第13話:正体不明の黒ローブ(笑)

「凄く……眠い」


 ダンジョンを攻略した翌日のこと、昼頃に目が覚めた俺は微妙に残る睡魔にやられながらもベッドから出ようとして……誰かに抱きつかれてることに気がついた。


「明日から学校だし……生活習慣、直さないと」


 まだはっきりと起きてないながらもそんな事を口にすることで意識を戻していき、瞬きを数度繰り返した後に俺は布団の中から出ようとし……その時に気づく。


 俺の上にかかっているのが掛け布団以外に何かあると――それは俺の胸にもたれ掛かるようにして乗っており、軽いがしっかり俺を掴んでいるせいで離さない。冷たい感触と甘い匂いがつんと香り……大体その正体が分かったが、一応の確認のために布団を上げる。


 布団を上げればそこに居たのはすーすーと寝息を立てる召喚獣のルナ。

 蒼い髪をしたしっかりもの彼女が自分から入ってくるということはないだろうし、きっと寝惚けて入ったとかだろう。


「というか召喚したままだったのか俺」


 そんな事を呟きながらも困ったなと、せっかく眠る彼女を起こさず抜け出す自信はあるけれど、彼女の尾がちゃんと枕として機能しているせいかひんやりしてて柔らかくて、なんというか出て行く方が罪悪感を覚えてしまう。

 

 六月のくせに暑いこの日にこの枕を手放すのは最早罪だと思うほどには気持ちよく、これを手放すのは馬鹿の所業……。


「いや……駄目だろ俺、そこは落ち着けよ」

 

 誰に何を言い訳するわけでもないが、とりあえず小声で独り言。

 状況を確認すると色々不味い気がしたのだが、がっちり捕まれているせいか抜け出せそうになかった。抜け出せる自信とか言ったけど、思った数倍はルナの力が強い。

 仄かに香る甘い香りに柔らかい感触、それに照れてしまうが……この状況を誰かに見られるのは不味い……特にこの世界の家族に見られたらまじやばい。


「ふふ、ますた……暖かい」


 あぁもう、まじで破壊力がやばいな。

 なんだこいつ、まじで……無防備すぎる。

 そんな風に悶えていると、ルナは小さく身じろぎをして俺の胸板に顔を擦りつけてきた。そして、それどこころかかなりの質量を持つ双丘が潰れて、むぎゅっという効果音が……というか召喚獣達の事は意識しないようにしてるのにこれは不味い。


「……すまんルナ、戻ってくれ」


 そこからの動きはとても速かった。 

 俺は完全に彼女が殺しに来ていると判断して、強化魔法を使ってから全速力でそこから抜け出して、抜け出した後で彼女の召喚を解除した。

 いまだバクバクとなる心臓を抑えるように心頭滅却しながらも家族分の朝食を作り、皆が起きてくるのに備える。


「世界違えど……SNSはチェックしちゃうよなぁ」


 準備を終えた暇な時間。

 前の世界でもたまに……というか少し癖になってたSNSの巡回、なんか無償に気になる日ってあるよなぁとか思いながらも、やっぱりトレンドを見るのが楽だよなとか思ってたら――。


日本のトレンド

1.一般通過黒ローブ

2.召喚獣

3.サモナー

4.龍牙捕まる

5.ネットの海


「わっと?」


 なんか嫌な予感を覚えるほどに妙に身に覚えのある単語が羅列されていた。

 …………え?


「いや……は?」


 眼を疑って……数秒の思考の停止。

 何が起こってるんだろうと一瞬冷静になり、一番上のトレンドを開けば……俺とルナ達が戦う切り抜き動画が上がっていた。


「あ、起きたのね霊真……今日もご飯作ってくれたの? ――って霊真、大丈夫?」


「あ、いや……母さん、ツミッターのトレンド何だこれ?」


 あまりの混乱に、こういう事に詳しくないはずの母さんに思わず画面を見せてそんなことを聞いてしまった。


「それ? なんか凄い冒険者がダンジョンで現れたっぽいのよねぇ、母さんも色々調べたけど……凄い強そうだったわよ、でもなんか声に聞き覚えあるの」


 びっくりよね……とそう続ける母さん。

 妙に詳しいことに驚きながらも……現実を直視できない俺は、現実逃避するようにトレンドを詳しく見たのだ6~10位まで完全に俺に関係ある話題しか無く……ご飯を終えた後自室で暫く調べ……。


「ネット怖ぁ……」


 ダンチューブを見てみれば、どこかしこにも俺の切り抜き。

 認識阻害の黒ローブのおかげで正体はばれてないものの……どれもが馬鹿みたいに再生されていて、色んな記事では考察すらされている。


「というか俺、もっとましな名乗があっただろ……」


 今思い返すと一般通過黒ローブって何だよ、だせぇよ。

 しかも俺の細かい反応すら切り抜かれてるし……これ完全に黒歴史。

 軽く見返した結果、結構間抜けな反応が残されていて……無知なんだが無知を晒した感じになっている。それどこか、自分とは思えない程に変な語彙で……。


「…………えぇ」


 俺をはたから見るとこんなんなのか……と少し微妙な気分になりながらも、俺はもうネットに出ないようにしようと心に決めて――その日は現実から逃げるように、昨日届いたこの世界特有の教科書を見ることにした。

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