第14話:いざ開幕の高校生活ぅ! 

 学校へ行く支度を終えてから朝食を終えた俺は家から出ようとしたのだが、その瞬間にインターホンのチャイムが鳴った。


「……誰だよ、こんな時間から」


 朝七時四十分という微妙な時間。

 そんな時間にわざわざ来る人間に心当たりは……って一人いたな。

 どうせあいつだろうと思いながらも、インターホンに映る少女を見る。そこには案の定というか、見知った白髪赤目の兎っぽい少女がいた。

 

「おはよ綾音……何の用だ?」


『同じ学校だから、一緒に行こう?』


「……遠慮しとく」


『――え、なんで?』


 考える余地もなく俺が断ればすぐにそんな風に返された。

 理由としては昨日の今日でダンジョン配信者というか冒険者の影響力を知ったからなのだが……そんな冒険者の中でも最高位に位置するSランクの綾音と一緒に登校するなど目立つだろうからだ。

 

 ……まぁ、でもそんな事を素直に言えないので言い訳をするしか無い。


「でも気まずいだろ……記憶無い奴と登校するの」


『……霊真は霊真だよ、全然変わらない。それに私は気にしないもん』


「いやさ、俺が気まずいんだよ」


『……むぅー慣れて』


 んな無茶な……と思ったがこんなやりとりをしている間にも時間というのは進むもの。調べた限りでは入学先の高校には二十分程掛かるわけで、余裕を持ちたかったしそろそろ行かなきゃ不味い……でも彼女が俺がいた世界と同じ性格ならば、


『そういえば、霊真は学校の場所分かるの?』


「……まぁ? 一応、調べたし?」


 分かってた……別の世界だと行っても、俺が霊真で彼女がずっと一緒だった幼馴染みである以上ここを絶対に突いてくると。


『ふーん、でも行ったこと無い場所だよね? ほんとに分かる?』


「………………何が言いたいんだよ」


『宗夜さんに聞いたよ、散歩したら迷ったんだよね?』


「……父さん、なんで教えてるんだよ」


 一応なんだが弁解はしておく。

 今住んでる場所は元の世界と同じなのだが、ファンタジーが混じったことにより所々が記憶と違うのだ。まぁ、百歩譲って方向音痴な面はあるけど、だからってそこまで酷いわけでは無いんだが……正直言えば、学校までの道は迷う自信しかない。


 だから早く支度をしたし、余裕を持って出たかった。

 だが、綾音と登校or初日遅刻を天秤にかけた時……まじで迷う自分がいて。


「……何が、望みだ」


『一緒に行こう?』


「…………や、い」


 先生に初日から目をつけられる方が面倒くさいという結論に至り、俺は【やだ】と了承の意である【あい】が混ざったような言葉が出てきてしまった。



 入学予定の高校への通学路、住宅街を進みながらも綾音と一緒に歩いて行く。彼女から離れないように横を歩きながらも、出来るだけ顔を合わせないようにして。


「ふふ、久しぶりに一緒に登校だー」


「……よかったな?」


 妙に上機嫌な……一応理由は分かるけど、こんなに喜ぶものだろうか?

 中学までは、というよりこっちでは分からないけど元の世界ではずっと一緒に登校してたわけだし――とそう思ったんだが、こっちの綾音からすれば本当に久しぶりの一緒の登校なんだなと。


「…………なぁ綾音、前の俺ってどんな奴だったんだ?」


「……知りたいの?」


「……まぁ、少し」


「えっとね。不器用でダンジョンオタクで、方向音痴だし機嫌悪いとすぐ拗ねるし、変なところで馬鹿でちょっとずれてる子?」


「――え、それ俺? ほんとに俺、綾音がからかってるとかじゃなく?」


 なんか綾音の口から出た情報は、全部ネガティブというか良い記憶を一切感じなかった。この世界の俺なんなん? 馬鹿なの、綾音になにしたんだよ……とそんな風に思考が回転するが、それを見る彼女は声音からとても楽しそう。


「ふふ……うん、ちゃんと霊真だよ?」


「えぇ……それと変わらないのか、俺」


「うーん……まあ霊真だしね。でもね――」


 そう言って、少し足早に進んだ彼女は上を見上げながらこう続ける。


「一緒に登校するときに歩幅を合わせてくれるところも、妙に鈍いのに気遣ってくれるところも、我が儘聞いてくれるところも――何よりね優しいところが変わらない」


 それだけ言って満足したのかすぐに俺の近くに戻った綾音。

 ……気恥ずかしいというか、なんというかそんな言葉にどう返せば良いのか今の俺には分からなかった……こっちの霊真と綾音の関係は知らないが、だって俺は。


「えへへほんとはね、不安だった。記憶喪失って聞いたし、あんまり構ってくれないし、霊真は気まずそうだから関わりにくいし――でも一緒に登校して安心した霊真ってやっぱり霊真だなぁって」


「――――ごめん」


「えっと、なんで謝るの?」


「いや……」


「そこも変わらないね、謝るの悪い癖だよ。とにかくさ、せっかくの学校生活なんだし、今日からよろしくね」


「そうだな――あぁ、よろしく綾音」


「うん、よろしくお願いします――ふふ、ちょっと恥ずかしいね」


 ……いやマジでそう。 

 俺はそんな事を思いながらもずっと合わせてなかった彼女の顔を見る。

 ……そこには相変わらずの綺麗な赤い目と少し無表情だけど、照れているのかほんのり染まった頬が見える。


「…………いつか、返さなきゃな」


「あれ、何か言った?」


「いや、学校ってどんなだろうって思って」


「楽しいよ?」


「なら楽しみだ」


 そう言って、俺は学校へと一緒に向かい……そして、やっぱり初日から一緒に登校するのはやっぱり不味かった事をこの後に知るのであった。




 

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