第6話:狼姉妹

「っとマジやばい落ちる!?」


 足場が崩れたことで落下する俺は慌てながらも魔力を籠めて呪文を唱える。


「ッ――――【サモン】!」


 手元から広がる召喚陣。

 ……真下に展開したそれからは巨大な狼が……二匹も現れた。

 蒼く月のような毛並みの銀眼の狼が先に現れ俺のクッションとなり、続くように太陽を思わせるような毛並みをした銀眼の狼と瓜二つだが少し小さい狼が着地する。


「ん……ますた、無事?」


 俺が毛並みの柔らかさを感じていると……次の瞬間にはルナの腕の中にいて、俺は彼女に抱きかかえられていた。


「助かったルナ……まじでありがと」


「ふふ、ますたを守るのは私の役目だから」


 いつまでも抱きかかえられるのは恥ずかしいので、降ろして貰ったんだが……一息つく間もなく、別の誰かから声をかけられる。


「相変わらず頼りないね~レイマ~……そんなんだから死んじゃうんだよ~?」


「死んで悪かったなソル……というか、俺はルナだけ呼ぶつもりだったんだが、なんでお前もいるんだよ」


 声をかけてきて人の姿に変化したのはルナの双子の姉であるソルだ。

 顔がまったく同じだが、身長が二十センチは離れており……一見するとルナが姉に見えなくもないが、本人談でソルの方が姉らしい。


 オレンジがかった太陽のような金の髪色……全てを飲み込むような黒と白のオッドアイ。何処とは言わないが、本人が気にしているルナとは違う一部分……相変わらずの姿と態度に変わってないことを喜ぶも――開始早々煽ってくるとは思ってなかったので少しショック。


「……え、だってルナ一人じゃ頼りないし~――それにね、レイマで遊びたかったんだぁ~!」


「だからって一つの召喚陣で来るなよ、魔力消費増えるだろ……」


「知らなーい……そもそもボクを呼ばないレイマが悪いよね~?」


「……それは悪かったな、でもこの世界でお前達をおいそれと呼ぶわけにはいかないんだよ」


 いつもの通りからかうように俺で遊ぶみたいに喋る彼女。

 久しぶりに会った罪悪感からか少し素っ気なく接してしまった。でもソルとはいつもこんな感じで接してたし大丈夫だろうと――そう、思ったから言ったんだが……。


「は? ……それこそ知らないよ? え、何かな……ボクはずっと会いたかったんだよ? それなのに、その程度の理由で呼ばないのは違うよね? ――それにさ、ルナは呼んだのにボクを呼ばないのはおかしいと思うんだけど? ねぇレイマ? ……ボクのことはいらないの? 答えてくれないかな? ……ねぇねぇ――答えてよぉ」


 明らかに眼から光を消して……それどころか今まで見たことのない情緒で、捲し立てながら俺を見上げてそう言ってきた。


 え……こんなソル知らないだけど、マジでどうしたんだよ。

 こいつは俺をからかってくるし三年間ずっとその態度を変えなかったのに……まじでなんでこうなってるんだよ。


 こうする時の正解とか俺知らないんだが……明らかに大丈夫だじゃないし、このまま放置も出来ないし……まじでどうすれば。

 それに凄い黒い魔力が滾ってるし、どこからどう見てもやばい。

 ……何かないかと思考して回す思考回路、考え抜いた先でそういえば男の召喚獣の一人がなんかあったらとりあえずちゃんと謝れと教えてくれてたような……。


「――悪かったなソル、会えなくて寂しかったよ……それに、自分がいらないとか言うなよ……大事な仲間のお前がそんなこというのは嫌だ」


「……ほんと? ボクはレイマに必要?」


「あぁ必要だし、これからも頼りにするから……いつものお前に戻ってくれ、そっちの方が好きだし」 


「ふ、ふーん……そんなにいつものボクがいいんだ~レイマって本当に変態だね~――まぁいいよ、そんな変態なレイマに付き添えるのはボクぐらいだからね~!」


 ……なんとか一件落着か?

 いつものソルに戻ったし……感じた黒い魔力も消えてくれた。

 それにほっと胸をなで下ろしながらも、じとーっという視線を俺は覚える。


「……ほんとますたは変わらない」


「なんだよその目」


「別に? ただ変わらないと思っただけ」


「……なんか不服なんだが」


「気にしないでよレイマ……それより、後で頭を撫でて――」


『GAAAAAAA!』


 そう言ってソルが何かを言おうとしたときだった。

 俺がこのダンジョンに入って最初に聞いた咆哮が再びこの世界に響き、次の瞬間に周りに数多くの気配を感じる。


「うるさっ――この気配は蜥蜴だろうけど、ボクの言葉を遮るとか極死決定」


「お姉ちゃん抜け駆け禁止……」


「それルナが言う? 匂いでバレてるけどレイマに撫でられてたの知ってるけど?」


「……何のことか分からない」


「まっいいけどね――で、そうだルナどっちが多く周りの蜥蜴狩れるか勝負しよ?」


「いいよ……勝ったらチャラで」


「自白してるじゃん……でもいいよ、ボクが勝ったらレイマ一日独占ね~」


 ……なんかやる気になった二人、周りには気配を見るに数百匹規模のワイバーンがいて……そいつら全てが俺達に狙いを定めている。

 

「あの……お前等、力試しだから慎重に――って聞いてないし」


 どうみても戦闘態勢な二人……こうなった二人は止められないし、止めたら止めたらでしわ寄せが来る――だから俺はどっちかに偏らないように傍観することを決め……。


「……えっと頑張れーソルにルナー」


「いざ――」


「勝負!」


 そして二匹対ダンジョンにいるワイバーンとの戦闘が――いや、蹂躙が始まった。

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