第17話:アサシンミッション
増える気配に、鳴り響く警報。
俺が通うことになった迷窟学園の地下にはダンジョンがあるとは聞いていたが、放送を信じるのならばそこから魔物が逃げたのだろう。
「なぁ式、これって」
「あぁ事件だろうな。霊真はここで待ってろ、俺は冒険者の手助けしてくる」
「式は……戦えるのか?」
「戦えないが、俺はエンチャンターだろ? ……って顔青いが大丈夫か?」
「――あーすまん……久しぶりに会ったからさ」
ここでも感じる違う世界故の疎外感。
……やっぱり式も違うんだなと、そんな当たり前の事を再確認した。
「とにかくだ武器もねーし病み上がりだろ? 霊真はここで待っててくれ――一応安全だろう屋上に避難誘導もするから説明とか任せる――じゃ頼んだぜ、親友」
「……あぁ、分かった。無茶すんなよ、式」
「しねーよ、それに迷窟のダンジョンの魔物にやられるほど柔じゃないって知ってるだろ?」
それだけ言って、式は屋上から飛び降りた。
……驚いたが、この世界だし大丈夫だろうと安堵する。
正直、状況は分からない……規模も不明だし、この学校の地下ダンジョンの脅威も知らないからだ。
何より、この学校にいる学生の強さも理解してないし……このまま放置すれば最悪死者が出る可能性がある。
それから数分、避難してくる生徒達に状況を聞きながらも……一向に不安が収まらなかった俺は――。
「…………悪いな式」
一言謝り、召喚術で呼び出したルナの毛を編み込んだ蒼銀のローブを羽織った。
それを身につけた俺の姿は溶けるように消えただろう。彼女の能力を付与したこのローブは高性能のステルス効果があり、長時間姿を消すことが出来る一品である。
「っと【サーチ】」
魔力監置を広範囲に使い、手元に学校をマッピング。
そして魔物の魔力が放たれる場所をそれに表示する……ダンジョンのような未知の場所とは違って学校という限られた大きさの場所だから出来る芸当だが、こういう事を覚えておいて良かったと過去の自分に感謝した。
「四十五匹くらい……結構多いな」
ざっと分かった数を口に出す。
……そしてそれの動きを観察しながらも俺は校舎の中を駆け抜ける。
人の気配がしない場所で固まってない反応の場所に向かい、俺はすぐにゴブリンの姿を発見した。
「……【ウェポンサモン】――アングリスト」
呼び出すのは圧倒的な切れ味を誇る短剣。
異世界にあったオリハルコンすら切断する程の切れ味を持つこれは、少し過剰かもしれないが……時間が無い今は手数と確実性を求めたい。
「悪いな……狩らせて貰うぞ」
抜剣し構えて――身体強化を足に回し、地面を蹴るように前へ。
引き絞ったその一撃は、容易にゴブリンの首を両断する……あまりの切れ味故か血すら吹き出さず絶命するゴブリン。
証拠を残さないようにそいつを焼き、次の魔物を俺は探しに行った。
同じ動きを繰り返す事……六回。
サーチしたマップを確認しながら、順調に各所で減っていく魔物を確認して人のいないところで魔物を倒す。
そういえば結構ばらけて現れてるが、ダンジョンから来たにしては変な気がする。
「それこそ……ばらばらに魔物を配置したかのような……」
今いるのは校舎裏、森に隣接するその場所で七匹目であるオークという魔物を狩った俺は少し思考し、そんな考えに辿り着いた。
でも……どうやって?
と、思った刹那の事――一際濃い魔力反応が人が集まってる屋上に溢れたのだ。
「――転移魔法か!?」
誰が使ったか分からないが、この反応は転移魔法の類いだろう。
……不味い、人が集まった場所に魔物なんか呼ばれたら……何より、避難しているのはあまり戦えない者か、サポーターが主だった。
考えている暇などない、距離は分からないけど――俺が無茶すれば、一直線に屋上へ迎える。幸い、このローブがあるのなら姿はバレないだろうから。
「【ヘイスト】……【ストレングス】」
速度上昇に足に強化を掛ける事による跳躍力の上昇。
あとの反動が怖いが人命優先だ……バレないように、絶対助ける。
俺はそのまま一気に跳び、落ちるタイミングで壁を走り……もう一度跳ぶために壁を蹴ってから屋上へ。
「ッ―上級生がくるまで耐えろ、絶対生き残るぞ!」
辿り着いた場所で見えた景色は――巨大なオーガのような魔物と戦う生徒であろう冒険者達の姿。
……幸い死者はいないが、明らかに防戦一方。だけどこの状況で助けるのは難しく人混みに紛れながらもどうすればと悩む。
召喚獣を呼べば――とも思ったが、ルナとソルは配信のせいで姿がバレてるわけで、安易に呼べない。
そして他の奴らは大きいのが多く、選択肢が限られしまう。
魔法も悪手、巻き込む可能性があるから。持つ武器は短剣だが、オーガの首を一撃で刎ねるのは不十分であり、何より不自然。
廻り思考、異世界での経験が……俺の思考を鈍らせて姿を現すことを躊躇わせる。
……人の命が掛かってるのに、動けない。
だから召喚獣に頼るしか無いが、適切な奴は――いや、いる。
「【サモン】――来てくれ……リコリス」
人混みの中、俺は繋がっている召喚獣を一人呼んだ。
一瞬で現れるのは紫黒色の髪をした喪服のような黒いドレスを着た琥珀眼の少女。俺の思考を彼女に伝えれば、こくりと頷き彼女はオーガの方へとゆっくり歩く。
堂々と人目に触れている筈なのに、誰も彼もが彼女に気づかない。
何より俺の召喚獣の中で誰よりも他を殺すことに暗殺という技術に長けた彼女は、その存在を悟られない。
「【ハーラーハラ・アントス】」
凜としながらもとても冷たい声とともに彼女が手向けるのは、花を模した短剣……跳躍した彼女がオーガ眼前に迫ったかと思えば、なめらかな動作でオーガの首が撫でられる。
……やったことはただそれだけ、そのまま彼女は悟られずに俺の元に戻り、
「終わったよ」
「助かった……ありがとな」
この場に集まる生徒達と戦うオーガ、勇猛にというか圧倒的な暴力を振りかざすそいつは生徒達を苦しめていたのだが、徐々に動きが鈍くなる。
――そして、前線で戦っていた生徒の攻撃を受けたオーガは糸の切れた人形のようにバタンと倒れその命を散らした。
詳細は、リコリスとい少女が使える呪毒。
時間差で発動するそれは、生徒の攻撃に遭わせて起動されオーガの命を奪ったのだ。
「か、勝った?」
「――お、俺達がオーガを倒したのか!?」
「ッまじか、見たか魔物め! ――これが迷窟の生徒の力だ!」
オーガが倒れた事で湧き上がる屋上の生徒達。
……それを見届けた俺は、そのままローブを脱いで何気なく混じろうとしたのだが――その瞬間に心臓が脈打った。
どくん……と、沸騰するほどに血が熱くなり、呼吸が浅くなる。
全身に巡る脱力感に襲われながらも――何が起こっていたのかを理解した。
「ッ
それは魔力の使い過ぎによる症状だ。
記憶にある……というか異世界で何度も経験したそれ――少し妙な感じはしたが、その状況になった俺は、その場で意識が落ちていく。
「……リコリス、また後で呼ぶ。今は戻って――」
だが……最後までそれを伝えられず、俺の意識は暗転した。
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