第22話:課外授業

「霊真ー忘れ物はないかしら?」


「ないよ母さん、というかそれ三度目」


 ある朝のこと、俺が学校に向かおうと玄関で靴を履いていると母さんがそんな風に声をかけてきた。そしてそのままこっちまでやってくる母さん、心配性だなぁと思いつつ話を続ける。


「お弁当は?」


「持ってるよ」


「……ならいいのかしら」


「心配しすぎだって」


「だって久しぶりのダンジョンでしょう? また怪我しないか心配で……」


 そう本心からいってるだろ母さんの言いたいことは分かる。

 ……あと今の言葉を考えると結構ダンジョンに潜った罪悪感が湧いて来てしまうのだが、目的のためには仕方がない。


「大丈夫、俺の班にはSランクの冒険者がつくみたいだし……それに課外授業だからそこまで難しくないって聞いたし」


「……そう聞いたけれど。そうね……ちょっと待ってなさい霊真」


 そう言って急いでどこかに行く母さん。

 何か取りに行ったのかと思いながらお少し待ってみれば、何やら少し大きめの箱を持って戻ってきた。


「いつ渡そうか迷ってたんだけど、お守り代わりに持って行きなさい」


 そしてそこから取り出されるのは黒と白の拳銃。一目で使い込まれたと分かるそれを見て、俺の記憶が刺激された。

 これは霊真が自分のために作って貰った専用武装。


 絶対攻略ノートの中にはこれによる戦い方も記載されており、どこにあるか不思議だったが……母さん達が保管していたらしい。

 ノートのおかげで一応使い方自体は記憶しているが――正直なところ、俺が使っていいのかは分からない。


「頑張ってね霊真。もう怪我しないで」


「約束するよ母さん、無茶しないし……ちゃんと帰るから」


 そう言ってから時間もないので家から出て、すぐに待っていた綾音と合流する。

 そのままいつも通りに登校し、教室が違うので別れてから一日が始まった。


「霊真君、今日はよろしくね!」


 声をかけてくるのは同じ班になったサポート科の子。

 前に黒ローブの話題を振ってきた中性的な……所謂男の娘とも呼ばれそうな背の低い夕霧朝日ゆうぎりあさひという名の友人。


 かなり俺を慕ってくれているらしく、よく休み時間も話しかけくれたおかげかこの世界にきてから出来た一人目の友達となっている。


「あぁこっちこそ頼む……そういえば、朝日は杖使うんだっけ?」


「うん一応エンチャンターだからね。足引っ張らないように頑張るよ」


「それは俺もだ。久しぶりのダンジョンだしな」


 そこまで話したところでチャイムが鳴り、先生がやってきた。

 そして今回の課外授業の行き先であるダンジョンのことが説明され、班のメンバーーと集まってバスに乗って今回の目的地である……階層型ダンジョン【魔獣の寝床】に向かうこととなった。


「…………なんで、霊真と一緒じゃないの」


 で……ダンジョン前に着いたのはいいんだが、そこには明らかに絶望して項垂れる影が……というか見知った少女がふて腐れていた。

 会ったら声をかけようとは思ってたんだが、その様子を見るに声をかけづらく……何より初対面っぽい刀を腰に差した少女がいるから少し観察することにした。

 

「あの綾音殿が……項垂れてる?」


「なんで驚くのカグラ、私だって人だよ?」


「いや拙者が知ってる綾音殿は、無表情魔物絶殺少女なのでござるが……」


 聞き耳を立てていたんだが、綾音に付けられているだろう不名誉すぎる二つ名に頭を痛めてしまう。


「…………偏見じゃない?」


「いや我もその認識だ――間違ってないぞ」


「え、五郎にまで言われるの? 私そんなのじゃないよ?」


 そしてそれは後から来た黒髪のイケメンにすら肯定され、綾音はめちゃくちゃに驚いていた。


「ッ誰が五郎だ――我にはカイザー・ドラゴニアという偉大な名前があるのだぞ!」


「覚えにくいから五郎でいいと思うけど……そっちのリスナーも基本五郎呼びだし」


「それは我の一部の臣下のみだ。ちゃんとカイザーと呼べい!」


 最初の見た瞬間だけの印象は、寡黙な黒髪イケメン。

 だけど……こうやって話を聞いていると分かるのはこいつキャラが濃いという事だけだった。え、カイザーって本名なのか? とか、一人称我は凄いなとかツッコミどころしかない。


「そもそも五郎にだけは今日話しかけられたくなかった……」


「何故だ我何かしたか!?」


「……幼馴染み寝取り糞ドラゴン」


「なっなんだその不名誉すぎる渾名は!? 初めて言われたぞ!? それは本当に我か! え、カグラさん……心当たりあります?」


「……拙者にも心当たりはないかなぁ……あ、ござる。それと口調戻ってるでござるよ五郎殿」


 わぁカオス……と思いつつ、俺がそっちに気を取られていると、俺に気づいただろう綾音が手招きしてきた。


「なんだよ綾音、急に呼んでどうした?」


「見てたし……それにちゃんと二人のこと紹介した方がいいと思って」


「む、綾音此奴は何者だ?」


「……凄く鍛えてるでござるな」


私の・・幼馴染み」


 強調しつつそう言われるが、名前を出してくれなかったことで俺から自己紹介する感じとなってしまった。


「えっと狩谷霊真だ。一応サポーターやってる……いつも綾音が世話になってるっぽいし短い付き合いかもしれないが、よろしく頼む」


「む、貴様が霊真という者だったか、我はカイザー・ドラゴニア! 今回貴様と同じ班となった者だ! 今日サポートをよろしく頼むぞ!」


「うるさい五郎、もうちょっと声抑えて」


「…………あぁ、そういう。ふふ、霊真殿。拙者は配信ではカグラと名乗ってる者でござる! 本名は神那椿かんなつばき、ジョブは刀鬼というもので、刀に特化した戦い方でござるな」


 それが彼等Sランク冒険者達との初めての邂逅。

 ……これから長い付き合いになる、この世界の上澄みとの出会いだった。

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