第3章:魔獣の姫君
第20話:ぜったいダンジョンこうりゃくノート
昨日の事件のせいか、入学早々一日休みになった日のこと。
俺は目覚めた日に読んだ日記をもう一回開いていた……使い込まれたその日記帳には三年分の事が綴られている。
「えっと……前は流し見だったが、こうしてみると凄いな」
書かれているのは主に幼馴染みと親友のこと、一緒にダンジョンに潜った記憶や最後の方には綾音がSランクにあがった時の喜びが書かれていた。
事細かにあったことをまとめたそれの考えは、別の世界といえ自分だということもあって理解できるし、この日記のような振る舞いをすれば……記憶喪失設定を伝えてない者にボロ無く接することが出来そう。
特に迷窟学園に残るためにも、あの学校では出来るだけ変な行動をしたくない。
あの学校はダンジョンを攻略する上の高校生における最前線、俺の知らない色んな資料があるだろうし利用できる知識は使った方が良いだろう。
「で……日記を見る限り、俺はまじでサポーターだったのか」
――校長に言われた俺がサポーターだったという事。
日記を見る限り魔力を持たない俺がどうやってダンジョンという環境でサポーターを出来てたか分からないけど……実力はあったんだと思う。
Sランク冒険者の実力をまだ理解してない俺だが、異世界の区分に当てはめればそのおかしさは分かる……それに、そこまでのものに綾音を押し上げたというのは生半可な事じゃ出来ないだろうし。
「他にないか?」
知ることは多い方が良い。
……だから俺は部屋を見回り色々探すことにした。
本当なら親がいれば聞けただろうが、生憎二人は仕事だしこの状況じゃ自分で探すしか無いから。
「なんか武器でも残ってればいいんだけど。あ、そうだ【サモン】」
魔力感知に至っては俺の仲間であるリコリスが優れている。
ダンジョンの人気とこの世界のことを考えると、こっちの俺はかなり稼いでいただろうし何かあると踏んでのことだ。
「レイマ、見つけた」
そう言って手渡されるのは何も入ってない缶で出来たケース。
「って速いなおい……あ、これ不可視の何かか?」
開いてみればそこにあるのは目に見えない何か。持った感触と形から、それは少しさらさらしてるノートほどの大きさだった。
とりあえずこういうのものには、セットとなる何かがあるはずだしと……それに、ノートっぽいし、ペンだろうかと思って机を探せばそこには魔力を帯びたペンがペンケースに刺さっていた。
それを持てば、リコリスに預けたノートが見えるようになる。
……子供でも買えそうな大きさのそのノートの表紙には、拙い字で【ぜったいダンジョンこうりゃくのーと】というのが書かれていた。
律儀に日付まで書かれたそれ。
その一ページ目には二○一五年と書かれていて小学六年生から始めたのが分かった。で、記されてたのは……魔力無かった! べんきょうつらい、やばいだるい! という文言……それに不意に吹き出すも、次のページにはでも夢だからと書かれていて、それが微笑ましい。
ページをめくるほどに、書かれているのはダンジョンの詳しい状況。
綾音と式と一緒に冒険者になるためと、紡がれた努力がそこにはあった。
――最強のサポーターになるには、まず知識! 体力! と書かれていたり……ちょっと出来るって嘘ついた。マジで後悔、二日で頑張る! 嘘良くないと……。
見栄張る癖は同じだな俺とか思いながらも、そこに書かれている努力の証に……こっちの俺が今まで頑張ったことがどこまでも書かれていて……。
「もう四つ目、書きすぎだろ俺」
勉強して、人に聞いて、体力つけて、練習して……何度も何度も二人のために頑張ろう。ひしひしと伝わる霊真の感情、絶対大丈夫だって幼馴染み達に言うために、絶対に二人を送り出すんだって、魔力のない俺には無理なことだから、あの二人という圧倒的な才能が未来にいけるように――と。
読むたびに募っていく黒い感情、霊真の努力を奪ったような……そんな思いが俺を苛んだ。だけど……一度読み始めたら、あいつの道を知るために止まれなかった。
――五つ目、ダンジョンの特性。
――――六つ目、魔物の詳細。
――――――七つ目、効率のよいサポートの仕方。
そして辿り着くのは中学に懇ろに書かれた八つ目のノート。
辛い、足りない、綾音をSランクにするには今のままじゃ足りない。
俺が足を引っ張っている……どうすればいい? そんなの簡単だ……もっと努力すれば良い。絶対と――胸を張れるように、俺はもっと。
涙で滲んだそのページ。
魔力の籠ったペンで書かれただろうそれだから、霊真の思いが伝わってくる。
ずっと頑張った此奴が、常に自分に言い聞かせてた――仕方ないという感情。
努力不足、俺も二人のような英雄になれるかなって……でも、足りないのは努力で。昔の英雄には魔力が無かったから……だから俺も、成れるんだ英雄に。
「……最後のページだな」
――やっとだ。
最年少でSランクの試練に挑める、俺と式と綾音のパーティーが遂に認められるんだと。報われる……これが終われば、俺も。
そこでノートは終わっていた。
……後ろから覗き込んでいたリコリスも何も言えないようで、その場には重い空気が流れている。この後、どうなったかは分からない……でも、綾音はSランクになってるのだから成功はしたんだろう。
「なぁ、リコリス――俺は、何があっても元の世界に帰る」
「……レイマ?」
「こいつに霊真に体を返すためにも、俺はダンジョンに潜るぞ」
ダンジョンには未知がつまっている。
……だからきっとこの体を返す術があるはずだ。だけど、徹底して正体はばらせない。俺の正体がばれたのならば、きっと此奴の努力を踏みにじる。
こいつは俺だ。
だけど……どこまでも誰かのために動けた英雄だ。異世界で奪うことしか殺すことしか出来なかった俺と違って、皆のために動けたそんな英雄。
「絶対に……俺は、返すんだ」
無意識に漏れた――その言葉。
……聞こえたのか分からないが、妙に寂しげな顔をするリコリスが印象的だった。
「よし、まだ時間あるしダンジョンに行くか……少しでも頑張らないとな」
やることは決まった。
だからやるしかないだろう。
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