第61話:顕現――嵐の王

 迎えたのは三連休二日目、椿さんの家が所有しているという別の山でバーベキューをすることになった俺達は、電車に揺られた後でかなり広々とした山の中にいた。


「山だな我が友!」


「あぁそうだけど、なんかテンション高くないかカイザー?」


「それはそうだろう! 山と言えば修行! それに、虫取り! あと川で釣り!」


「……確かに楽しそうだな、あとでやろうぜカイザー」


 青春というか……確かに山でバーベキューだけするのは勿体ないし、遊ぶならどこまでも遊びたい。だから虫取りして釣りして……あとは修行になるのか?


「馬鹿二人だな」


「お前も虫取り好きだろ、遊びに行ったときカブトムシ育ててるの見たぞ」


「そりゃあ浪漫だろ? 赤いほど良い」


「赤ジャンキーがよぉ、たまには別のバンダナつけたらどうだ?」


「俺のアイデンティティーを奪う気か親友!?」


「いや、十分濃いぞお前は……」


 そんな事で盛り上がりながらも、俺達が歩きながら駄弁っていると、動きやすいようにかワンピースで山に来ていると綾音とラウラが声をかけてきた。


「こんなに生き生きとした貴様を見るのは久しぶりだな、相変わらず子供っぽいぞ」


「昔からだよね、霊真と式が山でテンション上がるのって……私前に家族で来たとき一日中釣りとかに付き合ったし……懐かしいよ」


「だって二人とも山だぞ――後、気になったんだが今俺等は何処向かってるんだ?」


 水色のワンピースに麦わら帽子の綾音。

 ……相変わらず黒が好きなのか黒いワンピースを着ているラウラ……そして今回の主催である椿さんはいつ通りの和装であり、どんどん山の奥に進んでいる。


「よし皆殿ついたでござるよー! 今回の修行場でござる!」


「……まぁ修行第一の椿さんらしいが、俺等で戦うのか?」


「……それも楽しそうなのでござるが、今回は霊真殿の召喚獣の力を借りたいと思いまして……一度Sランクと呼ばれる召喚獣と戦ってみたいのでござる」


「えぇ――まぁ別に良いですけど、どうしてですか?」


「理由はどうあれ、ラウラとルナ殿の戦闘を見て実力不足を実感し――鍛錬を続けたのでござるが、あまり納得が出来ず……いっそのこと霊真殿の召喚獣の皆様に相手になってほしいなって思った感じでござるな」


 あぁーまあ理由は納得できるが……椿さんの修行相手になりそうなやつかぁ。

 いや、居るには居るけど……刀の修行をしてくれそうなやつに碌なのがいないんだよな。ミソロジアの和国で仲間になった奴は日本の神話からの面々が多く、確かに助けにはなりそうだけど……性格と大きさがまじでやばい。


 とりあえず瞑想する要領で心の中に誰か暇な奴いるか? と聞いてみたところ、ほぼ全員から呼べコールが……。

 まじでどうしようと思っていると、その中で一際大きい声の奴の存在に気づいてしまい、そいつが一応の常識枠だったことからとりあえずそいつを呼ぶことにした。


「……えっと【サモン】バアル・ワイルドハント」


 軽い気持ちで呼んだ瞬間、この場に嵐が吹き始める。

 ……悪寒というか、生命が覚えるだろう本能的かつ根源的な恐怖が場を支配して――その存在がこの場に顕現する。


 聞こえるのは馬のいななき、どこからか喇叭らっぱの音が響き渡り……それの顕現を祝福するかのように音がどんどん大きく荘厳なものへと変わる。

 木々が揺らめき、ざわつき、この場が夜へと沈む――それどころか、虚空から彼の声が響き渡り始めた。


「我は嵐、我は死、我は災い――挑戦者よ、我という厄災に挑む覚悟はあるか?」


 そして、この場が嵐の夜へと塗り潰される。

 ……こいつなりの場への配慮だろうが、結界が展開されて……そのまま俺等は見知らぬ場所へと移動させられた。


「我が主より賜りし名は――バアル。嵐と慈雨を司り、死の群と称され称えられた――バアル・ワイルドハントである!」


 そして現れるのは、青い炎と嵐を纏う死の大王。

 ……俺の召喚獣の中でも珍しい原典を二つ持つ、魔力を三割ほど使い顕現しやがった大馬鹿者だ。

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