少女を肩車するバアルの姿。楽しそうにはしゃぐ少女を運びながらも進む彼はの眼には仄かな哀愁が。


「……何してんだ?」

「む、霊真よ帰ってきた――っとなぜ結花がいるのだ?」

「帰る途中で助けて貰って一緒に帰ってきました。それより、真白ましろは何を?」

「それがな、バアル師匠を目にした途端に乗せてとせがんで……こうなった」


 大体の経緯は分かったが……何故そうなったんだろうか?

 子供好きなバアルだから嫌がることはないだろうが、多分いきなりすぎて困惑しているのは伝わってくる。


「あ、動画で見た人だー! 話したいから進めーバァル!」

「少女よ、我はバァルではなくバアルだ!」

「……むぅ? ならバアルーはっしーん!」


 素直な子なのかすぐにそうやって彼を呼ぶ。

 黒い髪に紅い瞳、髪は短いが結花さんを小さくしたようなその少女はとても楽しそうにしており、それに水を差す性格ではないバアルはそのまま俺の所に連れてきた。

 

「はじめましてお兄ちゃんの友達さん! 私はましろ・どらごにあだよ! お兄ちゃんの妹で、小学二年生!」


 丁寧にバアルから降りて俺へと上目遣いで元気よく挨拶してくれる少女。

 えっへんと胸を張る彼女に対して俺は目線を合わせるようにしゃがんでから、ゆっくりと言葉をかけることにする。 


「うん初めまして、俺は狩谷霊真……えっとカイザーの友達で高校一年生だよ」

「霊真っていうんだー! ねぇねぇお兄ちゃん好きー?」

 

 子供らしいと言うか、微笑ましいくらいに無邪気な質問。

 そこには純粋な興味が感じられてちゃんと答えないとと思わされる。

 まだ短い付き合いだが信頼できて頼りになるカイザー。異世界から来た俺を認めてくれて、一人の友達と接してくれるあいつのことが好きかと聞かれれば。


「あぁ好きだよ。ましろちゃんはどうなんだ?」

「大好き! お兄ちゃん格好よく優しいもん!」

「だよな、本当に良い奴で……大事な仲間だ」


 なんというかむず痒いが、素直な質問にはちゃんと思ったことを伝えた方が良い 

 だけど流石に恥ずかしいので顔を逸らせば、少し慌てていたカイザーが顔を逸らしているのが分かった。


「……キモいですよ、兄さん」

「なっ我が友が悪いだろう! というか式も笑うな!」

「くはは、わりいって。でもこいつだししゃあねぇよ」

「あはは、変なお兄ちゃん――あ、そうだー霊真霊真、バアルと遊んで良い?」

「ん、いいぞ? えっとバアル、魔力貸すから魔法をみせてあげてくれないか?」

「いいのか主よ、下手に魔力を使うのは……」


 ……こっちでの召喚で勝手に魔力持っていった奴が何言ってんだとは思ったが、はっちゃけなければ常識があるこいつはそういうことを心配してくれるのだろう。

 ……まぁでも、この子の期待に応えないわけにもいかないので、そこに遠慮はいらないと伝えた。


「なら――その命しっかりと果たそう。真白殿……我の魔法を堪能するといい」


 そういったバアルは彼女に風の加護を与えてその体を浮かしたのだ。

 最初は驚いたような真白ちゃん。だけどすぐに彼女は自分が空を飛べると言うことに気付いたのか少し広めのカイザーの部屋を飛び始めた。


「すごいよお兄ちゃん、空飛んでる!」

「そうか、怪我しないぐらいにするんだぞ……バアル師匠、感謝する」


 最後の方は耳打ちでバアルにしっかりと礼を伝えて危なくないように軽くカイザーは部屋の物をどかす。数多くの本が並ぶこの部屋で妹のましろちゃんが怪我しなように配慮しているようだ。


「……今更ですが、この方は?」

「霊真の召喚獣のバアル師匠だ――とても強いぞ!」

「……配信で見ましたが、本当に人の姿の召喚獣なのですね」


 そういえばこの子はサモナーの魔法である【ウェポンサモン】を使っていた。

 アレを聞いた限りサモナー……もしくはそれに近いジョブを持っているんだろうが、多分それでバアルのことを気にしてるのだろう。


「そうだな、俺の仲間達は基本人型だ」

「そうなると、少し特殊なサモナーなのでしょうか? 私もウェポンマスターという特殊ジョブなので親近感がありますね」

「……ウェポンマスター?」

「えぇ、兄さんのような唯一無二のジョブではなく数が少ないと言うだけのジョブですが、武器のみを呼べるサモナーですね」


 へぇ……そういうジョブもあるんだな。

 色々聞く限りこの世界のジョブシステムについては、異世界と少し違うようだしもう少し調べた方がいい気がする。

 覚醒者の事などもあるし、ジョブについて調べれば元の世界や霊真に体を返す為のヒントがあるかもしれないから。


「なるほどな、だからああいう武器が呼べたと」

「はい召喚獣と契約出来ない代わりに強力な武器を喚べる力を持っております」

「まて結花……その話を聞く限り、武器を出すような状況になったのか?」

「あぁはい。知らない男性に声をかけられたところを霊真さんが助けてくれてその成り行きで」

「……我が友よ、妹を助けてくれて感謝する。本当に貴様には頭が上がらんな」

「気にすんな、結局解決したの結花さんだし」


 そんな会話をしつつも、いい時間ということもあり俺達はカイザーの家で夕食を取ることになった。

 その後の顛末としては料理という行為を前にしたバアルが暴走しかけるという事件があったものの、順調に夜食が終わりその日は解散。

 バスで式と帰り……途中で別れて、バアルと共に夜道を歩く。


「あ、そうだバアル。式達とどうだった?」

「それならこの世界の主の事を聞けたぞ、やはりどの世界でも主は凄いな」

「そうなのか。で、印象的にはどうだったんだ?」

「む、そうだな。聞く限りだが性格が似ているというのと、あとは……好きな物や嫌いな物がやっぱり主だなと思ったぐらいだ」

「なんだよそれ……まあ俺っていうのなら分かるけどさ」

 

 そうやって……せっかくだしと一緒に帰る帰り道。

 軽い雑談をしながらも一歩後ろをあるく彼は急に立ち止まった。


「……バアル、どうした?」

「主よ」

「ん、なんだ?」

「今は楽しいか?」

「あーまあな、今日も楽しかったぞ?」

「ならいいのだが……」


 家までもう少しという所で掛かる声。

 少し低い声音に心配して身構えたがそんな質問だったので気は抜ける。


「なぁ主よ……我は、今の主が心配だ。中から見ていたが、前以上に危うく……自傷に躊躇いを感じない。主の目的は分かるが……もう少し自分を」

「……それは安心しろバアル。綾音にも言われたから分かってるよ、霊真の体で無茶はしない。それに代償魔法も控えるって」


 少し言葉を遮って、俺はそう言ってしまう。

 立ち止まるバアルの表情は暗がりのせいで分からないが、少なくとも真剣な顔はしているだろう。


「……ならいいのだが。すまない主、急にこんなことを言ってしまって」

「いいって俺のこと心配してくれてるんだろ? なら謝るな」


 そこで会話は終わる。

 家に着いたということもあるが、話すことはなくなったから。

 バアルを入る前に魂の世界に戻し、そのまま部屋に帰って今日のことを思い返しながらも俺は、意識を落とした。

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