第8話:迷惑系配信者

「それじゃあ今から俺は立ち入り禁止の【龍塚】に突入しま~す!」


 ニヤニヤとした笑み想像出来るような声音でその男はそう言った。

 【龍塚】それはAランク屈指の危険度を持つ難易度のダンジョンであり、数十年間攻略されずあまりの難易度から半年前ほどに立ち入りを禁止され場所。

 

 特徴としては蒼天が広がり山が存在する明らかな異界。ワイバーンや他の竜種が数多く存在する危険地帯であり、幾人もの冒険者を葬ってきた地獄である。


 そしてこのダンジョンはただ攻略が出来ないのでは無く、生息する竜種達が外に出る危険性があるためという理由で立ち入ることを禁じられたのだ……しかし、生還した冒険者の証言からその難易度に見合った報酬が眠っており、この男のように侵入する冒険者も後を絶たない。


〔いくらお前が迷惑系配信者だからってそこに行くのは違うだろ!〕

〔罰金どころじゃないぞ、早く帰れ!〕

〔龍塚の攻略で亡くなった方のことを考えてください〕

〔馬鹿帰れ、そこは他のダンジョンとは別格なんだぞ!〕

〔ワイバーンが外に出たらどうするんだ!?〕


 荒れ続けるコメント欄。

 だがそれを気にせぬ素振りで男は、カメラを回してこう続ける。


「馬鹿か? 俺様を誰だと思ってるわけ? 大手ギルドの【イリーガル】に所属してるAランク冒険者様だぞ? そんな俺ならこんなダンジョン余裕だって!」


 下品に笑いにバカにするような口調。

 男は完全に舐めた態度でダンジョン内に侵入し……立ち入り禁止ダンジョン【龍塚】に足を踏み入れ……目の前の光景に絶句した。


「――は?」


 高性能な魔導デバイス。

 配信に特化したそれにより、映される光景は……吹雪に埋まる山と森。

 曲がりなりにもAランク……つまりは第一級の冒険者である男は、事前にこのダンジョンのことを調べていた。

 

 だからこそ、目の前の異常が信じられない。

 ダンジョンというのは異界である……一つ一つが独立した世界であり、天気などの環境も変わることがあるが――原則として生息する魔物が暮らしやすい環境にしかならない。


 ワイバーンや竜に分類される魔物達は寒さに弱いことが多い。

 そして男が調べた限り、このダンジョンには氷属性の魔物は存在しないはずなのでこの環境変化はあり得ない。


「……イレギュラー?」


 これで考えられる現象は、異常事態。

 ダンジョンが変質したか魔物の突然変異しかありえない。

 そしてさらに何がおかしいかと言えれば、こんな吹雪の中で寒いはずなのに異常なまでに汗をかく。まるで真夏かのような……それ以上の熱気が極寒に混じっている。


〔ここって吹雪くようなダンジョンだっけ?〕

〔イレギュラー?〕

〔これ政府に報告しないといけない奴だろ〕

〔立ち入り禁止ダンジョンのイレギュラー?〕

〔Sランク冒険者の領分じゃないか?〕


 あまりに異常事態に、さっきまで男を止めていたコメント欄は目の前の事象に対するコメントで埋まる。


「このイレギュラーを解決したら、俺英雄じゃね? なぁーお前等ー今から進んでみるわー。これで攻略したらSランクの仲間入りだよなぁ!」


 ただの馬鹿なのか、無謀な思考を披露して崩れた足場から飛び降りたその男。

 コメントは静止の声で埋まるが、未知を前にした冒険者は止まることを知らない。

 それどころかここを攻略したらという可能性と未来を妄想し浮き足立って前に進んでいく。


 そして――その先に進めば進むほど見る光景は。おびただしいほどの凍死体と焼死体、完全に生命活動を停止させたワイバーンや竜の体が凍ったり黒焦げになったまま転がっていて、それは奥に点々と続いていた。


 この環境で……一切現れない他の魔物、このダンジョンはBランク相当のワイバーンがほぼ無限に生息していてそれが襲いかかってくるはずの場所なのに、あるのは死体のみ。一切襲われぬまま奥に進めば――、


「は? エメラルドドラゴン――完全に死んでるぞ、これ」


〔Aランクモンスター!?〕

〔しかも滅多に出ない鉱石竜だぞ!?〕

〔その死体を放置って、やっぱりイレギュラーなんじゃ……〕


 Aランクに属する宝石竜という種族の中でも希少性が高いエメラルドドラゴン。

 倒し素材を手に入れればかなりの富が手に入るという遭遇したら絶対に狩りたい魔物の一種だ。


 そんな緑の体躯のその竜は頭部が完全に消失しており、体が凍り付いて抉れている。どうしたらこんな殺し方が出来るのか男には想像出来なかったが……ただ分かることはこの特級とも言える素材がただで手に入るということ。


「イレギュラー様々だな! 完全に俺の時代が来たぞこれ!」


〔そんなこと言ってる場合じゃ無いだろ!〕

〔エメラルドドラゴンを倒せる奴がいるんだぞ!?〕

〔馬鹿すぎる……〕


 そんなコメント欄の反応と比例して、進んでしまった現代ではあまり味わえない久しぶりの未知のせいか、視聴者数が伸びていく。


「おっやっぱりお前等も筋金入りだよなぁ――まぁしょうがないからもっと奥行ってやるよ!」


 常人離れした身体能力で奥に進みながらアイテムを拾い、何の苦労もせずに宝をゲットし続けていく男。イレギュラーに感謝しながらも辿り着いたのはこのダンジョンの最奥。


「意外と堅いなこの龍……ルナ達強化いるか?」


 そしてその場所で、いるはずの無い第三者の声を聞いた。


 

 

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