第9話:VS黒龍

 ダンジョンの最奥である山中の祭壇。

 そこでこのダンジョンのボスであろう黒い龍と対峙し、ソルとルナを支援しながら指示を出し様子を見る――数分ほど戦ったが、この龍は異世界でも戦ったことのあるような一般的な龍である。

 

「しかもこいつ……その中で上位には迫ってるな」


 巨大で速くて、力も強く魔法も使える生物の上位存在。

 しかもこの龍は闇属性の魔法も使えるようで……明らかにこのダンジョンの中では別格の存在だ。

 今までのワイバーンやいた竜種達の長だろうこいつは確実に怒っており、このダンジョンの魔物達を絶滅一歩手前に追い込んだソル達に怒りを向けている。

 本当ならもっと警戒して、慎重に戦闘を進めた方が良いだろうが……。

 

 この敵は俺からすれば未知の存在だ。

 強さも分からず、もしかしたら力を隠しているかもしれないという……そんな危険な魔物であり、何より異世界で狩った奴とは違う特性かもしれない。


「でもまぁ――力試しにはちょうど良いか」

 

 未知の存在に……未知のダンジョン。

 そんな現実を前にして俺の仲間が何処までやれるか知りたくなる。

 この平行世界で力を隠す必要があるかも知れないが……隠す前に試す必要があるだろう。


「――【ウェポンサモン】」


 だから一度、俺は少しだけ様子を見るのを止める。

 俺の戦闘スタイルは召喚獣に任せながらのサポーター。主に支援系の魔法を使いながら戦いを進めるタイプだ。

 簡単な支援程度なら補助具となる杖を使う必要は無いが……力を試すなら本気に近い方が良い。


「こいよレーヴァテイン――久しぶりの戦場だぞ」


 呼び出すのは剣としても使うことの出来る灼炎の杖。

 一振りで全てを焼き尽くす攻撃用の魔法の杖だが、魔法効率が最高峰であり支援補助としても使える最高峰の愛用武器である。

 

 この武器の支援性能ならば、魔法を俺の思い描く通りに何より一切のラグが無く使うことが出来るのだ。


「二人とも今から全力で支援するから好きに暴れろ!」


 それを伝えれば、二人の気配が変わる。

 暴れていいという言葉を聞いてキレながらも守っていた力試しを止めたのだ。

 流石に全力で戦わないとは思うが、試しから狩りへと二人の思考が変わったのを肌で感じれる。


 ……なら、それに答えるのが主の役目だよな。


 縦横無尽に暴れるソルとルナ。

 今までは地面を移動していた彼女たちだが、俺が杖を解禁したことで動きが変わる。俺のサポートを織り込んだその動きは、空中すらも足場として四方八方からの攻めとなった。


「GUGAAAAAAA!?」


 困惑の唸り声。

 そりゃそうだ翼を持たない彼女たちがまるで飛ぶように空中から迫ってくるのだから。これの絡繰りとしては、俺がソルとルナの動きに合わせて不可視の足場を作っているってだけ。


 なんの変哲の無い魔力足場なのだが、この戦法が初見の相手だったらやっぱり困惑するよな……まぁだからとって手を休める気は無いが。


「【ストレングス】【ディフェンス】――えっとルナだけに【火炎耐性】を付与」


 この黒龍の攻撃で一番厄介なのは火球にブレス。  

 炎を完全に吸収できるソルにはいらないが、少し炎に弱いルナにはかけた方がいいという判断だ。


「流石は二人だな、龍種相手にこれだけ優位を取れるなんて」


 二人の連携により、確実に削られていく黒龍。

 雄大だった翼には穴が空き、所々抉れて火傷すら負っている。

 本来なら龍種は炎に対する非常に高い耐性を持っているはずだが、この世界の龍はソルの炎に耐えられないらしい。


「――あり得ないだろ、なっなんだよこれ!」

 

 そうやって思考を続けていると、岩陰の方から声が聞こえてきた。

 いるはずの無い第三者の存在、そっちに視線を向ければ黒い髪の青年が腰を抜かしながらこっちを見ていた。

 

 ――不味い。

 力を解放している二人の余波であの青年の足とか凍ってるし、このままじゃあの人が巻き込まれる――ダンジョンにいる人間が一般人だとは思えないが、ルナの余波で少しでも凍る人間が巻き込んで死なないとは思えない。

 

「――っここぞとばかりに火球を吐くなよ!」


 俺が背を向けてその青年を助けに側に行こうとした瞬間、人間を軽く飲み込めそうな程巨大な火球が岩陰の方に放たれた。


「ッ――」


「【ウィース・レフレークシオ】!」


 助けるために咄嗟に使うのは反射魔法。 

 男の目の前に展開したそれは岩石を融解しながら迫った火球を反射させ、黒龍の顔面に自分が吐いた炎を返した。

 そしてそのまま男の側にやってきた俺は、すぐに声をかけようとしたんだが、その人の顔は真っ青で俺が声をかける前に言葉を出す。


「おっ俺、今――死んで――」


「生きてるから、そこから動くな――巻き込まれて死ぬぞ?」


 忠告とともに軽く結界を張ってその男を守ることにする。

 その人は状況を理解できないようだが、完全に溶けた岩を見て状況を理解してくれたようだ。


「――二人とも、一気に決めろ時間が無い」


 任せてとそう言いたげにこくりと頷く月と太陽の狼。

 ……彼女たちは俺の言葉に従うように魔力を高めてく、それを支援するためにも俺自身の魔力を二人送り――。


「【ラディーレン・ソル】!」


「【デーストルークティオー・ルナ】!」


 次の瞬間に彼女達の必殺技が黒龍へと放たれた。

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