第58話:久しぶりの学校で

 七月も中旬に差し掛かり、あと少しで夏休みが始まる時期。

 ……最近は忙しかったというか、江奈の実験で二日が消えその後も政府の仕事があったから学校に通うことが出来なかったが、今日は久しぶりになにもなくサポート科の方に顔を出していた。


「おはよう、霊真君!」


「ん、おはよう朝日……久しぶりだな」


「そうだね一週間ぶりぐらいかな?」


「そうだな、俺の方が最近忙しかったし」


 机の上でうつ伏せになっていると、話しかけてくるのは友人の朝日。

 ホームルーム前のその時間に彼と駄弁ることを決め、暫く最近会ったことを話してたんだが、そんな俺達の元に近づいてくる影が一つ。


「よっ親友、何話してんだ?」


「あー親友、近況報告だな」


「なるほど、でなにか面白いことあったか?」


「やべぇ白衣の実験に巻き込まれた」


「……そういえば綾音の方から江奈さんに会ったって聞いたな、だから疲れた顔してんのか、捨てられたデンキウナギみてぇだなとは思ったが」

 

 だからなんだよその例え……と突っ込む気力はなかったので心の中でそう言って……俺はとりあえず他の出来事である大和さんと会ったことを話した。


「まじか、大和の爺さん元気だったか?」


「……初めて会ったが元気すぎたな、あとめっちゃ強かった」


「そりゃそうだろ、あの人世界が認める日本最強の冒険者だしな」


「……あとめっちゃ戦闘狂だったぞ」


「…………あの人、椿さんの師匠だしな確か」


 それを聞いて確か似ているなとは思った。

 ……確かに体の使い方とか、刀の技術とか似ていたし本当に師匠と弟子の関係なのだろうと。


「そうだ親友、そろそろ祭りだが……俺等と屋台出さないか?」


「……祭り?」


「ほら大和の爺さんがダンジョンを世界で初めて攻略した日を称えるためのダンジョン祭、迷窟の文化祭も兼ねてるんだが、今年は個人個人で屋台出すらしいんだよ」


「へー……式はなんの屋台やるんだ?」


「焼きそば?」


「めっちゃ似合いそうだな……」


 こいつはいつも同じ柄の赤いバンダナをつけているし、なんか焼きそばを焼いているイメージ勝手に出来る。


「あれ俺等ってことは綾音もか?」


「あいつはかき氷だな、自家製氷の特別製だ」


「魔法のかき氷かぁ……あ、それならルナとソルが手伝えると思うぞ?」


「狼の姉妹さんか? ……いいけど、氷はともかく炎は大丈夫なのか?」


 適当に提案してみたが……確かにルナの氷は良いとして、ソルの炎は太陽そのものなので焼きそばの麺が焼滅する可能性すらありそうだ。


「あーじゃあ、売り子でもやって貰うか?」


「アイドル級のあの子達が売り子は贅沢だが、ありだな。そうだ朝日もうちでやるか屋台?」


「そうだね……僕は丁度やることなかったし、こっちこそお願いします」


「了解、じゃあこれで四人集まったな。じゃあ、あとで計画練るとして……あとは、あれだ――クシナダちゃんの応援旗をどう作るかだな!」


「え、ちょ式? 急なそのテンションなんだ?」


「あぁ今のお前は知らないのか――えっと俺には推しのアイドルがいるんだが……」


 バーンと……俺に向かってスマホを見せてくる親友。

 そこには薄緑の髪をした和装に近い衣装のアイドルが映っていて、歌と踊りの動画が流れている。


「クシナダって名前で活動してるんだけどな、本人もダンジョンに潜っててAランクの実力者なんだぜ? それもメインアタッカー張ってて、かなり強くてさ、もうすぐSランクっていう噂の人物だ!」


 そういや、元の世界の此奴も結構なドルオタで……確かよく一緒にライブに行ってたなぁ――結構な頻度で誘われるから変に知識増えたのは良い思い出だ。

 まぁそれは置いておくとして……ここまでテンション高いのは前の世界でも相当はまった時でしかないし、かなりそのアイドルを推しているんだろう。


「へー……この人ねぇ、ジョブとか分かるのか?」


「巫女だ。つまり巫女系アイドルで色々支援を得意としている俺が憧れる冒険者だ」


 そう言われもう一度式のスマホに目を通す。

 ……そこに映るのはさっきと同じ女性なのだが、なんか見れば見るほど既視感が――なんだろうなこれ、とか思いながらも式の熱い布教活動を聞き流し、今日のHRが始まるまで時間を潰した。


「はーい、今日はダンジョン祭の班決めですよー!」


 さっき話題に出たばかりのダンジョン祭、大和さんの為の祭りだそうだが……どんな事が起こるんだろうか? とそんなことを考えて、俺は少し楽しみになり……どう皆と回ろうかなと、ちょっとそんなことを妄想する。


 そして、妙に頭に残るクシナダというアイドルの歌を鼻歌を歌いながら反芻し……俺はダンジョン祭の計画を式達と立てることにした。

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