第4話:状況整理
そして――目が覚めた日の夜のこと、自分の部屋に帰ってきた俺はこの世界のことを知るためにパソコンで色々調べていた。
「えっと……五十年前にダンジョンが出現し、世界には魔物が溢れ……ダンジョンの恩恵で人類は発展した?」
軽く調べて分かったことはそれ。
それを見た時点で嫌な予感が加速したのだが、自分の机だった物に入っていた日記を見て……その予感は確信に変わった。
ずっと持っていた違和感を裏付けるのは俺の日記。
そこにはダンジョンに潜る冒険者への憧れが綴られており、どれもが知らない物だった。今までの出来事と景色、そしてこの情報と日記を考えると……。
「……平行世界って奴か?」
勿論だが、元の世界に魔物なんていない。
……魔法なんてものもなく、ファンタジーが日常に侵食してることもなかった。
でもそれ以外は同じ……家族構成も時代も何よりたった一人の幼馴染みも、全部。
「はは――――帰れてないじゃないか」
ファンタジー要素以外は全部同じのこの世界。
それを考えると……この体はこの世界の霊真のもので、事故で意識を失った彼の体を乗っ取ったのかもしれないという可能性が出てくる。
「……やめよう、悪いことばっかり考えても意味ない」
とりあえず分かったことはこの世界は平行世界でありファンタジーとなってしまった地球ということ。
「そうだ――ルナ、いるだろ?」
ある程度情報も集まったので、俺はステルスしてるだろう仲間に声をかけた。
すると今までなかった気配を感じ、名を呼んだ彼女が現れ……たんだが。
「なにしてるんだよ……」
「安全確認だよ、ますた」
姿を現した彼女はベッドの中にいて、なんかすっごくくつろいでいた。
それどころか俺の枕に顔をうずめていて……。
「ますたが不安そうだったから一応の確認、結果このベッドは安全」
「……ありがとな?」
「そんなの当然、私は一番賢いから」
その言葉を言う時点で賢さはあまり感じないが、相変わらずの彼女の様子になんかほっとした。
「そういえば、ここはどこなの、ますた?」
そして今更だろう疑問を口にして、彼女はベッドからでて腰掛けた。
少し際どい……というか、布一枚を羽織ったような蒼い髪の少女。
非常に顔が整っているそいつには、人間には生えてないはずの狼の耳が生えており少し視線をずらせば尻尾が生えて揺れている。
「……説明は難しいんだが、一応元いた世界?」
「前に言ってたやつ?」
「大体合ってる」
「だからベッドからますたの匂いがしたんだ……納得」
こくこくと頷く頷く彼女は、ルナ・マナガルムという狼だ。
少し抜けているところはあるが、とても頼りになる最初の方に出会った子であり、三年間旅を共にした仲間である。
「ねぇますた、ずっと隠れてた私にご褒美あっても良いと思うの――撫でて」
「いや撫でるくらいなら良いけど、急にどうした?」
「だって呼び出されてから6時間は隠れてたわけだし……久しぶりの、ますただし」
「……分かったよ、ちょっと待ってろルナ」
そして俺は座る彼女に頭を撫でてたのだが……懐かしいその感触に、自然と涙が出てきた。
「……ん、ますたなんで泣くの?」
「いや……ちょっと、夢じゃなかったんだなって思って」
彼女が姿を現すまでの不安。あの異世界の出来事が全部夢だったのかという不安が、彼女がいるってことで少し解消された。
俺の異世界での仲間はちゃんと存在してるんだと思いなんというか、溜まっていたものが決壊したというか……。
「相変わらずますたは泣き虫、大丈夫だよ……私はここにいるから」
「悪い……もう少し撫でさせてくれ」
「うん……いくらでも、それに泣いていいよ」
それから涙が止まるまでの少しを過ごし、俺は落ち着くまで彼女を撫でた。
それが現実だと確信するために、彼女がいたことを確認するように。
「……変なところ見せたなごめんルナ」
「全然、むしろ皆に自慢できる話が出来たから嬉しい」
「いや、絶対言うなよ――秘密にしてくれ」
「ふふ、はーい。二人の秘密だね、ますた」
意味深にそう言うが、絶対に言わないで欲しい。
今の姿を知られたらからかってくる奴とかいるし、何より恥ずかしいから。
「そうだルナ、他の奴って無事なのか?」
「あー……うん、無事だよ。皆ますたの中にいる」
「それならよかった」
俺の仲間である召喚獣達はサモナーが持つ魂の世界というのに住んでいて、そこから呼び出すことが出来る。死んだことでもう会えないかと思ったが、ルナを呼べている以上、皆は無事なのだろう。
「とりあえずあれだな、今日は疲れたし寝るんだが……ルナはどうする?」
「私は……もうちょっといたいかな、ますたのこと心配だし」
「悪いな……じゃあお休み」
「うん、ますたお休みだよ」
――――――
――――
――
ベッドの中で眠るますたを見る。
記憶より少し幼いながらも同じ魂を持つ彼、あどけない表情で眠る大切なその人。
もう会えないと思っていた主に会えた喜びをずっと隠していたけど、もう限界だ。
「よかった……ますたが生きててよかったよぉ」
元いた世界でのことを私は覚えている。
魔王を倒して世界を救った彼の結末。誰よりも優しかった彼が裏切られるその瞬間を――繋がりが消えたときの喪失感、何よりもう会えないと思った絶望を。
でも、また会えた。
さっきみたいにまた撫でてくれた……あの感触は夢じゃないし、ずっと感じたかった大切なもので――。
「知らない世界……もう二度と、ますたは殺させない」
彼が望んだから私は私たちは世界を滅ぼさなかった。
でも、その結果の絶望を知ってしまったから……そして、この温もりをもう失いたくないから。
ベッドで眠るますたの横に潜り込む。
そして抱きつけば感じられる暖かさ……それを思えば覚悟は決まる。
「また世界がますたを傷つけるなら、私は何にだってなれる――たぶん、これは皆もそうだよね?」
今はますたの中にいる仲間達。
きっと彼等も同じ思いだろう……たとえ、この世界の全てが未知が敵になろうとも……絶対にこの人を守り抜こう。
「ごめん、みんな」
眠る彼のその呟き……自分を責める彼に言葉をかける。
「大丈夫……大丈夫だからね、ますた」
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