第63話:完璧……執事?

「……ないす、アルゴル」


「あいつが行った時点でこうなるのは予想してたからな、準備は流石にするぜ?」


 すちゃっと眼鏡をかけ直し、そのまま伸びをするアルゴル。

 ちゃっかりいつもとは違うワンピース姿の彼女は、石像に変えたバアルをため息を吐きつつ一瞥した後ですぐにそれを解除する。


「――主!? 何故止めるのですか!?」


 石化が解除されてかすぐに人型に戻り、俺の方へと瞬間移動と見紛う速度で接近した彼は抗議するようにそう言った。


「魔法使ったら駄目って言っただろ……」


「む? はっ――しかし、あそこまでの頑張りを見てギアを上げないわけにも!」


「そういう所は良いんだけどな……魔弾は駄目だろ」


 高校生男子に説教されるのは、モノクルを左目につけた蒼と紅のオッドアイの黒髪に銀のメッシュが入った超絶イケメン。

 喋らなければアイドルでもやってそうな見た目のそいつ、俺の言葉で反省したのかかなりしゅんとしている。


「まあ……あれだ、相手してくれて助かった――椿さんも満足か?」


「――そうでござるな。バアル殿、鍛錬付き合ってくれてありがとうでござる」


「この世界の主の友人よ、殺気を消す訓練をすれば成長するだろう――技術に関しては悪くなかったからな――また我が喚ばれれば相手をしても良いだろう」


 この反応やっぱりバアルは椿さんを気に入ったのか……本人が武人気質ということもあってか、戦いに貪欲な者は気に入る傾向にあるし、ある意味喚んだのは正解だった気がする。


「我はどうだ!」


「龍の因子を持つ少年か、判断と防御、そしてあの槍術はよかった――しかしあれだな、その術は己の相棒の力を降ろしているのだろう? もっとその相手と絆を深めれば、強くなるはずだ」


「ヴァルキュリアは喚んでないが分かるのか?」


「我は魂を見る力があるのでな、貴様に眠る龍の姿は見れている――主と同じサモナーということもあるが、精進してくれると嬉しい」


 そういえばそんな事出来たなぁと……バアルの能力を思い出して、満足そうに喜ぶカイザーの表情を見る。カイザーの事を考えると、バアルの獣形態はどこまでも彼の感性に刺さるものだし、かなり此奴の事を気に入ったんだろう。


「親友殿に関しては、起源を理解すれば――火力を持続力を上げられるはずだ」


「……起源? どういう事だ?」


「それを言うのは無粋だ。それは己で理解してこそ意味がある……さてと、主よ――もうそろそろ我慢の限界だ」


 さっきから体が揺れているし、視線が俺の方に固定されてきた。

 ……このままでは不味いし、なんとか矛先を変えなければ……多分俺は駄目になってしまうだろう。


「あー……久しぶりの召喚だしな、喚んだ時点で覚悟してるさ――えっと椿さん……バーベキューするっていう事は、食材あるよな?」


「バーベキュー用の食材なら確かにあるでござるが……どうしたでござるか?」


 ……あぁ、よかった。

 それならこいつの欲は発散されるだろう。


「……よかったな椿、いっぱい料理が食べれるぞ」


「――すぐ戻れば良かったぞ」


 知っているラウラとアルゴルは、哀愁漂う声でそう言って……俺の方へと助けてと、視線を送ってくる。それに対して俺は目を伏せ無理と伝え、とりあえず、今まで喚んでなかった期間を考えて……。


 こいつのあの時の喚べコールを加算。そして、この短時間での限界を考えると……俺等の胃袋は破壊される。


「……主の友人よ、それは何処に?」


「あの山の頂上のコテージにあるでござるが――あれ、もういない?」


 椿さんが指を指して食材の在処を話した途端の事、バアルの姿が霧のように霧散し……ここからでも見えるコテージに光が灯った。

 

「えっと、どうした親友? なに心配してるんだ?」


「あいつはな……比較的まともで常識がある奴なんだ。話も通じるし、武人気質で割となんでも出来るし――でもな、一点だけやばい癖があって」


「主――そして友人達よ、準備が出来た――すぐに来てくれ」


 説明を終える前に――再び姿を現すバアル。

 彼は完全にやりきったような表情で立っていて――微妙に似合ってないエプロンを着けていた。


「どうだ――それで、満足したか?」


「それはもう満足したぞ主……次は主の世話をさせてくれ」


「それは絶対に嫌だ」


 そこまで会話したところで、俺達は彼の馬によって運ばれ、辿り着いたコテージには満漢全席どころじゃ無い料理の山があった。


「この短時間で、何があったのだ?」


「……なぁ親友、バアルって奴の欠点って?」


「――異常なまでの家事欲と奉仕欲、今回は料理だったからいいが……俺の世話とかになると二日で俺は駄目人間になる」


 昔……というか異世界であるミソロジアの話だが、こいつの奉仕欲が爆発したとき、俺はそれはもうやばいレベルの駄目人間になった。何があったかを端的に言うのなら、気づけば全部終わってるのだ。

 

 料理、洗濯、着替えまでも何故かいつの間にか終わっていて――何もしなくても生きていける状態に堕とされた。ラウラも経験してるだろうが、あれは――やばい。


「ッ楽園でござるか!?」


「椿だったか? 前に沢山料理を食べていたと、あの糞馬鹿魔法使いに聞いたのでな、食材を増やしいつもより料理を多く作らせて貰った。主も存分に食べてくれ」


 バアル……それは豊穣の神としての側面を持つ、悪魔に堕とされた怪物。

 故に――こいつは作物を魔力がある限り増やせる能力を持っているのだ。


「うん、ありがとうな――だけどさ、何人か喚んでいいか?」


「む、主よ……それなら新入りが大食らいだぞ?」


「あぁ――ベヒ子か、ならうん――【サモン】ベヒーモス」


 そういえば、前の満漢全席事件でも……こいつは沢山食っていたなと、そんな事を思いながら――俺は追加で何人か召喚獣を喚んで、無限とも言える料理と相対した。

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