第16話:入学初日は波瀾万丈
「…………式?」
記憶にあるとおりの顔で少し成長したその姿、だけど聞き覚えのある声。
小四からの付き合いがある……俺の大親友、そんな彼がそこには立っていた……。
「なんだ親友、パンダが笹捕られたような顔してらしくねーぞ」
「なんだよ……その例え、相変わらず変だなお前」
「ダンジョン馬鹿に言われたくねぇよ、それよりあれだ――皆お前の話聞きたがってるから早くやろーぜ、このクラス三十二人だぞ?」
相変わらずの態度、ぶっきらぼうだが仕切ってくれるこいつは元の世界と変わらず乗りというかリーダーシップがある。
それに……一瞬思考が揺らいだが、なんとか持ち直して覚悟を決めて質問タイムに臨むことにした。
「……えっとじゃあ、順番に」
「あ、はい! えっとえっと、綾音様とはどんな関係なんですか!」
あれ、サポート科って聞いたからダンジョン関連の質問だと思ったんだけど……なんだその質問。え、身構えてたけど何か違うくない?
「え、私もそれ聞きたかった! やっぱり朝も一緒に登校してたし、付き合ってるんですか!」
「分かるぞ! 中学から噂の天才冒険者とサポーターコンビ! 凄いコンビネーションだって聞いたし、どうなんだ!」
……それを皮切りに、なんか綾音関係の質問ばっかりされる俺。
魔物のこととか、ダンジョンの構造とかを一応探り探りで質問しながらと覚悟したのに、どういう流れなんだよ。
「あ、えっと……綾音とは幼馴染みなだけ、だぞ? あっちもそう思ってるだろうし……そんな関係じゃ無い……………………はず」
最後に関しては完全に小声になってしまったが、マジで知らないのでそう言うしかなかった。
「そうなんですか!? あの登校中の距離間で!?」
「…………すげぇこれが天才サポーター」
「ビジネスライクなのかな?」
……よし、反応を見る限りこれが無難な選択だったな!
変な面で畏怖を持たれた気がするが、これも全部綾音が無理矢理来たせいだ。
――おのれ綾音許すマジとか思いながらも、せめてもっとましな質問しようぜと考えるも……聞かれるのは綾音との関係ばっかり、とか思っていたら一人の背の低い中性的な男子生徒が声をかけてきた。
「あの、霊真さんはあの黒ローブの動画……視聴しました?」
「――ッぶふっ――へぁ。あ、あー見ぃーたぞー?」
で、その子に突如としてそんな爆弾を向けられて、俺は咽せてしまいすっごい微妙な……なんというか溶けたような表情でそう答えてしまった。
「ですよね、やっぱり見ますよね! サポーター適性のあるサモナーのジョブでのあの動き、召喚獣への完璧とも言える支援のタイミング! あんな動画、研究のしがいしかありませんから!」
「だよ……なー。うん分かる……凄いよね、あの黒ローブ――それにさ、召喚獣もめっちゃ綺麗で凄いし、そうだねマジ凄い」
拡散されて未だ伸びてるせいで永遠に黒歴史に襲われた俺は、ツミッターアカウントとダンウォッチ垢では黒ローブをNGワードにしたぐらいだ。
本当に急すぎる爆弾に、俺に会った全ての語彙を消し飛ばした言葉しか出せなくなり凄いボットへと俺は変貌した。
で――時間的にもそれで質問は終了、その後は今日が二限しかないこともあり、一時間通常授業をしていざ帰ろうとなったんだが……。
「……よぉ暇か親友? 暇だったら購買で飯買おうぜ?」
「へぇ購買あるんだな、ここ」
「あぁ、それもとびっきり旨い奴。おすすめパン類、特にクリームパンとカレーパンが最強だ」
「まじか、それは気になるな――でも何処で食うんだ? 混みそうだろ……」
「ふっそう言と思って屋上の鍵を借りてきたぞ、景色良いしそこ向かおうな」
「……お前天才」
「もっと褒めろ、オタ芸する勢いで」
「それは嫌だ」
そんなやりとりがありつつも、俺達は二人で屋上に向かい……買ったパンを並べながら食べ比べすることにした。
全部旨そうだし、アップルパイや餡子がはいったクロワッサンという変わり種すら置いてあったやばい購買。
絶対普通じゃないラインナップについつい買いすぎてしまったが、これは食べ甲斐があるだろう。
「……なぁ、親友。お前なんかあったか?」
「……なんだよ急に、別に何もないぞ」
急に投げられたそんな質問。
勘の良い此奴のことだし何かに気づかれたのかもしれないという予感が少し過る。だけど、ボロを出す訳にはいかないので、なんとか誤魔化すことを決めた。
「んーならいいんだけどよ、なんか違うって言うか……ずっと身構えてないかお前」
「あー……入学したばっかで緊張してるんだよ、俺だし」
「はは、まあお前妙なコミュ力だしな、行くとき行くし基本日和るし、あの人数の質問攻めにあったらそうなるよな――久しぶりに会うから心配だったが、変わりないならよかったよ」
この様子、気づかれたわけじゃ無いだろうし……何より、俺が記憶喪失だという事を知らないのか、此奴のことだし綾音の奴から聞いてそうだったんだが。
それに、式の奴の勘の良さを考えると下手に記憶喪失を演じるのは悪手過ぎるから。だから綾音には伝えないでくれと頼む必要もあるだろう。
まぁでも……。
「……そうか、すまん式。心配かけた」
「おう。そだ学校のこととか分からないだろうし……いつでも聞いてくれよな」
「それは聞くつもりだから安心しろ、めっちゃ頼るからな」
「……はぁほどほどにしてくれって」
それで苦笑し合って、俺達はパンを食べようとしたのだが……その瞬間に学園の警報が鳴った。
【緊急事態発生――地下ダンジョンから、魔物が逃走! 職員は対処に向かってください! そして学園に残っているCランク以上の上級生も加勢すること! 緊急です! これは訓練ではありません! 繰り返しますこれは訓練ではありません!!】
そしてそんな放送が流れ、学園に魔物の気配が――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます