第18話

早く行かないと無くなっちゃうかもしれないですから、と遥は言った。―――これが久遠の運命を左右することとなるのを、彼女は知らずに。


***


「間に合って良かったわね」

「うん!私達でちょうど終わりだったみたいだもん」

無事に整理券を貰えた3人は、ここに来た最大の目的である、久遠の服を買いに店を見てまわっていた。どの店も個性豊かで、思わず目移りしてしまう。

『...なんだろう、見られてる気がする...』

しかし久遠は先ほどから、店よりも人の視線が気になっていた。通行人のなかには、こちらをチラチラと見てくる者がいるからだ。

『やっぱり、この格好は失敗だったかな...』

サングラスとフェルトハットの組み合わせは、如何せん目立ってしまうのか。久遠がため息をつくと、遥がどうかしましたか?と顔を覗き込んできた。

「いや...なんか、さっきから人の視線が気になって...」

「あっ、それはきっと」


久遠さんが素敵だからだと思います、と顔を綻ばせ遥は答えた。

「だって、視線のほとんどが女性じゃないですか」

彼女から言われてから気づいたが、確かに視線は女性からのものばかりだった。

「そうか...それなら良かった。僕はてっきり、この格好が変で怪しまれていたのかと思ってたから」

「全然!久遠さんのその格好、素敵ですよ」

「ありがとう」

遥にそう言われて、久遠は気を回すのは杞憂だと気づいた。と、安心した久遠の目には一件の店が留まる。

「...」

「久遠君、あのお店が気になるのかしら?」

無意識のうちに眺めていたようで、恵美は彼があの店に興味を示していることに気がついた。

「あ、はい。...見に行ってもいいですか?」

「もちろんよ。いっそのこと、ここで一式揃えたらどうかしら」

それと、と恵美は微笑みながら久遠に財布を渡した。

「その予算の範囲内なら、自由に使って構わないですから。時間は気にせず、久遠君の望むものを買ってくださいね」

それまで私達はあそこで待ってるわと、恵美は遥を連れ向かいの雑貨屋に行ってしまった。

『あ...』

礼を言う間もなく去ってしまった彼女達の方から、手に持っている財布へ視線を移す。

『貰っちゃったけど、本当にいいのかな...』

自分は、昨日会ったばかりの他人。それなのに居場所を提供したり衣服を買うためのお金を渡すなど、普通の人はここまでしないだろう。それを、恵美は平気でやってみせた。

『―――また、人を疑うような考えを...』

彼女達はこちらに親身になってくれているというのに、また自分から壁を作ってしまうのか。彼は眉間にしわを寄せる。

「...行こう」

これ以上疑心が生じないうちに、久遠は眼前の店に向かった。


***


「淡雪色の、お洋服...メイクも、完璧」

簡素な部屋のなか、大きな楕円型の鏡の前で、ハイヒールを履いた一人の女性が身なりを整えていた。後ろ、前と全身を入念にチェックした彼女は、ニコッと口角を上げる。

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