第25話:VSサイクロプス
――マジでこの武器頭おかしい。
それが霊真の専用武装であるノワールとブランを十分程使い続けての感想だった。
ただのバフとデバフ特化の武器だと思ったが、全然違う。実際に使ってみて分かるこの武器の異常さに俺は振り回されていた。
普通の考えだったら、デバフやバフはかけ続けた方が良い。
だってそっちの方が楽だし、便利だから――だけど、この二丁の拳銃は魔法に自動的な
一応引き金を引く強さで秒数は増減できる仕様でもあり、だいたいの時間を調整できるのだが……これがもうやりづらい。
何がおかしいってそれでもかけれる時間が最大でも三分しかないのだから。
つまり、デバフと支援の更新を定期的にやらないといけないしで――とにかく気をつけることが多すぎる。
「デバフ更新するぞ、カイザー攻撃頼む!」
「任されたぞ!」
一応短い時間のデバフは魔力を節約できるから理解は出来る……だってその考えは魔力を持たず、魔石などで魔力を補充していた霊真にとっては最善手なのも納得できるし、これは霊真が考えついた極地だから否定するつもりは絶対にない。
俺の異世界での経験がなければ少しの真似も許されないほどに、霊真専用に作られた武器。あいつの経験と知識を最大限に活かすためだけのこの武器はどう考えても常人には使えない。
「凄まじい支援精度だな霊真! 貴様本当に無名なのか!?」
「――まだまだだけどな」
「ふっ謙遜は美徳だが、それでは嫌味になるぞ?」
褒められるが、これは霊真のノートを読み込んだ上で異世界の経験と異常なまでにある俺の魔力のおかげなので、あまり嬉しくない。霊真の思考を考えるに、あいつは理性がない魔物の思考を読み切った上でサポートをする戦い方をしていたはずだ。
わかりやすく言うと、魔物の行動パターンを経験で覚えそれを阻害し最適なデバフ時間で戦い続けるという……知らなければ理解できない戦闘方法なのだ。
大振りに放たれるサイクロプスの大剣、それがカイザーに迫る瞬間に俺はブランでシールドを張って防ぎ――ノワールで足だけを打ち抜いて隙を作る。
「ナイスだ霊真! 合わせるぞ盟友――喰らえ必殺!」
足にのみデバフをかけられたサイクロプスはそのまま転倒し、圧倒的な隙を晒す。そしてそれを見逃すカイザーではなく、彼は相棒である龍の背中に乗って――。
「【ヴァルドラゴスピア】!」
圧倒的な突進力を活かしながらも、手元に召喚しただろう槍で相手の命を確実に奪った。灰になり魔石に変化するサイクロプス――残る二匹は僅かに表情をゆがめるも弓兵の方しか動かない。
「残るは二匹だ……さぁ、どう見る我が友よ」
龍に乗ってすぐに俺の元に帰ってきたカイザーは、今までと違う呼び方でそう呼んできた。認められたのに少し喜ぶも、そんな暇はないので思考を早める。
「まぁ、奥の両手に剣持ってる個体がボスだろ? ……で弓兵を倒さない限り動かなそうだ。カイザーのヴァルキュリアは弓には不利だろうし、攻めるのは困難」
「同じ意見であるな――もう一人火力役がいれば変わるが、無い物ねだりしても仕方ない――ではどうするか?」
二人して話し合い、その間にも朝日に俺らをバフして貰う。
「ごめんね二人とも、僕が戦えれば良いんだけど……」
「何を言う? 朝日バフは凄いぞ、我等の助けになっている――だから誇れ」
「そうだな、ちゃんと助かってるぞ、そのおかげでカイザーに回すの分のバフの思考をデバフに回せる」
いや、ほんとまじで朝日がいなかったら俺は限界だった。
霊真の戦い方を真似るには、今までの俺の思考じゃ駄目だった。だから一から練り直してやってるわけで、デバフのみに集中できるだけで本当にありがたい。
「なぁ……お前の相棒、俺に少し預けてくれないか?」
「……ほう、どうするつもりだ?」
「カイザー一人に弓兵を任せる……で、俺はヴァルキュリアと一緒にボスを降す」
「……我以外がヴァルキュリアに合わせられるとでも?」
「……やらせろ、それしか道がねぇ」
「その目、はったりではないようだな――くはははは、乗ったぞ! 我が友よ、俺の相棒を任せたぞ? 彼女ならお前の支援に耐えれるだろう、その代わりだ――無様晒したら殺すぞ?」
「あいわかった――召喚獣の大切さは誰より知ってるから、任せろよカイザー」
俺の本業はサモナーだ。
召喚獣の支援に関しては、誰よりも上手いという自負もある……それに龍の召喚獣は俺の中にもいるわけで……下手な支援はしないと断言しよう。
それに龍との戦い方は身に染みてる。
……その支援も骨格故の特徴も全部頭の中だ。
〔ほんとに中層かこれ?〕
〔アツすぎる〕
〔というかカイザーが認めるこいつマジで何者だよ!?〕
〔え、ヴァル様を預けるって――前代未聞だろ!〕
〔百魔が悔しがりそう〕
〔それだけ認めたのか、この戦闘で〕
視界の端を飛び回る龍型のデバイスから見えるコメント欄。
それを考えると、この様子のカイザーは珍しいらしい……それだけ期待されているのなら頑張ろう……それに、この出会いに経験は霊真のためになる筈だ。
俺が消えたあとでの確実な縁に……。
「ヴァルキュリアだったか? 俺の事は気にせず本気で動いてくれ――全力で合わせるからさ!」
それを伝えれば、この神秘的な龍は一度頷き……そのままボスの元へ向かい始めた。俺もそれに合わせて走り出し、数発の支援をまとめて打ち込む。
「【ブレス威力上昇】【範囲拡大】【爪撃強化】【速度&攻撃力上昇】【聖属性倍化】」
効果時間は三分。
最初の一匹との戦闘で崩れかけている足場を考えると、やはり短期決戦が求められる。だから目標はこのバフが続いてる間に全てを決める。
弓兵を見れば、そいつが矢をヴァルキュリアへと矢を放とうとしていたが……。
「くはっ弓兵、貴様の相手は我だぞ!」
一気に相手の元にまで移動していたカイザーの拳によって攻撃は邪魔され地面に体を晒した。あの様子なら問題ない、そう判断した俺はボスの両剣使う方へと突貫した。
「やっと動くか、サイクロプス!」
最初の攻撃はその武器を活かした横薙ぎの一撃。
巨体も相まってかなりの速度で放たれたそれは回避できるものじゃない……だが、俺にはこの二つの拳銃がある。
「【速度低下】【物質鈍化】」
武器に向かってノワールでのデバフ銃撃を打ち込んで、俺はその速度を下げて難なく回避する。それに加えてブランによって武器に重さを付与し相手の体勢を崩した。
「ブレス頼んだ!」
俺がそう指示した瞬間、既にブレスを溜めていたのかすぐに龍の代名詞とも言える必殺が放たれる。聖属性が付与されたそれは、相手の体を焼き付くし、圧倒的なまでのダメージを与えた。
だが、それで終わるボスではなかったのか……怒りをあらわにしながらも、ヴァルキュリアへと視線を送ったのだが――。
「俺を忘れるなよ? ……一つ目巨人?」
此奴と戦ってるのはヴァルキュリアのみではなく、俺もいるのだ。
この武器には互いに一種類ずつ、攻撃魔法が刻まれている……それは最上級に分類される攻撃魔法であり、溜めが必要だが今の意識が逸れてる瞬間なら絶対に当たる。
「喰らえ【トネール・インフェルニクス】」
それはノワールからの極炎とブランからの極雷。
同時に放たれた霊真の必殺であったそれは……サイクロプスの体を包み込み、その命を奪い取った。
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