第55話:VS朱のゴライアス
咆哮が世界の全てを支配する。
……その際に発せられた魔力で分かったが、こいつはやばい。
ベヒーモス級では直感で無いと分かるけど……明らかにそれに迫る勢いの存在感を放っている。何よりやばいのが、叫びだけなのに……体が重くなった。
これは異世界でも厄介だったデバフを使える敵だ。
……この大きさでそれを出来るとか、強いというかとにかく厄介。しかも、十全に召喚獣を呼べない俺と刀しかない大和さんでどう戦うか。
「ゴライアスか、二度ほど違うダンジョンで戦ったことあるが……明らかに別物だな――遭遇したのが基準になるか分からないが、本来は多分黒い肌だぞ?」
「魔法は使ってきたか?」
「いんや……そんな奴だったらソロで殺してねぇ」
「……じゃあ強化種か。ゴライアスの推定って?」
気になるのはそこ、強化種というのは最低でも一ランク以上上昇すると言われており、それを考慮すると元が低いほど良いが……かなりそれは望み薄だ。
「ランクか? それならA+だったな、まあそいつもギリギリその判定だったが」
「じゃあ確定でSだな……俺の討伐一覧Sランク以上ばっかりなんだが……愚痴っていいか?」
「はっ坊、倒す気か?」
「そりゃあ放置したらこの地方の人に迷惑かかるし……何より、あんたがいて負ける意味が分からない」
「余生みじけぇ老人を買いかぶりすぎだぜ坊? ――だがまぁ、お前みたいな英傑に認められるのは悪くねぇ……じゃ、いっちょ冒険だな」
何処までも軽く、それこそ遊びに行こうぐらいの感覚でその人は語った。
それに釣られたせいか、俺も自然と笑みを浮かべていたようで……妙に魔力が滾り出す。魔力というのは何かを成す意志とも言え――その理由としては、魔法というのは当てはめられた形はあるが、それに何をどんな願いを籠めるか否かで効力が変わるからだ。
俺は……この人なら合わせられると、どうしてか思えた。
あのペルセウスのような英雄気質のこの人なら、今の力を解放しても――とまではいかないけれど、少しだけ強者に甘えていいのかと。
怖いもんは怖い……でも、覚えている言葉がある。
人を信じてみろっていうあのペルセウスの言葉が。会ったばかりで信じるのは怖いけど、その足がかりにはこの人はなってくれそうだから。
「――なぁ大和さん、英雄ってどういう気分だ?」
「あ? ……そう言われるのは慣れねぇけど、責任は生まれるな――守る覚悟に、先を示す意志、しっかりと先人として戦う覚悟がいる。それにな、勝って――何より、冒険するのは楽しいだろ?」
あぁ――そんな人がいるんだなと、俺はその言葉を飲み込んで。
やっぱり英雄と呼ばれる人は凄いなと、心の底からそう思った。だから俺も戦おう――今の俺に出来る無茶をやってやる。
「【ウェポンサモン】――ダインスレイブ」
呼ぶのは魔剣――手元に現れた茨の如き黒剣は、俺の魔力に呼応して存在感を増している。血肉を求め、俺の魔力を喰らい――敵の命を寄越せ寄越せと叫んでいた。
「やばいなお前、それだけの格を扱うか――なら俺もだ【
彼が――英雄が、大和さんがスキルを使う。
その瞬間、椿さんと同じように額に紋様が浮かぶのだが……それは彼女よりも濃く、何よりも洗練された魔力を纏い――彼の存在を二段以上は引き上げていた。
「やるぞ、あぁやるぞ――さぁやるぞ! なぁゴライアス、お前如きで足りるか? 俺等の矜持見せてやるよ!」
まさにそれこそ修羅の如し。
……彼は魔人と言えるほどに強化され、大声で嗤った。
その様こそ、人修羅――その名に違わぬ何者かだった。
そして、その莫大な準備をもって――戦闘が開始される。
仕掛けるのは勿論俺等から……圧倒的な速度を誇るルナに乗り疾駆して、俺はダインスレイブを触媒に氷の刃を無数に作り出す。
「【無尽氷剣】に加えてルナのサポート全部のせだ! これで死んでくれるなよ!」
相手の躯にぶち込まれる無数の氷剣。
それは一瞬のうちに相手の肌を凍らせ砕くのを繰り返してそれを抉ったんだがまぁ、それで終わってくれる相手ではないようだ……。
躯を砕かれながらも漸く俺等の存在を認知したそいつは、反撃として腕を薙ぐ。
たったそれだけの攻撃なのだが、その巨体も相まって必殺となったそれにより森が壊れて地面が抉れ……回避を無理矢理強制される――筈だった。
「俺を舐めるなよ? 巨人風情が――斬」
たった一言と一呼吸、俺の前に現れた大和さんが相手の腕を両断して刎ね飛ばす。スキルは見たかぎり身体と存在強化のみ。ミソロジアの秘術でもある原典解放に近いそれは――あまりにもこの現代において過剰。なのにそれをこの世界で辿り着いた彼に敬意すら持てる。
あまりの痛みに悶えるゴライアス。
……だけどボスとしての格を持つそいつはそれだけでは終わらない。次の攻撃を合わせようと隙を窺った瞬間に、腕が再生を始めた。
「くはははは、それでこそ!」
「――厄介だな、ほんと」
嗤う嗤う修羅が嗤う――本来なら楽しめない状況の筈なのに、俺も合わせて口角が緩む。ソルとリコリスを横目で見れば、本当に何故か楽しそうで――それがどうしてかを理解できなかったけど、皆の表情が少し晴れて嬉しかった。
「……おい、どうする霊真? あの巨人治るっぽいぞ?」
「そんなの――あー一応作戦あるんだが、いいか?」
「なんだよ、勿体ぶらないで教えろ」
「俺のこの武器で放てる最大火力であいつを完全に凍結させる――だから、あんたが時間稼げ」
「きはっ最高だ! その大言、違えるなよ霊真の坊?」
「嘘つけるかよ――じゃあ、やるか」
「――この老骨に言う無茶じゃねぇな本当に!」
――今から使うのは、ルナがラウラ戦で再現しようとしたあの魔法。
それを本来の威力と魔力の出力で放つという作戦――レーヴァテインの時とは違う、調整され流れを正された魔力でどんなことが起きるか分からないが……あの再生速度を見るとそれしか道がないように見える。
大和さんが斬り、道を拓く――俺はそれに追従し、枯れ切りはしたものの――まだ形の残る巨大樹をルナと共に駆け上がり――!
「霊真ぁ! 最大の一撃行くぞ――これが俺の必殺!」
溜め――納刀、そして抜刀。
――魔力の籠められたその一撃は、朱のゴライアスの躯の五割を斬り飛ばし魔石を露出させた。そこにある心臓部は、家一つ分ぐらい巨大でそこにさえ届いていればゴライアスを討伐してた勢いだ。
「ほっんとすげぇ――じゃあ、俺の番だな」
俺も一呼吸を置き、魔力を言葉に籠めていく。
「奈落の口は北東に、闇広がる霧と氷の
俺の四割程の魔力が剣へと溜まる。
……世界全ての、ダンジョンという異界が軋みだし冷気が全てを支配する。
解放されるのは、世界すら凍てつかせる氷の世界を圧縮した魔法――ダインスレイイブの全て解放しこの世を氷獄に堕とす神滅魔法の一つ。
「
瞬間、世界が完全に凍り付き――ダンジョンそのものがニブルヘイムに変貌した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます