第26話:イレギュラー
「やったか我が友?」
「見れば分かるだろ……そっちこそ、お疲れだ」
声をかけられてそっちを向けば、そこには無傷のカイザーが笑っていた。
少し装備に埃がついたぐらいのそいつは、何の苦労も感じさせないような笑顔をこっちに向けてくる。
「貴様もな――だが驚いたぞ、サモナーの魔法も使えるのか」
「……この銃に登録してるしな」
……まぁ、嘘である。
でもこれから先の事を考えると登録しといた方が良いだろう。
やり方は魔石を籠めるとかだったから……空になったそれなりに容量の多い魔石でも見つければ良い筈だ。
「しかし、凄まじいな貴様の支援能力は、ヴァルキュリアを十全にサポートしていた。こんな芸当百魔の奴でも無理だろう」
〔カイザーがそこまで認めるのか〕
〔そりゃあ、あんな芸当されて認めない男じゃないだろ〕
〔理 解 不 能〕
〔一発の弾丸に複数の支援を籠めるって何だ?〕
〔普通暴発する〕
〔あたおかサポート過ぎて終始笑ってた〕
コメントでの賞賛、だがそれは俺の魔力ごり押しで出来てたことだからあまり喜べない。本来の霊真はあれのタイミングすら全部調整するので操作技術に関しては魔力がなかったあいつの方が上なのだ。
今回真似できたのは、ひとえに俺に魔力が多かったからであり……あいつの理論を知ったからでしかない。この賞賛は本来はあいつの物だと考えると――あまり気分は良くなかった。
「そういうカイザーこそ、よく一人で倒したな。あれ弓だけ使うわけじゃないだろ」
ただの弓兵だったらもっとカイザーは速く終わらせてただろうし、俺達と同じ時間戦っていたと考えると、それだけの何かがあったはずだ。
「そうであったな、彼奴あの巨体で格闘術を収めておったわ! 久方ぶりに楽しかったぞ? 彼奴はAランクではあったであろうな」
彼の言葉を疑うつもりはないが、サイクロプスは霊真のノート曰くでいうのならBランク上位までの強さしかない筈だ。
それなのにここまで強化されたのを考えるとそれほどまでに変異種とか言うのがやばいのだろう。
「とにかくだ! 目標は達したので一度地上へ戻ろうではないか! あの弓兵が転移石を落としたのでな、すぐ帰れるぞ!」
〔あーそっか目標達成したのか〕
〔もっとこのパーティー見てたかったぞ〕
〔強すぎたのがいけない〕
〔サポーターとは?〕
〔すげぇ楽しかったぞ!〕
〔カイザー! 今すぐ下層に行ってくれ! 綾音様達がピンチだ!〕
〔頼むカイザー、スタンピードが!〕
そして目的を達成したことにより、お疲れ様ムードのコメントが流れるが……その中に一つ、どうしても無視できないのがあった。
危機的状況なのか連投というか、似たようなコメントが少し増える。
「……詳しく頼む、臣下の皆この一瞬だけは鳩を許せ」
俺も内心気が気じゃない状況で、何をするかを理解するために黙りカイザーの判断を見守る。
〔綾音様たちがいる下層のパーティーがSランク相応のスタンピードに遭遇してる〕
〔地上に攻めないように抑えてるけど限界で〕
〔カイザー加わってくれ〕
〔未知の変異種まで混ざっててマジでやばい!〕
それで分かる情報のみで……綾音達の危機を悟ったのか、カイザーは俺達に転移石を渡してこう続ける。
「我が友霊真、そして朝日よ……我はヴァルキュリアと共に下層に進軍する。地上に危機を伝えろ、幸い配信してるだろうから情報はあるはずだ。応援を呼べ、規模が予想できん」
それだけ伝えた彼は、そのまま俺達に何の声をかけるわけでもなくヴァルキュリアに乗って下層へと向かった。
カメラであろう機械龍も彼と一緒に飛び立っていき、この場には俺達のみが残される……そんな中、俺はというと。
「……時間ないし俺も行くわ」
「ッ無茶だよ!? 霊真君が強いのは知ってるけど、規模がSランクって――」
「あぁ、だからこれは他言無用で頼む。特に式と綾音にだけは言わないでくれ」
本来だったらこの戦いをするのは、何より誰かに伝えるのは馬鹿がやること。
……だけど、大事な幼馴染が親友が――命賭けて戦ってるんだったら、俺が出ない理由がない。バレるかもしれない、また殺されるかもしれない――だけど、それでこの世界での霊真の大切な物を守れなきゃ意味がない。
規模も不明、彼女達だけで終わらせる事も出来るかもしれないからこそ、この選択は愚策である――だが、この状況で選択肢などないから、だからこそ、バレずに完遂する。
それが俺のやるべき事だ。
それに、朝日は誰かに言いふらすような奴じゃないだろうしさ……。
「何する気……?」
「【トリアサモン】――ソル・スコル、ルナ・マナガルム、リコリス・ヒュドロス」
現れるのは三種の召喚獣。
……太陽と月を飲み込んだ神殺しの狼姉妹。そして――世界すら毒に沈めることが出来る大罪種とされる原初のヒュドラである彼女が――獣の姿でここに姿を現した。
「まぁ……なんだ。ちょっと皆助けに行くわ」
そして、この世界で認知されてる認識阻害のローブを羽織り――俺は下層へと突貫した。
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