第15話:時季外れの入学って気まずいよね
学校に着いた俺は校長室へと案内されて。この学校――【
校長にしては若く見えるような二十代後半っぽい男性、それか三十代前半ぐらいのイメージを持たせてくれる彼は俺にお茶を出してくれた。
「改めて、我が迷窟高校に入学してくれて感謝するぞ霊真君」
「あ、はい――あの失礼かもなんですが、なんで意識不明で時期ずれたのに俺を入学させてくれたんですか? 助かるんですけど、理由がいまいち……」
これは目覚めてすぐのことなのだが、この校長先生はわざわざうちに来て学ぶ意欲があるのなら今からでも入学してくれないかと頼み込んできたのだ。
そこで祐二さんから迷窟高校という名を聞き、それが机の中にあった日記に記されていた名前だった事と、この世界の霊真がその高校に入る目的だったことを覚えていた俺は少し悩んだ末に入学を決めた。
しかし後から調べれば……この学校はかなりの有名校だったらしく、その校長がわざわざ俺のためだけにくるとは思えず、ずっと不思議に思ってたのだ。
で、それを聞いた結果なのだが……。
「――何を言うんだ! 逆に君ほどの天才を入学時期が遅れたという理由だけで弾くわけ無いだろう! それに事故はしょうがない――むしろだ。君が依然変わらずにこの高校に来てくれてこっちが感謝したいくらいだ!」
がばっと彼が立ち上がり、そんな事を言ってきた。
……なんだろうこの反応、妙に評価が高いけどこの世界の俺って何かしたのか? 思えば日記で少し把握した程度であんまり自分の過去を調べてなかったし、記憶喪失で押し通してたけど、友人がいるかもだしもう少し探った方がいい気がするな。
この人に聞きたいが、記憶喪失のことを言ってないし……どう聞こうか、とかおもってたんだけど。
「何より! 中学の頃から雪崎綾音君の専属サポーターを勤め、彼女をSランクにのし上げた天才! いや、魔力とジョブを持たないのにも関わらず、その機転とダンジョン、そして魔物に対する知識で新たなサポーター論を確立させた大天才である狩谷霊真を迎えないわけが無いだろう! それに君は元々サポート科の首席合格者だぞ!」
なんか、テンションが上げまくってめっちゃ説明してくれた。
それはもう丁寧に俺の功績を伝えてくれて、全然知らなかった魔力とジョブの状態すらこの人は語った。それはもう憧れの人を目にした時のようなテンションで、めっちゃキラキラした眼で……。
「そ、そうですか。俺こそずっと迷窟高校には通いたかったので……嬉しいです」
テンションに押されて引きながらも、どうしようかと考える。
ぼろを出さないようにと思ってたけど、今のを聞くとボロを出さないのが難しくなった。今の話が本当ならばだが、元の俺はサポーターをやってたらしいし、かなりのダンジョンに対する知識があったと分かる。
それに対して俺は、この世界のダンジョンと魔物に対する知識が無い。
今までは記憶喪失設定に甘えて、そこまで深く調べないようにしていたが……この体を返すまでに色々とやることが多そうだ。
というか、なんだこっちの世界の俺……めちゃくちゃ凄くないか?
なおさら湧いてくる罪悪感に苛まれながらも、めっちゃはしゃぐ大人に引いてしまう。
「あぁ! 是非とも我が学び舎で精進してくれたまえ! 期待しているぞ!」
そんな風に見事な激励を受け取った俺は、マジどうしようと思いながらも外で待機してたらしい先生に案内されて自分が学ぶというサポート科の教室へと向かった。
呼ぶまで待っててねということなので……少し待ち、教室の中から名前を呼ばれて入室する。
黒板の前に立ち……というか好奇の視線に晒されながらも、転校生のような扱いに少し固まる。緊張というわけじゃ無いが、いざ挨拶となるとなんて言って良いか分からなかったからだ。
でも……流石に何も言わないわけにはいかないしぃ。
もう腹くくるかと思い、最終的に俺は漫画やアニメっぽくたまにみた転校シーンを参考に……無難なところを攻めようか。
「えっと、狩谷霊真だ……六月という時季外れの入学という形になるが、少しでもクラスに馴染めるように仲良くしてくれると助かる――その、よろしくな」
一応なんだが、俺は異世界で王族や貴族と関わることもあったし最低限のコミュニケーションは取れると信じたい。だからまじで角が立たないように無難なのを選んだつもりだ。
「えっと狩谷君は空いてる窓際の席でお願いします」
「了解です先生」
「それと今日の一限目はせっかくですし、狩谷君への質問タイムにしましょう! 皆さんそれでいいですか?」
先生的には気を利かせてくれたんだろうが、すっごく申し訳ないけど今の状況からすると悪手過ぎるなぁと……え、どうしよう質問されても何も答えられないぞ?
今の俺の知識は異世界の魔物の知識のみ、つまり現代の魔物の知識は赤ん坊筏と思っていい……何が言いたいかって? あいあむ無知。
「――くっだらねぇ、遅れてきた奴に聞くことなんかねぇだろ」
そして、質問タイムが始まる瞬間。
ガンッ――と、机を蹴って立ち上がった生徒がいた。
そんな彼は俺を少し睨んだかと思えば、すぐに教室を出て行ってしまい……場に静寂が訪れた。
どうしようこの空気とか思っていると、俺の元に近づいてくる影一つ。
「気にすんなよ親友、あいつはいつもあんな感じだ」
にかっと笑うそいつは赤い髪したバンダナを巻いたイケメン男子生徒。
俺の記憶に掠った彼は、俺の元の世界での親友で……異世界にいた時にはもう会えないと思っていた大事な奴の一人でもある
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