第69話:焼きそば&かき氷

 新宿で開催されるダンジョン祭、屋台の準備も終えて迎えるその日で――俺達は朝から最終チェックを行っていた。


「焼きそばの諸々の食材はよし! かき氷のシロップはバアル産の果物で作った果肉シロップ! 値段設定は焼きそば共々三百円――ライブ鑑賞も完璧で、俺達に抜かりなし!」


 まだ祭りが始まる前の早朝に近い時間、最終チェックを完全に終えた式は声高らかに宣言して――バンダナを巻き直した。


 親友はかなり気合いを入れているのか、今回のバンダナは特別仕様らしく炎が描かれている。で……横で焼きそばを焼く手伝いをするバアルも同じバンダナをしているのだが……これがエプロンと相まって死ぬほど似合ってなかった。


「……バアル、なんでお前までバンダナ着けてるんだよ」


「着けるのが伝統だと聞いたぞ主、どうだ主も着けるか?」


「似合ってないからお前は外せ」


「なん……だと?」


 いやさ、似合ってたら良いし決して式の用意したバンダナが悪いわけでは無いんだが……外国の男性アイドルのような顔面の暴力している黒髪に銀のメッシュのイケメンが、ザ・男みたいなバンダナを着けるのはなんか似合わない。


「……本当に似合ってないのか主よ?」


「まぁ……そうだな」


 ……言いたくないが、しかもモノクルも相まって、全部のせみたいな格好のせいで……余計に微妙になっているのだ。


「そうか主が言うのなら、仕方ないが外そう……主とお揃いの夢が」


「…………なぁ式、バンダナ余ってるか?」


「予備のバンダナなら五つはあるが、まさか親友が着けるのか!?」


「バアルの珍しいわがままだしな、しょうがないだろ」


 こいつは滅多にわがまま言わない……というか、こういうわがままを言うのが殆ど初と言っていいほどだ。

 だから……というか今までの恩返しもかねて、俺はすっごく悩んで式からバンダナを借りた。

 ――こういうのをいつも着けないから似合ってるか分からないが、とりあえずバアルの方を見る。


「――式よ、貴様の願いを一つ叶えよう。それほどまでに感謝する」


「……おう、分かったぜ?」


 感想を言って欲しかったんだが……と思いながらも反応的には似合ってないということは無さそうなので、ひとまず安心した。

 でも元は神であったバアルが願いを叶えるというのは洒落になってないので、ちょとやばいかもしれない。


「お疲れ皆、私と朝日も準備は――って、なんで霊真はバンダナ着けてるの?」


「……色々あったんだよ」


「へー……似合ってるね、びっくりした」


「綾音が言うなら安心だな――よし、あとは始まるまで待つだけか、そうだ売り子にはルナ達にも頼むんだがいいか?」


 せっかくならめっちゃ売りたいし、今回の焼きそばは完全に屋台のクオリティを超えているので、まずは客引きからも本気を出したい。

 ルナ達が可愛いのは承知してるし、式も頼んでほしいと言ってたから断られるかもしれないが、一旦頼んでみよう。


「そうだね、良いと思う」


 綾音にも確認取れたので、そのまま俺はちょっと聞き――ルナとベヒ子がやると言ってくれたので、二人を喚びだした。

 ルナの方はこないだ映画館に行ったときについでに買ったカジュアル系の服を着ており、ベヒ子に至っては多分アラクネが作っただろうゴスロリを着ている。


「手伝うから、焼きそば頂戴」


「……お前、本当に自由だよな――最近も俺のお菓子勝手に食べるし」


「ますたーの甘味はわたしのもの」


「それ、ドヤ顔で言う事じゃないぞ?」


 ふっと笑う彼女にツッコみながらも、この様子だと召喚獣達と馴染んでいるっぽいなと安心した。完全に不意の契約とはいえ、仲間になった以上はしっかり支えたかったから。


「ルナは早速衣替えか?」


「うん、見せたかったから――どう、ますた?」


「俺が選んだんだし、どうとかないだろ……」


「…………くそぼけ」


「ふふ、相変わらずの駄目霊真だね」


 ルナには罵倒され、綾音は俺を見て懐かしむ。

 ……えぇと思いつつも、ちゃんと似合ってることを伝え、なんとか弁解を図った。


「よぉ坊、準備は順調か?」


「あ、大和さん――ってなんでいるんだよ」


 そんな時に気配も無く話しかけてくるのは、今回の祭りの主役である草薙大和さんその人。あまりにも自然に来たせいで挨拶してしまったが、普通に後から驚いた。


「そりゃあ俺の祭りだしな、見に来るぐらいはするぜ?」


「それも……そうなのか?」


「だろ? ――で、今は客が来る前に文化祭の下見と味見だな。多くなると迷惑かかるだろ」


「まあそっか、じゃあ焼きそば食べてくか?」


 この人が宣伝してくれれば客足も伸びるだろうかと思ったので、せっかくだしと振る舞うことにした。


「おっいいなそれ、じゃあ三つ貰うわ」


「バアルー焼いてくれー」


「ふっもう作ったぞ、主!」


「いや、はえぇよ」


 本当に思うが、バアルは能力の使い方を間違えては無いだろうか?

 こいつの出来る事は、嵐に雷に魔弾、作物の成長と時間の加速なのだが……その殆どが料理や家事に生かされてるのを見ると、やはりというかなんというか……ツッコみたくなってしまう。


「……坊、こいつもやばいな」


「バアルか? ……まぁ、実際凄く強いぞ?」


「……なぁ坊、今度時間あるか? 出来れば腕試しがしたい」


「あーバアルまた頼めるか?」


 こんな流れ前にもあったなぁと思いつつも、またバアルに頼むことにして、俺達は彼に焼きそばを渡した。


「――ッなんだこれ、肉は普通だが野菜が馬鹿旨いぞ!?」


「そりゃあバアル産だし……なあ大和さん宣伝頼めるか?」


「いや、これ宣伝いらねぇだろ。まあやるけどよ……かき氷は、果物を凍らせて削ってるのか?」


「あぁ、バアルが作った果物凍らせてそれに自家製シロップとか練乳かけてる」


 ――流石は豊穣の神というか、まじでバアルが作る作物の質は高い。

 彼の魔力から作られているということもあってか、それにこだわりがあるのかは聞いてないけど、純粋に全てがアホほど旨いのだ。


「――色々回ったが、ここが一番だな。沢山客来るだろうが、頑張れよ坊達」


「そんなにくるか?」


「あぁ、運営が言ってたがライブもあって百万規模は来る想定だ――それにこれだしゃ……まぁ野暮か」


 今更ながら気合い入れすぎた気がしてきた……。

 後悔しながらも、俺はまあいいっかと結論づけて――祭りが始まるまでの時間を皆と過ごしたのであった。

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