第17話

「それにしても、これ美味しいね。名前、なんて言うの?」

久遠は興味深そうに、手に持ったカップを見つめる。

「この黒い粒は、タピオカって言うんですよ」

モチモチして美味しいですよね!と遥が答えた。彼女はこれが大好きらしく、満面の笑みで説明してくれた。

「へぇ...タピオカっていうんだ」

彼はそう呟くと、また一口飲む。抹茶のほど良い甘みと、モチモチとしたタピオカの絶妙なハーモニーに、彼は虜となった。と、その時、天井に設置されたスピーカーから案内放送が聞こえた。

《お客様の皆様に、本日のイベントをお知らせいたします。本日午後3時より...》

「あら、何かしら」

3人はスピーカーに耳を傾ける。しかし、いくら耳を澄ませても音声は周囲の雑音にかき消されはっきり聞こえない。

《...による...が1階ホールで行われます。整理券をご希望の方は...》

「肝心な所が聞こえなかったですね...」

何があるんでしょうか、と久遠が言った。よく分からなかったが、もうすぐ何かのイベントの整理券を配るようだった。すると、遥がどこからか貰ってきたパンフレットを、テーブルの上に広げる。


「今日ここに、人気急上昇中の歌手がくるみたいなんです。多分、さっきの放送はこのことを言っていたんだと思う」

遥の指差すところを見ると、″イベント欄″とあるそこには確かに、歌手と紹介されている人物が載っていた。白茶色の髪に伽羅色の瞳をした、色白な若い女性。長い髪を横にゆるく束ねたワンピース姿の彼女は、清純な印象を持たせた。

「この人、たしか昨日音楽番組に出てたわよね」

「うん。確か名前は...そうそう、"冬華(ふゆか)"さん」

ここに来るんだ、とか彼女の歌好きなのよねと、彼女の話題で恵美と遥は盛り上がる。

「...恵美さんと遥さんは、その人に会いたいんですか?」

全く話しについていけない久遠は、まごつきながらも2人に質問する。

「...私は出来れば行きたいです!こんな機会、なかなかないので...」

「私も、娘と同じ意見だけれど...久遠君は?」

「お二人が同じ考えなら、僕はそれに合わせます」

彼はこれといって特に興味がなかったが、彼女達が会うことに乗り気なのに、反対する訳がない。

「じゃあ、急いで整理券貰いに行きましょう?」

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