第59話:休日の価値は休むほど減る
やっと学校に行ったのはいい物の、その日が金曜日だったことからすぐに休日が始まり……しかも三連休ということから、学校に行かない日々が続く事に。
「……いや学生としては勉強面倒くさいし、休めるのは良いんだが……」
休みすぎるのは罪悪感があるというか、やることはやってるけど学生としての時間をあまり過ごせないのは少し残念というか、勿体ない。
俺って今は高校一年生に戻っているが、中学から三年間を異世界で過ごしたから、高校生活とか出来ないと思ってたし……霊真の体を借りてるとは言え、一度きりという青春を少しは過ごしたく思う。
「……でも、また休日なんだよな。暇だしやることがねぇ」
勉強しようかと思ったが、霊真の攻略ノートのおかげか……三連休に出た宿題は一瞬で終わり、やることがマジで無い。
カイザーは別の高校だし、椿さんとラウラは大学生……式と綾音に関しては、連絡アプリのグループで宿題終わらないーと愚痴ってるので遊ぶのは不可。
本来なら日、月……と余裕があるのだが、椿さんがその二日を使ってバーベキューをしようと誘ってくれたので、二人は急いで宿題を終わらせる必要が出た。
一応式に関しては手伝えるが、綾音の方はダンジョンとは関係ない一般常識の方の宿題なので流石に俺等が手伝うわけにはいかず、今は結構な量の課題に頭を悩ませていることだろう。
「裏切りもの~……ね、それ送る暇あれば頑張れ……うん、中学ぶりだなぁこれ」
式は要領が良いし、俺は勉強は真面目にしていたが……綾音は結構そこら辺適当で、よく宿題を見せていた思い出がある。
「……懐かし」
そう一人呟いて、結局ゲームでもして過ごすことを決めた俺は、協力プレイできそうな奴を呼ぶことにしたんだが、その前にゲームするから暫く部屋に籠もることを母さんに伝えに行く。
「母さん、今からゲームするから部屋籠もるわ」
「分かったわー。そうだ召喚獣の子にお菓子作ったんだけど、よかったら渡してくれないかしら? 霊真が世話になってる訳だし、お礼しなきゃだし」
「…………リコリスとか母さんの料理好きだし、呼ぼうか?」
「あ、いいわね。あの子凄く礼儀正しくて前もお皿洗い手伝ってくれたし、お礼したかったの」
騙す形になってしまっているが、両親には俺が覚醒者という事で話を通している。
流石に貴方の息子の体を平行世界の自分とは言え借りてます……は二人に言えなかったし、何よりこれ以上心配をかけたくないから。
とりあえず召喚師などのジョブには今だ未知の部分があるから、それで寝ているときに契約したという風に伝えてあって、結構受け入れてくれてる感じなのだ。
「リコリスちゃんはお花が好きでしょう? 渡す気だったから花形のクッキーを作ったの」
「ありがと母さん。じゃあ【サモン】リコリス・ヒュドロス」
「……んぅ……レイマ? あ、お義母さんも」
「寝起きかしら? おはようリコリスちゃん」
「うん、おはよう……良い匂いだけど、何かあるの?」
「クッキー焼いたのよ、よかったら食べるかしら?」
「あ、食べる。お花だ……わざわざありがとう」
そんな彼女がリコリスが受け入れられているという光景は、俺としては嬉しく……少し親心? というかそんな感じのが心に灯る。他者を傷つけるのが嫌で、ずっと一人でいることを選ぼうとした彼女が、こうして笑っている姿は見るだけでも嬉しい。
「……よし、リコリス。ゲームしようぜ?」
「ゲーム? チェスでもやるの?」
「あーそっか、知らないよな。じゃあ教えてやるから部屋行こうか。えっとどんなのがいいんだろ」
彼女の性格を考えるとシミュレーションか? それか村を作ったりとか、花を育てられるようなほのぼのしたゲームがいいような……。
そんな事を悩みながらも俺は部屋へと戻り、霊真が集めていたのに加えて俺が新しく買い足したゲームを並べてリコリスにどんなゲームがいいか聞くことにした。
「えっと、これ気になる」
選ばれたのは……シミュレーションや想像したほのぼのしたものではなく、バイオな災害的なゲーム。え、これやんの……とは思ったが、明らかに目を輝かせていて、止めさせられる雰囲気では無かった。
「……ゾンビだよね、これ。倒すの?」
「いやそうなんだが、もうちょっとほのぼのしたやつにしないか?」
「なんで、楽しそうだよ?」
「えっと、グロいから苦手……なんだよ」
これはこないだ式とノリで買ってしまったのだが、まったく手をつけてない一品。
なんかレビュー見るに歴代最恐の作品らしいし、まーじでやりたくない。でも彼女がやりたいなら……腹くくるかぁと。
「よし、まあやるか……えっと? ……え、武器選べるのかこの作品で? これ殆ど別ゲーだろ」
なんか銃だけのゲームかと思ったら、鎌とかあるし……キャラクリエイトまで出来る無駄仕様だった。とりあえずそれはリコリスに任せて、俺に似たキャラが作られるのを見ながら……時間が過ぎていき、そのままゲームがスタートした。
――――――
――――
――
ゲーム? というものをやりながらも、時折彼の表情を見る。
大好きな彼を……大切な彼を、横目でだけど観察する。余程このゲームで映る光景が苦手なのか、ちょっと目を伏せたり、分からない私のために一生懸命教えてくれる彼は相変わらずで愛おしい。
奪うのは嫌い、殺すのも嫌だ。
私が触れた全てが溶ける光景など何度見たか分からない。
……でも、彼は、レイマは違った。恐れず、私を真っ直ぐと見てくれて……あり得ない無茶をして私と接してくれた。私を孤独から救ってくれたそんな英雄。
「ねえレイマ、怯えすぎ」
「いやだって演出怖すぎるだろ。なんだよ地面からだと思ったら、全方向から脅かしてくるの駄目だって普通に人の心がねぇ」
「珍しいね、怖がるの……可愛い」
「高一男子に可愛いは禁句だぞ?」
珍しく彼を独り占めできるこの時間。
慣れない恐怖からか、私から離れないしもっとこの時間が続いてほしいなって……彼の表情をもっと見たい。怯えるのも怖がるのも、喜びも悲しみも……全部全部見てみたい。私が全てから守るから、私が全部を殺すから、私にだけずっと色んな表情を見せてほしい。
……初めて会ったとき、彼は最初からずっと私を見てくれた。
拒絶しても、殺したくないから離れようとしても、私が寂しそうなのが許せないって、一人で泣く私を笑顔にしたいからって、無理矢理自分を治して毒の耐性を得た――そんなあまりにも壊れた善性の怪物。
今はメルリの魔法である程度抑えられるけど、私にずっと触れれるのは彼だけ。
……その特権は誰にもあげないし、あげるつもりは無い。だって、それが私と彼の特別だから。
そして――これは持っちゃいけない願い。
敵は殺す、彼は守る――でも、もしも次があるならば私の毒で彼を染め上げたい。
依存でも独り占めでも何でもいい……彼の特別を渡さないために、どうせなら彼に終わりを与えるのは、看取るのは私でありたい。
――あぁ、常々と思うが私は屑だ。
どうしようもなく切に切に、彼に狂った殺戮者……本質は、本能は決して変われなかった愚か者。抱きしめてほしい、愛してほしい――その上で、彼の全てを私で染めたい。
ずっと私と過ごし、苦手なもののせいか疲れて眠る彼を見る――そんな彼の頭を撫で、少し間違えば殺せる距離で――彼の顔を撫でるのだ。
「ずっと、ずっと一緒だよ? 死がふたりを分かつまで――ううん、例え死が二人を分かつとも、ずっとずっと――だから、ふふ……私を愛してね」
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